家捜し競作SS



   「ある夏の日の出来事」



 8月の上旬。
 真っ青な空と白い雲、まさに夏!!という感じの天気になった。
 今日は、最近気になる存在の男の子、主人公二くんと一緒に海に行くことになっている。
「ちょっと早く来すぎたかな?」
 時計はまだ8時半を指している。
 待ち合わせの時間まで、まだ30分もある。
「ふふ。前は私の方が遅れることが多かったのに」
 公二との付き合いも3年目になる。
 これまで何回かデートをして遅れたことがあるが、一度も怒られたことがない。
 それは、自分のことを想ってくれているからだろうか。
「でも、この待っている時間ていうのも結構好きだなぁ。公二くんもそう思ってくれていたら、
 嬉しいんだけど。あっ!」
 公二の姿を見つけた花桜梨は、小さく手を振った。
 すると、公二は驚いた顔で駆けてくる。
「花桜梨さん、ごめん」
「公二くん。おはよう」
「おはよう。それよりも待った?早く家を出たつもりだったんだけど」
 公二は困ったような顔をして、腕時計を確認する。
 まだ9時までは10分ある。
「ううん。いま来たところだよ」
「そ、そう?良かった。じゃあ、行こう」
「うん」
 30度を越す猛暑から一転、涼しい電車へと飛び乗る。


「あっつ〜、気温上がったんじゃないか?」
 冷房が効いた電車を降りると、外の熱気が二人の身体を襲う。
「ホントね。でも、潮風が心地いい。早く海に入りたいな」
 海岸から吹いてくる風が、海を感じさせてくれる。
「海はもうすぐそこだよ。行こう花桜梨さん」
「そうね」
 駅を出て10分程歩くと、一面の青が広がっていた。
 空の青と海の分かれ目が溶け合って、青一色といった感じだ。
「う〜ん、気持ちいいね」
 花桜梨は、目の前に広がる景色を見ながら伸びをする。
「そうだね。よしっ、あそこにしよう」
 目の前にあった海の家「こばやし」を指差す。
「うん」


 二人は荷物を預けてから、更衣室前で別れた。
 アッという間に着替えた公二は、出口で一人花桜梨を待つ。
「早く来ないかなぁ、花桜梨さん」
「お待たせ・・・・・」
 その声に振り向くと、真っ白なワンピースを着た花桜梨が立っていた。
「この水着・・・・・どうかな?」
『おおっ、ナイスバディ!!』
匠の情報からすると、上から86ー61ー88、169cmの長身からすらりと伸びた
 手足もバランス良く、見事なプロモーションを作っている。
「花桜梨さん、すごいセクシーだよ」
「セ、セクシーだなんて・・・・・からかわないで」
 『似合ってるよ』とか『可愛いよ』という答えは予想していたが、どちらでもない『セクシー』
 という言葉に赤面してしまう。
「・・・・・ホントに?」
「うんうん」
「ちょっと・・・・・嬉しいかな」
 ボソッと小さく呟く。
「えっ?」
「な、なんでもないわ。早く泳ぎましょう」
 慌てて誤魔化すと、公二を残し海へと走る。
「待ってよ、花桜梨さん」
 軽く準備運動をした後、二人は勢いよく海へ入って行った。


 それからお昼までの間、二人はビーチボールやイルカのボートなどで、思う存分遊んだ。
「花桜梨さん、そろそろお昼にしようよ」
「そうね。お腹空いちゃった」
 海の家に戻った二人は、空いている席に向かい合って座った。
「何にする?花桜梨さん」
「そうね、やっぱり海といったら、焼きそばと、とうもろこしかな」
「ははは、あとはかき氷だね」
「ふふふ、そうね」
『ん?』
 花桜梨は、自分が笑うと公二が反応しているように見えた。
『気のせい・・・・・かな?』


「なんだって」
「へ〜、そうなんだ」
 運ばれてきた焼きそばを幸せそうに食べる彼と、こうして楽しくお喋りをして
 いると、自分も変わったなとしみじみ思う。
 ひびきの高校に入学した時、心を閉ざし友達なんて作らないと決めていた自分。
 そんな私をいつも気に掛けてくれて、一緒にいてくれた男の子がこの人だ。
 彼のおかげで、寂しいと思うことも少なかった。

