『それぞれのそれぞれ』
10
その日私は葉枯と早めの夕食を食べ帰宅した。
自分の部屋の椅子に腰かけて胸の涙型のネックレスのトップを指で触った。
夕食の前に立ち寄ったフリーマーケットで葉枯に買ってもらった2000円のアクセサリー。
売っていたおねえさんが言うにはイタリアに留学してた時10000円で買ったものだということだった。
透明なガラスの中に色とりどりの花が閉じ込められている。
「なんかプレゼントしたくって、でも高いものは買えないから」と葉枯は恥ずかしそうに言った。
「そんな、誕生日でもないのに・・」私はかえって恐縮してしまった。
夕食も交通費も葉枯さん持ちだったし。
彼は自分の無理のない範囲で私をもてなしてくれた。
そのことが嬉しかった。
いつもの習慣でパソコンを開くと、愛と緋呂子からメールが届いていた。
私はすっかりほうっておいた愛からのメールをドキりとしながら開いた。
期待を持たせたきりなんのフォローもしていなかった。
おそるおそる開いてみると、あまりにも気楽なのでほっとした。
『宇津見くんに告白したらふられちゃったよ(T0T)
今つきあってる人のことすごく好きなんだって。
でも友達になれたんだー。けっこう喋るようになったよ。
愛はあきらめないよー(*'へ'*)b いつかあたしの方がいいって
思わせてやるんだ(笑)』
そんなメールだった。
緋呂子からのメールははなっから気軽な気持ちでクリックできた。
いつもの旅行話や語学のこと観光業界のことあれこれだろうと
思ったから。
でも違った。
『Moon、今まで隠していてごめんなさい。
私はあなたに嘘をついていました。
私はあなたが嫌悪しているエスカレーター組生徒です。
外部組とエスカレーター組は仲良くできない雰囲気があったので
偽るしかありませんでした。
私のことはあなたも知っています。
私は白金陶子と一緒に行動している広小路ありすです。』
ヒロコウジ・・ヒロコ アドレスのワンダーランドはS女大を不思議なとこと皮肉ったわけではなく
不思議の国のありすのことだったんだ。
なんで気づかなかったんだろう・・
メールはまだ続きがあった。
『私は以前あなたとは現実には友達として会うことができない
と書いたけれど、これからは校内でも仲良くしませんか?
こんな180度も違うことを突然言うことに驚くでしょう。
お話します。もともとうちは裕福ではありませんでした。
田舎で少しの土地を持っていた母方の祖父が亡くなった時
1人娘だった母が遺産を相続したんです。
私が幼稚園の時でした。大手ではあっても平社員の父の給料は
決して多いものではありませんでした。
両親は相談をして祖父から受け継いだ遺産を私のために使おう
と決めたようです。
学費や寄付金の高い学校で教育をうけてきたのもそのせいです。
なんとなく後ろめたく思いながらも、周りにひけをとらないよう
見栄をはり、さも父親の稼ぎのいいお嬢さんを演じるのは大変でした。
でもそれをよしとしていた自分もいました。
いい気になってわがままを言って両親に余計なお金を使わせるような
こともしてきました。
裕福な自分という位置でいたいと思う自分とそういう無理をする環境
に疲れて相応の自分に戻りたいという憧れが
あなたと仲良くなりたいでもメールの交換だけ、現実では会えない
という中途半端なことをさせたんだと思います。
多加子さんを通じて顔見知りになったあなたと
外部出身のメール友達の本名が同じだと知った時は色んな意味でどきどきしました。
本当にごめんなさい。
多加子さんを見ていていつも自分を見ているようでした。
多加子さんが自分に見えました。』
緋呂子・・
広小路さんからの長いメールはまだ更に続きがあって、
多加子が親戚の叔父さんのコネでもらったという手に入りにくい
ミュージカルのチケットが5枚手に入ったから一緒に行こうと
白金陶子を筆頭とする4人を誘ったこと。
でも広小路さんはたまたま多加子が怪しい男からチケットを実際より
高い金額で購入しているのを見てしまった。
陶子が「こんなレアなチケットが手に入るなんて多加子さんの叔父さま
って大きな芸能プロダクションか大きな会社の重役さんかしら?」と言うと
「まぁそんなとこかな」と多加子は曖昧に笑ってたという。
3人は本当に信じて遠慮なく受け取ったが、広小路さんは受け取れなかった。
その日は都合が悪いからと曖昧に断った。
広小路さんのメールには今までのつきあいは縁を切らざるおえないでしょうとも書いてあった。
私は広小路さんを友達として受け入れるだろう。
広小路さんのあいた枠に多加子がおさまるような気がする。
それとも全てを知った上で彼女らが広小路さんを受け入れるだろうか
そうでなければ寂しいとも思う。
小学校から仲良くしてきたメンバーなのだから。
おわり