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 。

ししゅんきにおける ふあんやいたみのかだいしは いっかせいのもので
きみはそれにきづかぬまま さいごへいく。











パリン、

と 心地よい音をたてて割れた。

「あーあーあー。」

忍足がまた嫌そうな顔をし、破片にそっと触れてどけてくれた。
その指の動きを見ていた。
夕闇せまる。肌寒い理科準備室。
ふたり?



「芥川・・・また割ったのか。ちょっと貸してみなさい。」

「先生、次は平気、ちゃんとできるよ〜。ね、ジローくん。」



ふたり、

なわけはなく、
居残りで植物細胞の観察とかいうのをやらされているのは
俺(さぼった)とヤヨイちゃん(風邪で休んだ)で、監視役でいるのが当然理科教師。
しゃあないな、とぼやきながら、割った2枚目のプレパラートを先生に渡している、
のは、俺に付き合わされている忍足。美しい指の忍足。
この部屋の中で一番働いている忍足。理科の成績なんて5ざますおほほの忍足。

俺理科2ざます。ただあなたが気になるざます。





「お前らなあ・・・細胞のしくみも勿論だが、
 顕微鏡の使い方なんて基本中の基本、大切な所だぞ。」

窓にすさまじい夕焼けが。それを見ていたらこづかれた。

先生。

俺だって、
ビーカーに牛乳を入れてくれるなら、君の云う 大切な事 も覚える。
覚えますさ、少し。



うまく言えないけれど反抗期でしょうかこれが。
ねえヤヨイちゃん。あの子はクスクス笑う。





忍足がさっきから黙々と顕微鏡の調整をしていた。
指先で螺子がゆっくりと動かされ、ゆっくりと発条が軋み、
ゆっくりと視界が明晰になっていく、
のだろう彼の目の中。

「・・・・・俺は顕微鏡より万華鏡がのぞきたいんですよお、おっしー。」
「うっさいわ、黙っとき。」

誰のためにやっとると思ってんねんほらできたで、と。
優しいね。ありがとう。
とクスクス笑うのはヤヨイちゃん。 ま。ええから。ほら。と照れる。
照れるな。





泣きたくなるくらい激しいオレンヂ。
別に興味無い先生の横顔が映える。別に興味無い。





思春期ですね。別に興味無い。







ヤヨイちゃんは
サッカー部と野球部と放送部と職員室に彼氏がいる。







先生。

どのような睫毛も好いたらしく見え、君の云う 大切な事 は忘れる。
そんな僕ら どうよ?





「今度は慎重にやれよ。」
「ほんまやで〜。俺もう早よ帰りたいねん。」
「ふふ、でもほんとえらいね、忍足くん。違うクラスなのに。」
「や・・・・・別に今日部活も無いし。ヒマやし。適当に。」

少しうつむいて口ごもる。
はにかんだような表情は、俺だってかわいいと思うが、
今この状況で、そんな台詞で、そんな、やめてくださいませ、と
俺は嫌な子になってしまう。

なので3枚目のプレパラートを作りながら(忍足がやってくれたのより汚い)
黙って二人の話を聞いている。



「友だち思いだねえ。」



にこ、として「あ。サッカー部も終わったみたい。」とか言いながら
ヤヨイちゃんは校庭に目を向けていた。





これはただ、夕が闇に変わる前の焦りだ。





わかってる。わかってるさ。





敏感な御年(はーとまーく)どもの季節とは、「男と女と」などが基準、

なんて言われてもわかんないや少し。





わかってるさ。わかってないのは忍足もだってわかってる。
この鈍感め、でもそこが・・・なんて思うのはいつものこと。



「うん、大丈夫大丈夫。」
「は?いきなりどうした芥川。」
「いつものことやから気にせんといてください。」

理科5が横からフォローを入れた。
俺のプレパラートを受け取り、顕微鏡に乗せてくれた。

これが友だち思いというやつなのか?ねえヤヨイちゃん。
俺だって想っていますよ。












ずっしりと暮れる 陽。












「さ、もうこれで終わりにしろよ。いいか、慎重、とにかく割るなよ。」



はい先生。

しかし、しかし俺は知っています、ビーカーに牛乳は入らない。
だから俺は、何も覚える気がせず そして―――――――



パリン、



「あ。」
「あ。」
「あ。」
「・・・・・ジロー。」



本当は、ただその指がまた動き出すので、見ていたいだけなので。
ぐるぐるするほど美しいから。嫉妬?悪戯心?愛?いえ。







「お前な〜〜〜〜ほんっま・・・・・・・もうええ、もう知らん。
 ほら早よ・・・・・・・・ほら・・・・・・・・・・次で終わりやでっ。」


ぐるぐるするのです。













思春期における不安や痛みの過大視は一過性のもので
君はそれに気づかぬまま最後へいく。