『それぞれのそれぞれ』
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その夜、帰り際に多加子に言われたことを思い出して、葉枯にメールを打っていた。
『こんばんは
多加子たちとのWデートの予定が決まったので
お知らせしますね
今週末はどうですか?ちょうど恋愛物の映画で話題作なんですよ
コメディ的な部分もあるというのでおもしろいと思います
連絡まってます 月絵ことMOON』
送信が完了すると、今日入っていたメールが自動的に受信されてきた。
「あ、愛だ」
『こんばんは月絵
やっぱり宇津見君のことあきらめるべき?それとも彼女がいても
奪っちゃうとか?
高校の時から密かに女の子に人気あったけど、全然誰にもなびかなかったじゃない?
そんな彼をおとした女ってどんな人なんだろう・・・
私じゃ無理かな
噂だとキレイ系のお姉さんぽい・・・』
愛のメールはまだまだ続いたが、私は吹き出しそうになっていた。
「あれあたしなんだよなぁ・・」
あの日は柄にもなくコンサバっぽくお姉さま風カールなんてしてたから
私はおかしくて仕方なかったけど、笑ってばかりもいられないので
愛に返信した。
希望をもたせるように、きっと2人はうまくいく。
そうしてみせると私は変な自信があった。
そして宇津見からちっとも連絡がこないのに腹がたって、こっちから
電話してやろうかな?と思ったその時
タイミングよくヤツから電話がかかってきた。
「あ、もしもし宇津見?」
「田中?何用って・・・」そっけない態度。
「宇津見って嘘つきだねぇ、聞いたよ全部」と愛から聞いた内容を宇津見に言い、気の毒だねぇと付け足した。
「それで何か用?別に君に本当の彼女になれとか言ってるわけではないし、君とはあの日以来関係ないし、
何も、迷惑かけてないはずなんだけど?」と面倒くさそうな声を出す宇津見。
「井上もお喋りだよな、まさかお前と仲がいいなんて知らなかったよ」
と続けて言った。
私は愛の印象を悪くしてはいけないと必死に取り繕った。
「まぁ私が無理やりおもしろがって聞きだしたようなもんだから」
更に間髪いれずに「ねぇ井上愛のことどう思う?彼女今どうせいないんでしょ?それだったらどうかなと思って」
「俺は別に・・・」歯切れが悪い返事。
「なんで?ちょっとつきあってみるだけでもいいからさ」
「・・・っていうか俺好きな人いるし、だからそういうわけにもいかない」
「え?」
「だからいるから・・好きな人も恋人も」今度は思いつめたような強い口調だった。
「はぁ?じゃあなんで誤解をとくためにあたしとホテル街から出てきたりしたわけ?本当にいるならそんなことすることなかったじゃない」
私は納得できなかった。
それに、愛に期待をもたすようなメールを送ってしまった後ろめたさも手伝って、
ついムキになって余計なことまで言ってしまった。
「じゃあ証拠見せてよ!」
「見せたらもう何も詮索しない?それと俺の恋人について井上愛や
他の知り合いにも口外しないと約束する?」
あまりに宇津見が真剣なので、私は圧倒されてウンと肯定し、
その週の土曜に宇津見の指定する場所で午後6時に約束した。
それは大きな道路をはさんでデパートの林立する通りの終わりの辺りの
音楽専門店の前だった。
葉枯たちとのデートは日曜だったから、土曜はあいていた。
私はすっかり愛のことなどそっちのけで楽しみになっていた。
公表することができない彼女って?私をカムフラージュに使う必要があった理由がそれだ。
それはどう考えても彼の相手がちょっとした有名人だからに違いないと思った。
有名人に縁のない私はすっかり有頂天になってしまい本来の目的より
好奇心でワクワクしはじめていた。
そして約束の日私は有名人にあっても恥ずかしくないように
合コンの時の一張羅とカーリーヘアで待ち合わせ場所に急いだ。
音楽専門店の中でたいして興味もないクラッシックの楽譜の本などをぱらぱらめくっていると
やがて宇津見がやってきた。
その時の彼の服装は人違いかと思うほどのものだった。
と言っても高校時代、彼の私服姿をそう何度も見たわけじゃないけど。
グレーのダークなスーツにピンクのブラウスをあわせて、
緑色がベースの柄入りのタイに高そうな革靴。
ジェルワックスで無造作に散らした髪。
「行こうか」
彼は私をエスコートするようにするようにして、デパート街から離れていく。
私は行く先が分からずに歩きながら、頭の中では色々考えていた。
宇津見はホストのバイトをしてるんだ。そこで知り合った有名人の客とデキちゃってつきあってるというとこか。
でも、イメージじゃない。
彼だって恋愛ぐらいするだろうけど、女より男友達とスポーツやってるイメージだったからなぁ。
と私は勝手に決め付けてしまっていた。
それが大間違いだということも知らないで。