家捜し競作SS


「たった一つのこの想い」





カキーン!!
 ノックの音が、合宿所のグラウンドに響き渡る夏。
 そこには、野球部の練習している姿があった。
「これで全部取り込んだよね」
 そのとき楓子は、部員に配る乾かしていたタオルを取り込んでいる最中だった。
 何枚も積み重なったタオルを、運ぼうとしたその時。
ゴロン
「きゃっ」
 楓子は足元にあったボールに足を滑らせ、身体が宙返りしそうになった。
「危ない!」
どさっ
 誰かの腕が、楓子の身体を受け止めた。
 楓子は驚いて目をつぶっていたため、その目を開いた。
「こ、公二君」
 目の前に公二の顔があったため、顔が真っ赤になる。
「大丈夫?」
「う、うん。あ、ありがと」
 公二は、楓子の体をゆっくりと降ろした。
 その時、楓子の胸はドキドキしていた。
 公二に抱きかかえられたことに、よほど驚いたのだろう。
「と、ところで、どうしたの?」
「部室にタオルを取りに行こうとしてたんだ」
「あっ、それじゃあ、これ使って」
 楓子は手元にあったタオルを渡した。
「ありがと。それにしても佐倉さん、よく1枚も落とさなかったね」
「え?あっ、ホントだ」
「さすがマネージャの鏡だね」
 公二は受け取ったタオルで汗を拭く。
「えへへ、ありがと」
 楓子は公二の隣で、真っ青な空を見上げながら呟く。
「甲子園、惜しかったよね」
「うん」
「先輩達は、甲子園に出られただけでも満足してたけど。公二くんも試合に出られて良かったよね」
「そうだね。来年こそは甲子園で優勝しなきゃね」
 楓子は小声でつぶやいた。
「来年・・・・・か」 
 楓子の表情が一瞬曇った。
「それじゃ、練習に戻るから」
「うん。がんばってね」
 公二はニコッとした顔を楓子に見せ、グラウンドに戻っていった。
 その後、練習が終わるまでの楓子の表情は冴えなかった。


 その夜。
 公二を花火に誘うため、楓子は夕食が終わった後、公二の部屋へ向かった。
 そして部屋の前に着くと、緊張しながらドアを3回ノックした。
コンコンコン
ガチャ
「あれ佐倉さん?どうしたの」
「あ、あのね。花火持ってきたんだけど、良かったらいっしょにやらない?」
 楓子はモジモジしながら言った。
「うん。いいよ」
 公二は即答した。
「本当?じゃあ、部屋から花火持ってくるから、先に外へ行ってて」
「わかった。俺はバケツ持ってくるよ」
「うん。お願い」
 楓子は足を急がせて、自分の部屋から花火セットを持ち出し外へ向かった。


「公二君、お待たせ」
「うん。じゃあやろうか」
 公二は持ってきたバケツに水を汲み、花火セットの袋を開け、ろうそくに火をつけた。
 二人は花火を一本ずつ取り、その先に火をつけた。
シャアーーーーー
「うわぁ、綺麗だね〜」
「本当だね」
 その花火は何色もの火花を散らせ、二人の目に大きく輝いていた。


 その後も花火を続け、残りは線香花火だけとなった。
「やっぱり最後は、これだよね」
 楓子は公二に一本線香花火を渡し、自分も一本取った。
 そして火をつける。
パチパチパチ
 線香花火が散る中、楓子は公二に声を掛けた。
「ねえ、1つ聞いてもいいかな?」
「なに?」
「あのね。もし自分の好きな子が遠くへ行ったら、どう思う?」
「えっ、どうして?」
「お願い。答えて」
 その時の楓子の目は悲しそうだった。
 今までこんな表情は見せたことがなかった。
 そう思いながら公二は話した。
「そうだな。好きな子が遠くに行くなんて今まで考えたことなかったけど、やっぱり悲しいな。
 もしそうなったら、想いを伝えるかもしれない」
「・・・・・そう」
 線香花火の火が落ちて消え、楓子はうつむいた。
「どうしたの?佐倉さん」
 楓子は泣きそうになっていた。
 逃げ出したい、泣きたい、そう思いながら口を開いた。
「わたし、私ね」
「ん?」
 楓子は話そうと思った。
「ううん、なんでもない。花火も終わったし、そろそろ戻ろう」
 しかし、言葉にならなかった。
 公二はちょっと首を傾げたが、何も聞かずにそれにしたがった。
「うん。そうしようか」
『いま話すのはやめよう。もう少ししてからにしよう』
 この時の楓子はそう思い、話すのをやめた。