「それでね、花桜梨さん。・・・・・花桜梨さん?」
 海の方を向いて考え事をしているのか、公二の声に気が付かない。
「???おっ」
 口を挟まない方が良いだろうと別の方を向くと、そこには・・・・・。

『彼は、いつも私の話を真剣に聞いてくれる』
 そして、いつの頃からだろう。
 少しずつ彼に惹かれていっている自分に気が付いたのは。
 この気持ちは、やはり好きというものだろうか。
 4月のあの日、中央公園で彼にあの事を話す気になったのは、本当の私を知って
 欲しかったから。
『やっぱり私は・・・・・、公二くんのことが』
 年下の彼だけど、そんなのは関係ない。
『彼は、私のことをどう思ってるのかな?』
 ふと公二の方に向き直ると、公二は外を見ていた。
 その視線の先を追っていくと、そこにはビキニを着た女子大生らしき三人組が歩いていた。
 公二の視線に気が付いたのか、手なんか振っている。
「おおっ?」
 それに反応して公二も手を振り返す。
「・・・・・公二くん。なに・・・・・、やってるの?」
「わわっ、花桜梨さん」
 するどい眼光で公二を突き刺す。
「ご、ごめん。だって花桜梨さん、呼んでも答えてくれないから」
 顔色を伺いながら言い訳をする。
「えっ、・・・・・そうだった?」
「そうだよ」
「・・・・・、ごめんなさい。私も悪かったわね」
「ううん」
 ぶんぶんと激しく首を振る。
『こわ〜。去年までの花桜梨さんに戻ったかと思ったよ〜』



 浜辺で行われていたビーチボール大会に飛び入り参加したり、午後も遊びまくった
 二人は、心地よい疲れを感じながら、ひびきの市へと戻ってきた。
「今日は楽しかったね。送っていくから一緒に帰ろう」
 最近のデートの帰りは、いつも送ってもらっている。
 しかし今日の花桜梨は、このまま帰りたくなかった。
 もっと話をしてみて、公二の気持ちを探りたいという思いがあった。
「ね、ねぇ・・・・・。公二くんの家に・・・・・寄っていい?もうちょっと、お話し・・・・・したいから」
「えっ?それはもちろん大歓迎だけど・・・」
 アゴに手をやり、ちょっと考える。
「なにか・・・・・、問題あるの?」
「いやなんでも。じゃ、行こうか」
「うん」
 駅から出ると、公二の家へと向かって歩き始めた。


カチャ
「さっ、どうぞ」
 家に着いた公二は、鍵を使ってドアを開ける。
「あれっ?誰も・・・いないの?」
「う、うん。昨日から、俺を置いて旅行に行っちゃったんだ」
「えっ?」
 花桜梨の足が止まる。
「花桜梨さん?」
『公二くんに限って・・・・・、大丈夫よね』
 まさか公二が変なことをするとは思えないが。
「花桜梨さん?」
「えっ?何でもないわ。お邪魔します」
「俺の部屋は二階だから」
「うん」
 二人は階段を上っていく。


「どうぞ」
 ドアを開けて中へと促す。
「ありがとう」
「いま飲み物持ってくるから、適当に座ってて」
「うん」
 公二は花桜梨を残して下へと降りる。
「きれいなお部屋」
 中に入ると、そこは思ったよりも片づいたシンプルな部屋だった。
 ぐるりと眺めていると、下から公二の声がした。
「花桜梨さ〜ん」
「なに?」
 ドアから顔を出すと、吹き抜けから玄関で靴を履いている公二が見えた。
「あっ、飲み物がなんにもなかったから、ちょっと買ってくる」
「えっ?私も行くから、ちょっと待って」
「いいって、花桜梨さんはお客さんなんだから。おとなしく待っててよ」
 部屋から出ようとする花桜梨を制する。
「そう?」
「うん。ちょっと行って来るから」
「気を付けてね」
 公二は手を振って玄関を出ていった。
バタン
「ふう。気を遣わせちゃったわね」
 そう呟きながら、窓から公二の姿を見送ろうとすると、机の上にノートが
 置きっぱなしになっているのが目に止まる。
「日記だ・・・・・」
 表紙の文字を見て、誰もいないのに周りを見てしまう。
「公二くんの日記か・・・・・」
 この中には、公二の思い出が書かれている。
 もしかしたら、自分のことも書いてあるかも知れない。
 罪悪感を感じつつも、公二の胸の内を知りたいという気持ちが勝り、それに手が伸びる。
 その表紙には、『平成11年4月〜』と書かれてあった。
 どうやら、高校に入学してからつけているらしい。
「ちょっとだけ・・・・・・・」


