『それぞれのそれぞれ』

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「小山くん?」

「田中お前大丈夫か・・・?そんなところに座っていたら通行人の邪魔だぞ」

優しく言って彼はワンピースと同じ生地のストールをまとった私の肩を抱いて立たせた。

フラッ やっぱり眩暈がして私は小山の胸になだれこんで膝をついてしまった。



それからさきのしばらくの記憶がなくて、目を開いたら今度は遠くの方に自分がいた。

軽く巻いたカールの髪が乱れ、白い背景に散っていた。

白い背景 それはきちんとベッドメイキングされたホテルのシーツだった。

自分がいると思ったのは鏡ばりの天井に映る自分だった。

ようやく事態が飲み込めた私は慌てて起き上がり、バックを掴みミュールをつま先にひっかけ、ストールをはおり

足早に部屋の出口にかけよった。

薄汚れた壁の向こうにはめこまれたガラスのドアの奥からはシャワーの音が聞こえる。

出口の古びた木製のドアについたノブをガチャガチャひねるけどドアは開かない。

しばらく悪戦苦闘してると背後から安っぽいボディソープの香りとカラカラとした笑い声が聞こえてきた。

「残念だったね、田中。このホテルは部屋を出る時に清算を済ませるシステムになってるんだ。

左上の清算機で清算すればドアは簡単にあくよ」

髪をふくような音がする。

敵はバスタオルかバスローブ姿だろう。今なら逃げれる。

私は、勝手に連れてこられた生まれて初めてのラブホテルの部屋に安くない料金を払わなければいけないのかと

眉間にしわをよせつつ、所持金より安い財布から一枚しかない1万円札をおしこんだ。

(金額のことは分からないけどこれで足りるよね)

「ちょっと・・何これ」

いくらおしこんでも受け付けようとしない機械。

「あははおもしろいね、田中って。ごめんごめん この退室カード入れないと作動しない仕組みになってるんだよ」

頭にきて振り向くと腰にバスタオルを巻いてニヤニヤしている小山が銀色に鈍く光るプラスチック製のカードを持っていた。

私はスケジュール帳にさしてあるボールペンを両手で握って小山にむけた。

「まぁまぁ取って食いやしないよ。焦るなって、用があるだけだからちょっと待っててよ」言いながらバスルームに消えた。

私は身の危険のないらしいことは理解して、気を抜いてベッドの端に腰かけた。



小山・・・小山美晴(こやま みはる)。

公立高校に通っていた時の同級生で確かどこかの専門学校に進学したはずだ。

在学中、女みたいな名前だとちゃかされつつもへらへらして取り合わず、気の合う仲間とつるんでは昼休みはいつもバスケットボールをしていた。

クラスメイトだった3年生の2学期の席替えで隣りの席になったくらいの接点しかない。



「おまたせ」 田中はビンテージもののジーパンにTシャツとチェックのシャツというラフな格好に

メッセージ入りのシルバー板ついた鎖を首からさげて再登場した。

そして私に気を使ってかベッドのそばの椅子に腰掛け話を切り出した。