『小説4作目の続編のつづき』
「社長は今年の秋に新作のメガネフレームを横浜店限定で売り出すつもりらしいの。」
「すごいじゃないですか。それって社長が僕たちの支店を評価してるってことですよねぇ?」
高柳がジントニックの入ったグラスを持つ手に力をこめる。
梅雨があけ少し蒸し暑い日が続くようになった7月のはじめ私は横浜から少し離れて恵比寿のしゃれたバーに店が終わったあと高柳と来ていた。
午前中の本社での店長会議のあと、いつものように店に直帰しようとする店長たちの中から私はひとり呼ばれて社長室へ通された。
それがさっき高柳に言った内容だった。まだ本社役員と私と高柳以外誰も知らない話で、私が承知し次第他店の店長にも報告すると言う。
「それにしても珍しいですよね。キオコさんがこんなイイトコで僕と打ち合わせするなんて」高柳は残ったジントニックを飲み干し、同じものをおかわりした。
高柳とは店のトップ同士なので打ち合わせはよくする。
ほんの些細な問題ことでも早めに解決しておかなければスタッフにとっても客にとってもいい店を保つことは難しい。
アルバイトの子の勤務態度から店の売上げに直接関係する数字的なことまでさまざま。
ただ高柳が言うようにふだんなら百貨店の中のカフェでコーヒーだったり、横浜駅付近のありふれた居酒屋だったりするわけで、今夜のようにわざわざ電車にのって都内まで足をのばすことはない。
私はカマンベールチーズをつまみながらワインベースのカクテル『キール』を飲んで本当の目的にいつふみこもうかタイミングを見計らっていた。
薄暗いバーの中は品のいい間接照明がところどころで照らされていて、大人すぎずガキすぎずちょうど良かった。
私はカウンター席から夜景の見える窓際のテーブルに高柳をうながした。
新宿のまわりも高いビル群の中の高層ビルの夜景と違ってここの夜景は他にコレと並ぶほどの大きな建物は少ないから見下ろせる感じがいかにも夜景という感じでいい。
「高柳。」私は名前だけ言ってじっと高柳を見つめた。
彼は慌てたそぶりも見せず「キオコさん目ぇ座ってますよ。この程度で酔う人でしたっけ?」と逆に見つめかえしてくる。
ダークな色のスーツに身をつつんでいるが決してこっけいじゃない濃いピンクのシャツから適度にやけた肌がのぞいている。シャツの下の胸の筋肉が隆起してるのが服の上からでも分かる。
決してマッチョではないけれど、スポーツクラブに入っているというから適度な運動が作った筋肉だろう。
高柳が自分に好意をもっていることは薄々気づいていた。
それでも職場が同じということと自分が上司であることがネックになって彼の気持ちに応えられない自分がいた。
別に無理に応える必要はなかったけれど、私の方が彼に男として興味を持ってしまった。
仕事は怖いくらい順調、家庭?はまずまず悪くはない。
最近男性との関係もご無沙汰だった。
それに自分の中で気持ちが変わりはじめていた。なにも特定の男性とつきあう必要性はないような気がしはじめていた。
相手を真剣に探す必要はない。
乱暴な言い方をすれば『ただ寝てみたい』この感情だけで充分なような気がした。
私は妻のようなものを持ち、子供のようなものを持つうちに考え方が男性化していってしまったのかもしれないと少し自分が怖くなった。
ただ、それは肉体関係をのぞいてはということだけれど。
高柳は女の私に恥をかかせることなくあっさり予約しておいたホテルについてきた。バーのある高層ビルからタクシーを少し走らせたところだった。
高柳が職場のパートナーになってから1年以上が経つ。
彼のことがだいたい見えてきていた。
私だってバカじゃない。ただの欲望のために、あげく社内恋愛のごたごたで今の地位を棒にふるつもりはない。
仕事もできるけど、女遊びなれてもいる男、そういうやつな気がした。
それにサキの噂話で裏付けられてもいた。
サキがバイトできて例のことがあって、言葉を交わすことが多くなった頃、サキは私に「私あのひと知ってるんですよぉ」と言った。
聞くところによると前いた新宿店の百貨店の中の各フロアーのあちこちの子に手をつけていたという。
たまたままだ専門学校生だったサキの友達がその百貨店の某メーカーの店舗で働いていて、高柳に手をつけられてしまったという。
高柳はそこで10人以上の肉体関係だけの女友達を持っていたけど、そういう事実があっただけで噂ひとつでなかったという。
それも高柳がそういう女友達にはうまいことを言って絶対自分との関係を他言させないのだから。