 楓子は花火を片付けた後、公二と別れ自分の部屋へ戻った。
「どうして私、あんなこと聞いたんだろ。やっぱりわたしは、公二君のことが好きだからだよね」
 楓子は横になり、枕に顔をうずめて泣いた。
 やっぱり、あの時公二に想いを伝えたかった。
 しかし、どんな返事が返ってくるのか考え、怖いと思った自分を責めた。
 楓子はそのまま眠りにつき、夏合宿の夜はふけていった・・・・・・・。


 合宿が終わった。
 次の日の日曜日。
「どうしよう。どうやって伝えようかな〜。口から言うのは恥ずかしいし」
 楓子は、頭を抱え込んで悩んでいた。
「やっぱり手紙で伝えようかな〜。それだったら簡単に想いを書けるし」
 意外と早い決断だった。
 そう思った楓子は、引出しから柄のない白いレターセットを取り出し机に向かった。
 着々と進んでいく中、楓子はいつの間にか涙を流していた。
 その涙が一つの文章に流れ落ちた。
 そこには、こう書かれてあった。
『あなたと別れたくない』
 公二と離れたくない。
 そう思いながら最後の文を書き込んだ。
 書き終わった手紙を封筒の中に閉じ込み、そして机の引出しにそっと入れた。
「金曜日に渡そう」
 そう決心して。


 金曜日までの楓子は、公二とはあまり会話を交わさなかった。
 話す気がなかったわけではない。
 公二と話すと悲しくなってくると思ったからだ。


 そして金曜日。
「ああ〜、恥ずかしいな。やっぱりやめようかな〜。ううん、ダメ。今日こそ彼に渡さなきゃ」
 校門にもたれながら公二を待っていた楓子は、歩いてくる公二を発見すると、慌てて陰に隠れた。
「ねぇ、公二君」
 モジモジしながら出てきた楓子は、帰ろうとする公二に話し掛けた。
「わっ!!佐倉さん。なに?」
「こ、これ」
バッ!
 後ろに隠し持っていた手紙を、勢いよく差し出す。
「なに?これ」
「そ、それ読んで」
 楓子は、サクランボのように顔を赤くする。
「分かった」
 公二が手紙の袋を開けようとしたとき。
「だめーーーーーーーーー」
「うわぁ!」
 おとなしい楓子の声とは思えない大声に、公二は飛び跳ねるほど驚いた。
「ど、どうしたの?」
「そ、それは、あさって読んで。お願い」
「明後日?どうして?」
「と、とにかくあさって。ねっ、お願い」
「う、うん分かった」
 公二が手紙をバックにしまうのを見届けると、楓子は安心して公二と別れた。


 次の日。
「ああっーーー、どうしようーーー」
 楓子は、またもや部屋で足をバタバタさせながら悩んでいた。
「あんなこと書くんじゃなかったよ〜」
 そして悩んだあげく、結論を導き出した。
「よし、彼の家に手紙を探しに行こう」
 早速受話器を取り、公二の家の電話番号を入れる。

プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル
ガチャ
「はい、主人です」
「もしもし、佐倉ですけど」
「あ、佐倉さん。何か用?」
「あ、あのね、今から公二君ちに行ってもいいかなぁ」
「え、別にいいよ」
「本当?」
 楓子はうれしそうに声をあげた。
「じゃあ、今から行くね」
「うん。待ってるから」
ガチャ
 電話を切ると、楓子はすぐに出かける用意をして家を出た。



「ドキドキしちゃう」
 公二の家についた楓子は、胸に手を当てながらインターホンを押した。
ピンポーン
カチャ
「あっ、佐倉さん。いらっしゃい」
「こ、こんにちわ」
 ドアから出てきた公二の顔を見て、思わず赤面してしまう。
「まあ、中に入って」
「おじゃましま〜す」
「ちょっとお茶を入れてくるから、部屋に行ってて」
「うん。分かった」
 楓子は階段を上がり、公二の部屋へ入った。
「わあ。綺麗なお部屋」
 部屋の周りを見渡す。
「そうだ!手紙を探さなきゃ」
 悠長に見渡している場合ではない。
 楓子は急いで探し始めた。
ガララ
 まずは、机の引出しを開けてみる。
「どこだろう〜?」
 引出しの中をガサゴゾと探したが、そこにはなかった。
「部活のバックの中かな〜」
 そう思った楓子は、バックの中を探し始めた。
「ないな〜。どこにあるんだろう?」
 もう一度、ありそうなところがないか見渡すと、押入れが目に入った。
「あ、あそこかな?」
 普通の人は押入れにあるとは思わないのだが、楓子はそこにあると思った。
 押入れを開けるとそこには、大量の本が山積みになっていた。
「すごい量」
 そこには、ざっと200冊ぐらいあるように見えた。
「そういえば友達が前言ってたけど、男の人は1冊ぐらいHな本を持っているって言ってたな」
 楓子は、山積みになっている本を見ていった。
 大体は情報誌やスポーツ系の本や週刊誌、漫画の雑誌だった。
 すでに手紙を探すことは頭にないようだ。
 あれでもない、これでもないと漁っていると、1冊の本が目についた。
「あっ、これって」
 とうとうH本らしき物を発見した。
 しかし、その本のページをめくろうとしたその時。
ガチャ
 部屋のドアが開いた。
「わっ!!」
 驚いた楓子は、持っていたH本を放り出してしまった。
バサッ!
 それが、微妙なバランスを保っていた山積みの本にぶつかり、崩れた大量の本が
 雪崩れのように楓子に降りかかってきた。
「きゃーーーーー」
 楓子は、大量の本の生き埋めになってしまった。
「大丈夫、佐倉さん」
 公二は慌てて本をどかしたが、そこには目をまわしている楓子の顔があった。