『昨日、この街に戻ってきた。今日は高校の入学式があり、そこで光と再会した』
 1年目の初日のことが書いてあった。
「公二くんは7年ぶりに帰ってきて、不安とかなかったのかな?」
 パラパラと流し読みしていくと、『光』という文字が頻繁に出てきた。
「ここも、ここにもある」
 これでは、好きと書いているのと同じ事だ。
 5月中旬までは、『光』の文字をたくさん見つけた。
「彼、陽ノ下さんのことが・・・・・」
 公二と光が幼なじみなのは前から知っていたが、まさか好きだったとは思わなかった。
「・・・・・」
 そう考えたら、胸がチクリと痛んだ。
「あっ、私だ」
 5月12日、花桜梨の名前が初めて出てきた。
『今日屋上で『やえ かおり』という女の子に会った。話しかけても素っ気なく、
 名前だけ言って、すぐにどこかへ行ってしまった。漢字でなんて書くのだろうか』
 花桜梨の口に笑みが浮かぶ。
「そうだったわね」
 あの頃は友達もなく、昼休みになれば屋上で、何をすることもなく一人街の景色を見ていた。
「!!」
『なぜだろう、寂しい目をしているのが印象に残った』
 そんなことが最後に書かれていた。
「公二くん・・・・・」
 それからの日記は『光』の文字が少なくなり、『花桜梨』の文字が多くなっていった。

 7月以降、毎日書いているわけではないが、書いてある日は必ずといっていいほど
花桜梨が出てきた。

    『花桜梨さんに、『やえかおり』は『八重花桜梨』と書くと教えてもらった』
    『花桜梨さんと話した。まだ素っ気ない』
    『花桜梨さんが、ちょっと笑ってくれた』
    『花桜梨さんって、ちょっと意地っ張り?』
    『花桜梨さんの表情が、ほんのちょっと変わった気がした』
    『花桜梨さんと修学旅行の沖縄で星を見た。星にも負けないくらい横顔がきれいだった』
    『花桜梨さんが、公園で本当の花桜梨さんを見せてくれた。嬉しかった』
    『花桜梨さんがバレー部に入部した。これで一緒の時間が多くなる』


    『徐々にだが、本来の明るい花桜梨さんに戻っている気がする。
     俺は手助けできているだろうか。このままずっと、同じ時間、同じ空間を過ごしたい』


「こんなにも・・・・・、私のことを気に掛けてくれていたなんて・・・・・」
 公二の優しさに触れた花桜梨の瞳から、一筋の涙が零れる。
「公二くんも、わたしの事を?あっ、昨日のだわ」

    『明日は花桜梨さんと海に行く。すごく楽しみだ。彼女はどんな水着を着るのだろう。
     いやいや、そんなことはどうでもいい。花桜梨さんがどれだけ楽しんでくれるのかが問題だ。
     何回笑ってくれるのだろう。いまから楽しみだけど、緊張もしている。
     明日の日記でいいことが書けると良いのだが・・・・・』


「そっか、そんなことを考えていたんだ」
 今日の公二は、自分が笑うたびに反応していたのを思い出す。
「それにしても、女の子の水着ってそんなに気になるものなんだ。ふふふ」



