『見えるもの見えないもの』
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チャットルーム4に入室しました
パソコンの画面に表示される
shu:こん、ayumi
rich-man:こんこんいらっしゃい
akko:うぅ眠い ayumiがきたからもう少しいよう
入室人数 現在16人のこの部屋で入室とともにおなじみさんが声をかけてくる。
歩美は慌ててキーボードを叩いて返事を返す。
ayumi:こんばんは だんなが寝たのでチャットしにきたよぉ
akko:いいなぁ あたしも結婚したーい
shu:あっこは毎日それ言ってない?
rich-man:笑
ハンドルネームakkoは22歳「結婚したい」が口癖。
一度歩美がこの部屋で愚痴を言ったら、主婦ののろけだとむくれられた。
歩美は不特定多数の大勢のチャットルームの中で夫への不満をそれ以上言う気がせずに
なんとかその場を繕った。
それからもakkoはあまり執着しないタイプらしくそのことはケロっと忘れたように
話しかけてくる。
歩美はその日以来彼女が苦手だ。
代わりにその1件で、歩美をかばってくれたshuと親しくなり
色々とメールで相談するまでになった。
shuが女性だったら実際に会って本当の友達になれるのにと歩美はいつも残念に思っていた。
一度shuに歩美がよければ会ってみたいねと言われたことがあったと歩美は思い出す。
家族を裏切るようで、実際に会うことは躊躇われた。
断って以来2度と誘ってくるようなことはなかったがそれまでと変わらず接してくれるshuだった。
歩美はチャットの画面を残したまま、メールの窓を開いた。
「おまえは浮気できるような女じゃない」
何度も言われた真之のセリフを思い出す。
あたしだっていつまでもほうっておかれておとなしくしてるわけじゃない。
周りの主婦たちみたいにだんなに隠れて他の人とデートすることだってできる。
あたしがそういうことのできない女だと思っていい加減に扱うなら、後悔させてあげる。
歩美はshuを誘うメールをうちながら、何度も繰り返してそう思った。
送信・・
タンタンタン
階段を下りる小さな足音。
カチャ
「ママー怖い夢みたぁ」
くまのぬいぐるみを抱いたミミがドアのそばに立って目をこすっていた。
「ミミ、おかあさんもう寝るから一緒に寝ようか」
優しく言うその声のはじまりが少しかすれた。
kiki:あたしはドラマばっかりだよぉ
kitty:家に着く頃には終わってるから無理ーっ ビデオ撮るのも面倒っ
kiki:キティは残業多いもんねぇ
shu:俺木曜のだけ見れたりする 仕事ヒマなこと多いんだよね
ayumi:ごめんなさい 子供が目覚ましちゃったので寝かしつけてくる
shu:あれ今までどうしてたの 発言がないから寝ちゃったのかと思った
ayumi:起きてた メール書いてて・・
shu:そうだったのか
kiki:あゆみさんお初ですぅ また今度喋ろうね
ayumi:みんなおやすみ〜寝る5秒前(p.-)4(ρ.-)3(p.-)2(ρ.-)1…(ToT)/~~~おやすみぃ〜♪
ミミのベットで、眠ろうとするミミの顔を見ながら歩美は怖さに似た動悸を感じていた。
リリママだって、チャットで知り合った主婦の何人かだって浮気くらいやってることなのよ。
自分に言い聞かせながら、深く眠れないまま朝をむかえた。