14.
―――次の日から、もう、下駄箱には、何も入らないようになっていた。



そして、平穏な日々が過ぎる。

4月下旬のある日。


「買い出し♪買い出し♪メンドイなっ♪」
と、部活の買い出しの歌(作詞作曲・水島未樹)を歌いながら、
校門を出たところで、一人の男子に呼びとめられた。

「あのっ」
「へ?私?」
「そう」
「なに?…って、高倉さん!?」

高倉さん(同じ年なのに『さん』つけなのは凄い選手だから、ついつけてしまう)
大高の人。

大高は、IH出場多しの学校。
高倉さんは、その大高でキャプテン。


1回だけ、うちと試合して…
そのとき、奇跡的に、うちの学校が勝ったのだ。


5月1日の試合も、大高とだったりする。


「あ、もしかして、試合のことですか?それとも、敵状観察?」
私は、そう言うと笑った。
「いや。今日は、キミに用があって」
「私…?なんですか?」

「好きなんだ。付き合ってくれないか?」

「へっ?……………私!!?」
「そう」
そう言って、頷く。


私は、危うく、持っていたものを落としそうになった。
頭が混乱。


ちょっと…。
待て!!

い、い、い、いきなりなに言うの!?この人!

落ち着け!!
私!!

どう言ったらいいのか、分からない。

私は、1回深呼吸すると、

「いや…あのっ!すいませんっ!お気持ちは嬉しいのですが付き合ってる人がいまして…」

と、言った。
返ってきたのは、意外な返事。

「キャプテンの秋本ってやつだろ?」

知ってるんだ?

「あ、そ、そうです…」
「…どうして、あんなやつと?」
高倉さんはそう言うと、バカにしたように笑った。


「あんな…やつ?」
私は、声が少し低くなる。


「ここの学校のやつに聞いたんだけど。普段不真面目で、
どうして、うちが前の試合で負けたのか不思議だよ…」
高倉さんは続けた。
「前は、油断してたからかな?あんなやつに負けたなんて…恥だ。
どうせバスケだって、もてるからとかいう理由でやってんじゃないの?」


イライラする。
ムカツク!!


なによ…。
なんなの?



「…秋本はっっっ!!バスケには、一生懸命なんですっ!!バカにしないで下さい!!」
私は、気がつくとそう叫んでいた。

「へぇ?やけにかばうね。じゃぁさ…もし、今度の試合でうちが勝ったら、俺と付き合ってよ」
そう言って、また、嫌な笑いを浮かべる高倉。(もう、何かムカツクので、呼び捨て)

「はい?」
「今度の試合で、うちが勝ったら俺と付き合ってよって、言ったの」
「なんでっっっ…」
私は、抗議しかけると、高倉は、
「へぇ?勝つ自信…。ないんだ?」
と、笑った。


その笑いが、バカにされているようで、余計にムカムカくる。


「か、勝つわよっっっ!!!絶対にっっ!!」
「ふ〜ん、そう。そりゃ、楽しみだ」


「じゃ、また、試合の時にね」
そう言うと、高倉は、歩いて行ってしまった。



15.
私は、こうしちゃおれん!
と、部室に向って、新練習メニュ〜を書いて体育館まで走った。

体育館では、バスケ部が練習をしている。
私は、その中から秋本を見つけると、
「秋本っっ!!!」
と、叫んだ。


「え?ミキちゃん。早かったね」
「メニュ〜増やしたからっ!!!皆も!!!」
そう言って、新メニューを押しつける。

「な…?え?どうしたの?」
「いいから!これ通りにやって!!絶対、次の試合で勝って!!」
「え…あ、うん。どうしたの?やけに、はりきっちゃって」
「私は!!いつも、試合には、真剣なの!!!」



負けてたまるかっっっ!!
あんなヤツに。



私は、秋本に、さっきのことを話さなかった。
もちろん、他の部員にも。

私のせいで、普通にプレイできなくなるのは、気が引けからだ。





16.
―――試合当日。



ピ〜〜〜〜!!