高柳は絶対女を自分の部屋に入れない。それを彼のH友達のひとりにストーカーまがいの女がいてどうやったのか彼の留守中にマンションの彼の部屋に侵入して部屋の中を物色していて彼の日記を見つけたのだという。
そこに記されている女たちの名前の中にその女の知ってるフロアーの店舗の子が数名いたためにすべてがあきらかになってしまったらしい。
それでも他の女達は自分が特定でないことをわりきって関係していたためそんな大騒ぎにもならず高柳の女問題はうちの社長の耳にも入ることなく、仕事の実績で横浜店の副店長に栄転までしたのだ。
何ヶ月か経つからこの百貨店でも2、3人は食ってるかもしれないが高柳と関係をもってもヘタなごたごたにはならないっていうことだ。
「仕事仲間としての相性もいいけど、僕とキオコさんは体の相性もいいみたいだね。」高柳はシーツにくるまる私の隣りで煙草の煙りを細くはきながら囁いた。
「あ、それとキオコさん大人だからこんなこといちいち言わなくても分かると思うけど、僕ともういう関係になったことは二人だけの秘密ね。お互いなにかと面倒でしょ」
「分かってるわよ」
はじめからそのつもりだ。むしろ彼の口からそのセリフが出て安心した。
彼の女遊びのやり方は変わってないみたいだった。
それからうまく帰りのタイミングがあった時やどちらかが店がしまるまで時間をつぶして2週に1度くらいのペースで体の関係をもっていった。
高柳の店での私への態度はしれっとして今までと何も変わらず、副店長としての立場をわきまえてよき右腕となり続けてくれている。
そのうちミナが小学校にあがり、その頃には高柳だけでなく同窓会で再会した独身の同級生との関係も私は楽しみはじめていた。
ミナとはつかずはなれず、まるで世のお父さん的存在だった。
『たまに会えば小言を言う』ようなマネはしなかったのでミナに特別うとまれることもなくいい関係をたもてていたと思う。
そんな頃のある休みの日の朝、平日のうるさい朝にすっかり慣れてしまった私はひとり毛布にくるまって眠りをむさぼっていた。
眠りが浅くなりはじめた頃背中にすーと風を感じた。
間もなくあたたかいものが背中にはりつくようにもぐりこんできたような感覚があった。
私の眠気は一気に冷め、とび起きた。
ハルナだった・・・。
ハルナはあきらめたような顔をしてゆっくり起き上がると「やっぱりキオコは女の私じゃだめなのね。」とつぶやいた。
ミナがようやく手からはなれて忙しさから開放されてふと淋しくなったのだろうか。
私に抱いて欲しいようなそぶりをしたのは、ミナをひきとる話のとき以来だった。
「ハルナ、私たちはまるで夫婦のように生活してるけど、私に貞操をたてることはないのよ。ハルナは家事をして、ミナを育ててくれたら空いてる時間は誰とどう過ごそうがかまわないのよ。」
今までハルナをしばっているつもりはなかった。
でも、ハルナはいつか私が同性であるハルナを受け入れる日が来ると信じていたのかもしれない。
「私はキオコに愛されることはないのね。キオコのお金で生活させてもらって
主婦のマネごとをさせてもらって子供までもらえて・・・これでキオコに愛されたら完全に望みが叶うのに、世の中ってうまくいかないようにできてるのね。」ハルナの目には涙がにじんでいた。
ハルナもきっとこのさき体の関係をもてる相手を探すだろうとこの時思った。
それはよそに体だけの関係の友達を持ちつつこのおかしな夫婦生活を続けることになるかもしれないし、いづれ私のもとからミナを連れてハルナが出て行くことにつながることかもしれないと思った。
それはそれでいいと思った。
週に数日家政婦をたのむお金くらい今の収入からならありそうな気がした。
ハルナが涙をにじませてから数日がたつ。
あの涙が嘘のようにそれまでと変わらない生活が続いている。
30代も半ば近くなってこのままどう転んでものらりくらりと自分の望むように生きていけるような気もした。
でもまだこの年になっても先のことは見えない。
続編終わり
◆あとがきにかえて◆
結局キオコ的にも結論はでないまま、彼女が生きているかぎりいくらでも続けられる話なんですよねコレって。
リクエストがあれば続きを書きます。
毎回ゆみゅう的に伝えたいテーマはあるんでそれを感じとってもらえたら幸いです。自分自身人生手探り状態ですから。
ただ現実では思い切ったことはできないし、せめて考えてこうやって小説にするくらいですね。(キオコの行動が必ずしも全てゆみゅうの願望とはかぎりませんが)