『フレグランス〜移りゆく僕達〜』

     7

その日僕は、コンクールのうちあわせで顧問に呼ばれ、他の部員より長く居残っていた。
帰る頃には空が紫色とオレンジのマーブル模様のように見えた。
校庭には運動部員の姿もなく、練習の熱気さえもすっかりさめきっているようだった。
僕は校庭を抜け、学校をあとにしようとしたその時、
つま先にコツッとあたる感触を感じた。

気になって拾いあげるとそれは球体のガラスの小瓶だった。
鼻に近づけると微かに覚えのある香りが匂った。

「先輩がこれつけとけって・・・」

早乙女の言葉を思い出す。
同じ匂いだ・・・。

まだいるのかな?
僕は門から歩いて右にあるテニス部の部室に近づいた。
早乙女はテニス部ではない。
それでも今朝のコロンの理由を思い出してか足は自然とテニス部室にむかっていた。

遠目から部室の窓を見ると暗い。
だが、時々ちらちらと明るく光る。
僕は気になって、小さな窓から中を除いた。
僕は思わず窓に背をむけてしゃがみこんだ。

中を照らしていたのは間接照明なんかで使われるような高さの低い太めのキャンドルだった。
それはいい・・・。それはいいとして・・・。
僕はまぶたの裏で今見た光景を反芻していた。

薄暗い密室の中でゆらめくオレンジ色のキャンドルの灯り、その中に見覚えのある二人の重なりあう姿。

僕はもう一度中を覗いた。
部室の真ん中に置かれたステンレス製のテーブルその上で
早乙女が仰向けになってくちびるを薄くあけていた。
眉間にしわをよせ、それでいて切なそうにまぶたを閉じていた。
白い開襟シャツを肩まで脱いだ、早乙女より肩幅の少し広い男が早乙女の首すじをくちびるでなぞっていた。
早乙女のただ細くうきでただけの鎖骨が妙になまめかしい。

早乙女のシャツのボタンが上からのしかかった男の指によってひとつひとつはずされていく。
その男の指もまた太くごつごつしたものではなく女のそれのように細い。

ふとその細い人差し指にはめられたリングに目がいった。
細い指とは対照的なごついシルバーリングだった。
間違いなく相手の男は美馬先輩だった。

結局僕は徐々に乱れていく早乙女を見ていることができなくて、だまってその場を立ち去った。

不思議と嫌悪はなかった。
むしろその日の夜は下腹部が痛くてなかなか眠れなかった。

眠りにつくと夢の中に早乙女の痴態が昔の映画のフィルムのようにモノクロであらわれては消えた。
美馬の腕の中でのけぞって白い喉をみせてる早乙女はキレイだった。
今まで早乙女に対して抱いたことのない感情が僕の胸にわきおこった。
みずえに置き換えて想像した。
なぜか吐き気がした。