集合の笛がなる。

私は、秋本の背中をたたくと、
「秋本っっ!!頑張ってよ!」
と、言った。

「はいはい」
「気合入れてよぉぉぉお」



試合が始まる。

大高の先取点。
どんどん、点数は積み重ねられて、



28−13



「秋本?」
高倉が、秋本に話しかける。

「んぁ?」
「なんだ。たいしたことないじゃん。前の時の方がやる気はあったね。
この分じゃ水島さんは、俺のものだ」
「は?」
「もしかして、聞いてないの?へぇ〜。頼りにされてないんだ」
高倉はそう言うと、笑った。

「ど〜ゆ〜…事だ?」
「この試合で、うちが勝ったら、俺が、水島さんと付き合うんだよ」
「は?」

高倉にボ〜ルが渡る。
すると、高倉は、いとも簡単にシュ〜トを決めた。




30−13




ピ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

前半終了の合図。



17.
その合図がなると、秋本は、私のところまで走ってきた。
「ミキちゃん!!!!」
「え?どしたの?」

秋本の両手が、私の顔の横に叩きつけられる。
私は、追い詰められている状態になっていた。


「正直に…・言ってね?」
そう言って、ニッコリ笑う。

その笑顔が余計に恐い…。

「…は、はい?」
「何の約束をしたのかな?」
「え…」


ばれた!?


私は、キッと、高倉の方を見た。
高倉は、こっちを向いて、ニヤニヤしている。


私は、思いっきり大きな声で、
「何、ばらしてんだ〜!!!このバカっっっ!!!」
と、叫んでいた。



「やっぱり…本当だったのか…」
秋本がうなだれる。


「いや…アレは、冗談で…」
「冗談なわけないだろ!?あの目は、本気だよ」
「…う」



「ミキちゃん!どうして、そう、勝手な約束するの!!?」
秋本は、また怒る。



私は、自分の手をぎゅっと握った。
「だって…」





「だって…くやしかったんだもん!!!!」







そう叫んでいた。
「秋本は…バスケは、好きだもん!!他のことには、不真面目だけどっっ!
バスケやってるときは、一生懸命だもん!!!それなのに…」

「それなのに、アイツ…!!!秋本の事…!!」
そう言って、言葉に詰まる。


悔しくて。
あの時のこととか思い出したら、
悔しくて。


涙が出そうなのをグッとこらえた。


秋本は、私のほうを見ると、
「分かった」
と、言う。

「…」
「勝ちゃいいんだよな…」
そう言った、秋本の声。

しっかりした口調。
凄く頼りになる声。




「そのかわり。勝ったら、なんでも言うこと聞いてよ?」

ニッコリ。
秋本は、楽しそうに笑った。


…その微笑みは…ナンデスカ!?




18.
ピ〜〜〜〜

後半開始の合図。


秋本は、私ベンチに座らせてコートに向った。


隣に座っていた、秋本の友達の3年の部員が、
「大丈夫だって」
と、言う。

「…え?」
「アイツは、あ〜見えても、毎朝、誰よりも早く来て練習してるんだから」
「…え、そうなの?」

…知らなかった。

「言うなって、言われてたんだけどね。休日も、練習終わった後も誰よりも練習してるよ。
秋本は」
「…うん」

私は、力強く頷いた。




19.
「秋本〜〜!!!がんばれっっっ!!」
未樹が叫ぶ声が、コ〜トに響き渡る。


「誰にも、ひとつは、譲れないものってあるだろ?」
秋本が、高倉に言う。
「は?」
「俺は、ミキちゃんなの。だから、お前には、譲れない」
そう言うと、高倉に来たパスをカットする。


そして。

ドリブルで、ゴ〜ルまで走り、
シュ〜トを決める。






20.
ピ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

試合終了。


スコアボ〜ドは、
42−45
の数字を記録していた。



「秋本…おつかれ…」
私は、そう言って、笑ってタオルを渡す。
「ありがと」
秋本は、タオルを受け取ると笑った。





21.
―――帰り道。

私は秋本と帰っていた。

「今日さ…」
私は、ソレだけ言うと、秋本の少し前を歩く。
「ん?」


「ちょっと…格好良かったよっ!!」


すると、秋本は、走ってきて、私に飛びつく。


「ミキちゃん!!」
「うぁっっ!!」


それが、妙に心地よかった。



秋本が耳元でささやく。
「…ミキちゃん」
「はい?」
「なんでも、言う事聞くって言ったよね?」


…忘れてた…。
その約束…。


「…いいました…か?」
私は、とぼけて見せる。
「言った」
「…そう」

「さ、俺の家でも、行こうか?」
そう言った秋本に、ズルズルと引きずられるようにして、私は秋本の家に連行された。