『年の明ける頃(つづき)』


「由香ちゃんお椀ふいたら戻っていいよ。則子さん手伝ってもらってすいません」
「いいのよ。女手はひとりでも多い方が楽でしょ」
柴山の彼女で柴山より1歳、冴子より3歳年上の則子さんははじめの年から来ていて
大人でよく気がつくのでずいぶん助けられている。
年越しそばのおいしい作り方も則子さんから教わったのだった。
清絵は川島がこないならやけ酒だと言ってすっかりいい気分になって眠りこけてしまった。
他の女の子や男たちはボードゲームやトランプ、TVを観るなど思い思いに新年を楽しんでいる。




「今年もめちゃくちゃだったけど面白かったなぁ」
帰る前にみんなでわーっと片付けたおかげで、昼過ぎに彼らを送った後の家の中はわりときれいになっていた。
「あー疲れた・・って遊び疲れだけど、ちょっと寝てくる」
「うん。あたしも掃除機だけかけちゃったら寝ようかな。うるさくない?」
「うん。2階のベットで寝るからいいよ」
ごぉぉぉーなるべくうるさくならないようにしながら掃除機をかける。
部屋の隅の方に真夜中鳴らしたクラッカーの紙テープが挟まってたり、なぜかありえないところに紙皿が落ちてたりして
楽しかったことの後の掃除は笑える。


プルルルルル
掃除機の音にまぎれて電話の着信音が鳴った。
2階で眠る修治のそばの子機も鳴ってるので慌てて受話器を取った。
「はい、どちら様ですか?」
「あ・・冴子さん?川島です」
「川島さん?!修ちゃん今寝てるんだ。今年くればよかったのに それとも、近い親戚のご不幸だったの?」
冴子は心配になって聞いた。
川島からの返事はない。
仲がよかった親戚のおにいちゃんとかそういう人の不幸だったのかもしれない
と冴子は川島の沈黙でそう思った。
「大丈夫?修ちゃん起こそうか?落ち込んでるんじゃないの?」
冴子は心配でたたみかけるように問いかけた。
「あれ・・嘘なんだ。ごめん」
「嘘って?あのはがき?」
「嘘なんだって言うつもりもなくて、来年も言い訳して欠席しようと思ってたんだ」
「去年なんかあった?つまらなくて気のりしないんだったらそう言ってくれればいいのに」
と言ってからそうも言えないかと思い直したけど、
それなら何もそんな縁起でもないことを言い訳にしなくてもいいのに
と腹も立った。
「誤解しないで。そういうんじゃないから」
冴子は言うべき言葉につまって黙ってしまった。
「今から会えないかな」
川島とふたりで会ったことはなかった。
「川島さんの言ってること分かりませんよ。言いたいことがあるなら
電話口で言ってください」
再び川島の沈黙に多少いらつきながら、冴子は待った。
「ごめん。結婚してる君にこんな想いを隠しながらへらへらして参加してる自分が嫌だったんだ」
今度は冴子が何も言えなくて黙っていると、川島は続けて言った。
「修治に誘われて行った君たちとの合コン・・あの時からずっと気になってた。
結婚して修治の奥さんしてる君を年に1度見るたび想いが益々つのっていった。
会わなければ忘れられるし、君の家庭を壊すこともないと思って」
最後は涙声になっていた。
「気持ちはありがとう。それって修ちゃんと結婚して益々あたしは魅力的になったってことだよね。
それも嬉しい、ありがとう」
少し残酷な言い方だと冴子自身分かっていたけど、あえてそう言って電話を切った。
昼メロドラマの主人公にはなりたくない。
もちろん川島への特別な感情はない、ただ川島と修治のこれからのつきあいを考えると
今日のことを夫である修治に言うべきかどうか新年早々悩みの種ができてしまう冴子であった。



【年末または年始に読んでくださった方:よいお年を】