『それぞれのそれぞれ』
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私は愛と駅で別れて家路に着くまでの間、あれこれ考えていた。
それで案外いい考えが浮かんで、家に着くなり自分の部屋に駆け込んで、高校の卒業アルバムを抜き出した。
小山の電話番号を探して電話すると彼の母親がでて、
「息子は春から1人暮らしをしてますけど」ということだった。
息子の方から電話させますというので私の電話番号とフルネームを伝えて電話を切った。
ふぅこれで一段落。これで小山から連絡がきたら愛の気持ちを伝えて、
小山が愛とつきあってもいいというならつきあってしまえばいいのだ。
専門学校の連中や愛には小山は元彼女と別れて愛に乗り換えたという風にうつるわけだけど、
まぁそれは問題ないじゃないか。
バスルームに入って試供品の入浴剤の袋をちぎってさらさらと白い粉をバスタブに落とした。
どこかの名湯をイメージしたにごり湯ができあがった。
服を脱ごうと一番上のボタンに手をかけると、トゥルルル トゥルルルと電話の鳴る音がした。
小山だ!とバスルームのノブをひねると次の瞬間母親の甲高い笑い声が聞こえてきた。
小山じゃなかったか・・。
私は少しがっかりした。
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月曜の1限目の英米文学の時間になり、私は多加子より早く教室に着いて、真ん中辺りの列を選び、
英和辞書で隣りの席をとって多加子が来るのを待った。
しばらくして彼女の明るい声が廊下に響き、
廊下を見ると他の教室で授業のあるトウコ率いる4人組と手を振り合っているところだった。
「トウコさんたちと一緒だったの?ごきげんだね、合コンにでも誘われた?」と隣りに座る多加子に聞くと
「え・・?ああ一緒だったけど別にそんなんじゃないけど」と歯切れの悪い、いつもよりそっけない返事が返ってきた。
そしてもっとおかしいことに2限目の授業が終わると
「私ちょっと3限目に用事ができちゃって、代返お願いできるかな」と言ってきた。
多加子に代返を頼まれたのははじめてだった。
戸惑いながらも引き受けてしまった。
4限目のことは頼まれてないからそれまでには帰ってくるつもりなのだろうか・・。
それにしても入学してからこの2ヶ月間多加子とふたりで行動してきたので、急にひとりぼっちになったランチは味気なかった。
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私は3限で多加子の代返をし、授業を受け、4限がはじまるまでの時間は1階のテラスで本を読んでいた。
ここからまっすぐみえる正門からトウコ率いる4人組がはいってきた。
「あぁ毎週恒例の外食ってやつか・・」
その後ろから多加子が4人組にぴったりとくっついて歩いていた。
彼女らの後ろをタクシーが2台走っていった。
私は教室に一足早く戻って、多加子の席に辞典を置いて待った。
しばらくすると4人組と一緒に私の横の通路を抜けて後ろの席に歩いていってしまった。
「多加子・・」と声をかけたけど、お喋りにかき消されてしまった。
私は仕方なく自分の荷物を持って、彼女らの後を遅れてついていくと、
調度5つ空いたスペースにおさまってしまい
私の座席は当たり前のように彼女たちの並びにはなかった。
「多加子・・席とっておいたのに」私が脱力してせめてそれだけ告げると、
「あ、ごめん。ここ隣りあいてたら良かったのにねぇ」と迷惑そうに顔をそらせながら答えた。
なんとなく裏切られた気持ちになった。
4限目が終わったあと、途方に暮れて教室を出ると後ろから声をかけられた。
「月絵さん・・だっけ?」さっぱりとしたショートカットの背の高い子だった。
「ちょっと時間あるかな?駅まで歩きながら喋らない?」
「あ・・いいけど」
駅まで歩いて10分ほどある。
はじめて喋る子だった。
「あのね、おせっかいだったら悪いんだけど、あの多加子って呼ばれてる子と一緒にいない方がいいんじゃないかなと思って」
「多加子知ってるの?」
「うん、彼女外部からの入学組にはあんまり評判よくないんだ。
付属あがり組の仲間入りしようとみじめなほど必死じゃない?
こんなことあなたに言うつもりはなかったんだけど、
多加子さん今日3限さぼってあの人たちと外でランチしてたの見たっていう子がいるから。
もし、月絵さん誘われてないんだったら裏切られちゃったのかなと思って。」
まゆげのきりっとしたなかなかの健康美人で爽やかな子だけどそこまでずけずけ言われると
4限の多加子の仕打ちも忘れてこの子に腹が立ってしまう。
「高校の時同じ進学塾で同じようなことされた子がいるんだ。それ聞いてたから余計彼女の行動気になっちゃって。
彼女ちょっと損得勘定で友達見てるとこあるから。」健康美人は言うだけ言うと名前も名乗らず
「あ、電車きちゃう急いでるから。じゃーね」と改札をくぐって行ってしまった。
翌日多加子の席もとらずにひとりで授業のはじまるのをぼーっと待ってると
「月絵おはよ、隣りいいかな。昨日はごめんね」とさらりと多加子が来て言った。
「昨日の用って外でランチだったの?」と聞くと、
「早く自分の用が済んじゃって、そしたら偶然トウコたちに会っちゃって偶然でびっくりしちゃった」
多加子は身振り手振りまじりで明らかに必死に取り繕っているようにみえたけど、なぜか許せてしまった。