 しばらくすると楓子は目を覚ました。
「気がついた?」
 そこは公二のベットの上だった。
 気絶した楓子をベットに寝かせ、本を整理した公二は、ずっと側で楓子を見ていた。
「えっ、私どうしてたの」
 ベットから起きあがり、公二の顔を見る。
「本に埋もれて気絶してたんだよ」
「えっ、嘘!?恥ずかしい。・・・・・もしかして、寝顔・・・見た?」
「うん。可愛かったよ」
「えっ?そ、そんな〜」
 頬に両手をあて、頭から蒸気が出るんじゃいかというくらい赤くなる。
「ところで、何してたの」
 公二は少し怒ったような顔で言う。
「えっ、そ、それは」
「ちゃんと説明してくれれば、許してあげるよ」
「・・・・・実は、手紙を探してたの」
 楓子は観念して、正直に打ち明けた。
「てがみ?」
「うん。この前渡した手紙」
「あれなら、机の上にあるよ」
 公二が机の方を見る。
「えっ?ホント?」
 そこには、確かに楓子が渡した手紙があった。
 どうやら机の上は目が入らなかったようだ。
 まさに『灯台もと暗し』というやつだ。
「でも、なんで手紙を探してたの」
「そ、それは」
 楓子は迷っていた。
 手紙の中身を話すか話さないかを。


 しばらく沈黙が続いた後、楓子は立ち上がり、机の上にあった手紙を破り捨てた。
 そして、公二の胸に飛び込んで泣き出した。
「さ、佐倉さん、どうしたの?」
 突然の涙に驚いた公二は、なんて言葉をかけたらいいのか分からなかった。
「恥ずかしくて、手紙で伝えようとしたけど、やっぱり自分の口から言うね」
 楓子は、止めどなく流れる涙を、手のひらで何度も拭いながら話し出した。
「私、私ね、明日・・・引っ越すの」
「えええっ?」
 公二は、その言葉に驚愕した。
「それとね。もう1つ言うことがあるの」
 公二から離れる。
 楓子の体は震えていて、今にも逃げ出しそうな気持ちになっていた。
「卒業まで言わないつもりだったけれど。こんなドジな私から言われたら
 迷惑かもしれないけれど。でも、勇気を出して言います」
 公二は、楓子の目をじっと見つめる。
「もう会えないかも知れないから、この気持ちを伝えます。あなたが・・・・・
 あなたが好きです」
 言い終わると、答えが恐くて下を向いてしまう。
「・・・・・俺も、佐倉さんが好きだよ」
「えっ!?」
 楓子は思いもしない言葉に驚いた。
 そして、ゆっくりと顔を上げる。
「そ、それ。ほ、本当?」
「本当だよ。好きだよ、佐倉さん」
 楓子はもう一度公二の胸に飛び込み、腕を背中に回しギュッと力を入れた。
 公二もそれに答えるように、思い切り抱きしめる。
「公二くん、痛いよ」
「ああ、ごめん」
 少し体を離し、吐息が感じられるほどすぐ目の前で見つめ合う。
 そして、唇が触れ合った。
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
 しばらくして唇が離れ、公二の口が開いた。
「向こうに行っても、忘れないよ」
「わたしも」
 二人とも、相手を想う優しい微笑みを浮かべ、いつまでも見つめ合っていた。
 時が止まることを祈りながら。


       おしまい

  あとがき

  SSを書いたことはあまりない上に、2の作品を書いたのはこれが初めてでした。
 最初は虹野さんを書こうと思ったんですが、最終的に佐倉さんにしました。
 
  どういう展開にするかいろいろ悩んで、やっぱり部活の部分がいいかなーと思ったり、
 ファンシーショップでデートがいいかなーと思ったり、いろいろ考えました。
 自分では良く出来たと思います。

  どなたか一人でも、この作品は面白いと思っていただけると嬉しいです。

  それでは。

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