『ばれんたいん小説』
それは2月10日のことだった
僕はこの15年間1回も本命のチョコレートをもらったことなんて
なかった
それでも妙に2月14日が近づくと意識しはじめる
今年こそは奇跡がおきて誰かに告白されるんじゃないか
本命の手作りチョコなんていうのをもらえるんじゃないかって
そして奇跡の前兆がおこった
それはなんの前ぶれもなくなんだ
僕は英語教師であり、副担任の典子(のりこ)先生が好きだ
のりこ先生が英語の教科書を発音しながら僕の机の脇を通る時
僕の胸は高鳴る
膝より少しながめの清楚なフレアースカートが僕の机に触れそうなくらい近づくと
僕は心の中で「そんなに近づかないでくれ」と叫ぶ
のりこ先生と手をつないで歩く夢を見る一方で
僕には距離でさえ届かない人でいて欲しいとも思う
「小テストをします。みんな机の上の教科書をしまってくださいね」
テスト用紙が配られる
15分間の小テストがはじまった
僕はなるべくキレイな字で丁寧に問題を解いていく
半分まで解き終わった時だった
のりこ先生の気配がしたかと思うと、机の上に紙の切れ端が落ちた
ひっくり返すとそれは手紙だった
僕はあわてて学生服のポケットに紙切れを押し込んだ
『2月14日の6時間目保健室で待ってるね』
走り書きのような文字
それから僕の4日間は薔薇色に染まった
2月14日(当日)
僕の落ち着かない1日がはじまった
あの4日前の紙切れのことは誰にも言っていない
僕は5時間目が終わるとお腹が痛いふりをして、保健室に向かった
「5時間目の終わりから痛くなったのね。トイレは行った?」
当たり前の質問に当たりさわりなく答えて、ベットに寝る権利を得た
これで自然にのりこ先生を待てる
今日の6時間目はゆとりの時間でHRになっていた
ところで・・・と僕は思った
保健の先生がいる中でのりこ先生はどうするつもりなんだろうか
このベットを囲うカーテンの中でこっそり渡そうというのか
あれこれ考えながらしばらく目をつぶっているとカーテンがシャッと
あけられた
僕の体はかたくなった
かろうじて「はい・・・」と答える
「加納くんおなか少しは楽?ちょっと先生保健室あけるけどいていいからね」と言い残して保健の先生は出ていった
僕は「なんだぁ」と緊張がゆるんだ
そして僕は思い出した
のりこ先生と保健の先生がわりと仲がいいことを
そうか、のりこ先生と打ち合わせてということか
僕は安心して待った
待つ
待つ
待つ
しかし10分たっても20分たってものりこ先生の入ってくる気配はない
そのうち保健の先生は戻ってきてしまった
早いよ・・・まだのりこ先生はきてないよ
むなしく時間だけが流れ
6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った
「加納くん、ひとりで帰れる?おうちの人呼ぼうか?」
いつまでもぐずぐずしてる僕に心配して保健の先生が問う
「大丈夫です。治りました」
僕はチャイムが鳴って10分もして保健室からでた
いつまでも待っていたかった
待っていれば来るような気がしてた
教室に向かう途中職員室をのぞく僕に声がかけられた
「の・・園田先生」のりこ先生と言いかけて名字に言い直した
そのだ先生
「加納くん・・これ」
のりこ先生はポケットから小さいチョコを1個だけ出して僕の手に渡した
「あ・・ありがとうございます」
僕はその小さい銀紙に包まれたチョコを溶けるほどにぎりしめた
2月15日
教室に入るといつもと同じはずの教室が今日も薔薇色に見えた
いや僕のスクールライフはこれからずっと薔薇色だ
そう幸せを噛みしめながら椅子に腰掛けた
「昨日お前チョコ何個もらった?」
「俺義理ばっかりだぜ」
「俺も」
クラスメイトの声がする
「河田お前はいっぱいもらったんだろうな。バスケ部だもんなぁ」
「そんな多くねぇよ。まぁこんくらいかな」とそいつは10本の指をひろげた
僕は数じゃないよと心の中で笑った
「河田は義理なんてないんだろうな」他の男子がちゃかす
「あったよ。先生からー」
「ばっか、園田先生からだろー?昨日6時間目のHRが園田先生で
ラッキーだったよな」
「だよなー、じゃなかったら俺なんて家族以外の女からチョコなんて義理でももらえねーもん」また別の男子が笑いながら言う
僕はかたまった・・・
園田先生?
僕は隣りの席の女子に聞いた
「うん、昨日担任が6時間目用があって代わりに副担任が来てたんだよね」
「そうそうそれで男子全員にチョコ配ったんだよね」
「そうなんだよねーなんかいっぱいチョコ持ってきてて、授業のあるクラスに全部配ってたみたい」
「そうそれでうちのクラスは予定になかったけど、まだまだ余ってたから全員にあげれたんだよね」
2人の女子が楽しそうに教えてくれる
僕は楽しくなかった
目の前がみるみるうちに灰色に塗り替えられていった
僕はポケットの中で紙切れをにぎりしめた
じゃあこの手紙はなんだったんだろう
数日後
僕は肥満のため要注意のプリントをもらった
備考の欄に手書きで食事の摂りかたについて、栄養成分のことを考えて書かれてある
僕は勘違いさせられてたんだ
僕は手紙を持って放課後保健室にむかった
保健の先生に見せるとすべてが分かった
はじめ、先生はなんでこれを持ってるのか驚いた
それから
「園田先生にちょっと用があったから保健室に呼んだの
なかなかこないなぁと思って職員室行ったら担任の代わりに
6時間目にでてるって言われたんだけどね」
そしてふだんからこうやってメモで渡すことが多いことを
僕に教えた
そしてそれがたまたまテキストか何かにはさまっていて落ちたんだろうっていうことも
僕のばれんたいんはこうしてそういう意味でも終わった
それでもまた来年バレンタインがくると期待するんだろう
悲しいけど
僕は苦笑いする
おわり