「ただいま〜」
「あっ!!」
 公二が帰ってきた。
 日記を机の上の本立てに挟んで、何事もなかったようにクッションに座る。
「お待たせ花桜梨さん。待ったでしょ」
「う、ううん」
 あの日記を読んだ後だけに、なんだか言葉に詰まる。
 公二は、買ってきた無糖・ミルクなしのアイスコーヒーをコップに注ぐ。
「あっ、わたし・・・やるから」
「いいから、花桜梨さんはお客様なんだから。言ったでしょ、さっき」
 ペットボトルを持とうとする花桜梨の手を遮る。
「う、うん・・・・・」
「花桜梨さんはブラックで良いよね?」
「う、うん。そう」
 それから1時間あまり、時間を忘れてお喋りをした。
 公二のアルバムを出してきて、小学校の話や子供の頃に流行った遊びとか、
 いろんな事を話した。


 何時間こうしていただろう。
 空は真っ赤になり、夕焼けの色が窓から差し込んでくる頃、公二の身体が揺れだした。
 気を遣ったのか、だいぶ疲れているらしい。
「公二くん?」
「あっ、ごめん花桜梨さん。なんだか眠くて・・・・・。ビーチバレーで張り切りすぎたかな」
 目をこすりながら、ブツブツと呟く。
「ふふふ、そうね。あんなに頑張ってたもの。いいよ、ちょっと眠ったら?」
「で、でも、お客さんを放って置いて寝るわけには・・・・・」
 と言いつつも、意識が朦朧としてくる。
「いいから」
「う、うん」
 そのまま後ろに倒れ込み寝入ってしまう。
「スー、スー、スー」
「ふふ」
 そんな寝顔を見ていると、なんだか公二が愛おしくなってくる。
 花桜梨は立ち上がり、公二の横へと座る。
 そしてそっと頭を持ち上げて、膝の上に乗せた。
「スー、スー、スー」
「ふふふ、かわいい寝顔」


   素っ気なかった自分。
   やる気がなかった自分。
   誰のことも信じようとしなかった自分。



「そんなんじゃ、誰も私のことを信じてくれないよね」
 こんな自分を変えてくれたのは、いつも側にいてくれたのは、この男の子だ。
 そして、これからも一緒にいたいと思う。
「気持ちいい」
 窓からは、涼しい風が微かに吹いてきた。
 カーテンが揺らぎ、二人の髪が乱れる。
 花桜梨は自分の髪を直すと、公二の髪にも触れてみる。
「んっ」
「!!」
 公二が少し反応する。
「スー、スー、スー」
「びっくりした」
 花桜梨の顔が赤いのは、夕日のせいだけではない。
 公二への想い、この気持ちはもう止めることが出来ない。
「好きよ」
 寝息をたてる公二に、小さく呟く。
「俺もだよ」
「きゃ!」
 ふいに公二が目を開ける。
「起きて・・・・・たの?」
「うん」
「この・・・・・、嘘つき・・・・・」
「ごめん」
 公二の額をコツンと小突く。
 まるで、悪戯っ子の弟を叱るお姉さんのように。
 そして二人はしばらくの間、黙って見つめ合う。
       ・
       ・
       ・
       ・
       ・
「花桜梨さん」
「公二くん」
 公二の優しい瞳に吸い込まれるように、花桜梨の顔が近づく。



             目を閉じる二人。



             そっと唇が重なり、



             お互いの想いを実感する。



          それは、ある夏の日の出来事




                おしまい



 あとがき


 第32話を読んだ詩織倫さんの書き込みから始まった企画ですが、
 楽しんでいただけましたか?

 それにしても、ベタなタイトルですな。
 まあそれは良いとして、32話裏のような展開を期待していた方もいたと思いますが、
 2のキャラ中で、一番お気に入りの花桜梨さんの初SSは、
 どうしても甘いのを書きたかったんです。

 公二が花桜梨と付き合っていく中で、花桜梨のことをどういう目で見ていたのか、
 と言うよりも、作者自身の目なんですけど。
 感じが出ていたでしょうか。


 さて、他の作家さんのはどんなものかなと、お先に読ませていただきました。
 ギャグあり、甘いのあり、一捻りしたのあり、楽しませて頂きました。

 また機会があったら、いろんな企画をやってみたいです。
 その時は、これを読んでいるそこの貴方も参加してみませんか?
 お待ちしております。

 では、本編でお会いしましょう。(^^)/~~~

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