『それぞれのそれぞれ』
5
私と愛は週末お互いの住まいの間の駅で待ち合わせすることにした。
週末のファッションビルの立ち並ぶこの駅の構内は人でいっぱいだった。
その中で、待ち合わせの目印の花屋の前に愛を見つけた。
細い指に煙草をはさんで、チューリップの花弁をつついている。
「愛おまたせ」
私と愛は最近どこの街でも見かけるようになった、外資系のセルフカフェのチェーン店に席をとった。
ここは都内でも郊外なので比較的すいている。
都心なら、まずすぐに席を見つけることはできないだろう。
キャラメルソースとクリームの入ったアイスコーヒーのストローをつまむ愛の指さきが春めいている。
ベースは薄い黄色でピンク色のチューリップが黄緑色の茎と葉とともに描かれている。
3分の1程度、下にかけて斜めにシルバーのラメがちりばめてある。「愛、それ自分でやったの?可愛いネイルだね」
「あーこれ?ありがと。まだ学校ではネイルの基礎的なこととか理論しか教えてくれないんだよね。だからこれは独学」
「自分だけで元々それだけできれば、ネイルの専門学校なんて行かなくても良かったんじゃないのぉ?」
私はあんまり愛が器用なので褒めた。
「でも、まだまだ私なんて。先輩の卒業制作とか見たらやっぱりすごいなぁって思っちゃうし」
愛は照れ笑いをして謙遜した。
私も自分の大学のカリキュラムの話やなんかをした。
愛はお嬢様大学の内情に興味津々で、色々聞くからこっちも面白おかしく色々答えたりしてた。
「ねぇ、そういえば愛は同じ高校の人見かけたりする?」
「あーうちの学校にいるから見るけど・・」
急に表情をくもらせて愛がストローに口をつけた。
「あんまり仲良くなかった子?」ちょっと心配して聞くと、
「男なんだけどね」と愛。
「え?愛の学校でネイルアートの専門学校じゃなかったっけ?」
「美容師のコースもあるよ。でも、そいつは男なのにネイルなの」
「えー男でネイルアート?誰?私の知ってる人?」すっかり身をのりだして興味を示す私の耳に届いた名前は私を驚かせた。
『小山 美晴』の名前がでたのだ。
どうも縁がある。
そしてそれに付随する話に私は知らずに関わっていたことにショックを受けた。
小山があの日私に協力してくれとせがみ、安請け合いしてしまった私の行動が親友の愛を失望させ、混乱させたことを知った。
愛の話からすると、小山を追っかけていたしつこい女とは『愛』だったようだ。
高校時代一番の仲良しだった私にさえ言えないほど愛は小山に夢中だったらしいのだ。
「愛・・そういうことなら言うけど」と真実を話そうとした私をさえぎって愛がテーブルに頭を軽く打ちつけ
「こんなことなら男好きの噂の方が良かったよぉ〜・・」と泣き笑いで言った。
私はよく分からなくなってしまい、「はい?誰が男好きだって?」とさっきの言葉を飲み込んで、質問してしまった。
「彼、ネイルのコースにいるでしょ。そのせいで美容師コースの男たちで口の悪いのがオカマじゃないかって・・。
そのうちネイルコースの女の子たちまで疑うようになってさ、私は高校の時の彼を知ってたからそんなことないって
怒ったこともあったんだけどさ。」愛が顔をあげて頭を抱える。
「それがこないだの月曜日、ホテル街から朝から女とでてきたの見た人がいっぱいいて・・。
彼のオカマ疑いは晴れたんだけど・・。」
「愛は小山くんに彼女がいてショックだった・・と」私は愛の言葉をうけて言った。
「そういうこと・・。しかもけっこうキレイ系の人だったんだって。」
「ふぅ〜んそうかぁ」まぁあの日は精一杯のお洒落してたからなぁ・・私。
小山に嘘つかれたかなぁ私・・。多分小山は女にしつこくされたからというのは嘘で、
本当は校内でのホモ疑惑を消したくて彼女がいるっていう噂を広めたかったんだ。
第一愛は小山にまだ話しかけることもできてないというんだから。
私にそう正直に言えなかったのはプライドかな・・学校でホモ扱いされてるなんてかっこ悪いもんね。
私はよっぽど愛に事のすべてを話してふたりで笑おうかと思ったけど、彼女がいないとなると
『やっぱり女に興味ないの?』といらない心配をさせてしまいそうなのでこの場では黙っておくことにした。