―ホームページ・マジカルセブンティーン―

                           

 やっぱり友達とは仲がいい事に越したことない。なんて良い朝だろう。
「いってきまーす!」
空は晴れ渡り、より一層青い。風も生まれたてであるかのようにさわやかだ。
見上げれば、例の買い物袋に入ったまーくんが、遥か上空から弓美についてくる。
「おはよ! 弓美!」
「おはよ! 法子!」
元気を取り戻した弓美をみて、法子も二倍の元気を手にしたみたいに胸を張った。
「今日は元気いいね!、瞳も来るかなぁ?」
「来るわよ! 昨日お見舞い行ったんだ!・ぁ」
弓美は自分の発言に凍り付き、法子はその発言で火が付いた。
「あ〜っ、ずるい!自分だけぇ!、掃除ばっくれて抜け駆け?」
ごめんごめんと法子の頭をいいこいいこする。しかし、そんな事で治まるはずもなかった。
「ぜったい許さないんだからね!」
丁度タイミング良く、話しをはぐらかすチャンスが来た。
「おはよ!」
「おはよ! 瞳!」
感のいい瞳が上空のまーくんに気付く。
「なるほどね」
下から見ると一寸不自然だが、風に袋が舞っているように見える。
「今日が初日なんだよ」
「へ〜考えたわね」
法子はまだ膨れて弓美を見ているが今の会話も気になる。
「なに? 教えて!」
法子の質問に、少し前を歩いていた瞳が振り返り立ち止まる。そして、微笑みながら指を一本立てて振り、「ひ・み・つ」を表現した。

 教室にはもう一美が来ている。
「ねぇ一美!、聞いてよォ! また弓美が抜け駆けしたのぉ!、昨日何だか早く帰ったなぁと思ってたら、瞳のお見舞いに行ったんだって!」
「え〜っ、ひどぉい」
弓美に軽蔑の眼差しが向けられる。
雰囲気が悪い。これは何か言い訳をしないと大変そうである。
しかし、嘘と言い訳が下手な彼女である。
「あ、あのね、私はクラスの代表として行ったんだよ!」
いつもの通り下手な言い訳である。ある意味根が正直なのだろうが、一美は頭にきたらしい。
弓美への厳しい追及を始めた。
「それじゃ今日みんなの前でその報告してよ!、それが出来るの?」
「うっ・・」
「やっぱり抜け駆けだ!、抜け駆けだ!」
困り果てた弓美を見かねた瞳が助け船を出した。
「みなさん、なんだかご迷惑をおかけしたみたいですので、本日放課後、私の家にご招待したいのですけど、いかがでしょう」
「私行くぅ!」
瞳の提案に、法子はすぐに飛びついた。
一美は、いとも簡単に裏切り者「朝倉弓美」を許した、万年ハッピー女も許せない。
「法子!、まだ弓美への追求終わってないんだからね!」
更に追求を試みようとした時、六つの眼が自分に集中している事に気が付いた。
どれくらいの時間無言の視線に絶えたのだろう、ついに絶えきれなり一美は折れた。
「何よ!、わかったわよ! 行くわよ」
一美は正義も時に挫かれる事を知った。

 さて、お昼休みになった。
ホントは禁止されている屋上で、四人はご飯を食べている。空からやってくるまーくんにご飯をあげる為だ。
 一美は勿論の事、あの法子でさえそんな漫画みたいな事は信じなかった。
お弁当も半分位食べた頃、空から買い物袋が風に吹かれてやってくる。
「来た来た」
それは、上空200bから弓美を見つけると、急降下でやってきた。
「おーつ!、あーちゃん!、ひとみ!」
一美がお弁当箱を膝の上に落とす。
法子は感動のあまり、クリスチャンのように手を合わせ涙を浮かべた。
二人の様子をみて微笑む二人は、じらさずにまーくんを袋から出してやった。
「きゃー!かわいい!、もうこれわたしの!」
法子は好意と歓迎の意味を込めて空からの訪問者を抱きしめる。
いきなりきつく抱きしめられたので、まーくんは機嫌を損ねて彼女の腕をつついた。
「いたい!」
「なんだおまえは!、ぼくはまーくんだ!」
胸を膨らませ、ふんぞり返り、腰に短い手をあて威嚇している。
法子はびっくりして、思わず後ずさりした。
「痛いじゃない!、かわいらしいけど凶暴なのね・・もう・・」
一美は先程の事をまだ根に持っていて、裏切り者がいいざまだ! と、すまし顔だ。
「あんたが急に抱きつくからよ!、こんにちわ! まーくん、私は一美だよ」
「かずみ・・・おーっかずみぃ!」
まーくんは一美に飛びつき、かわいこぶる。
法子も早く手にとって観察したいらしく、あわてて自己紹介し、両手を広げた。
「あの!、わたしは法子だよ」
「あっそ」
素気ない態度で無視され、開いた腕から胸あたりが寒い。三人に気の毒がられながら、法子は沈んだ。
「ま・まぁ、めしくいねえ」
「こえなに?」
弓美の膝に乗った彼は、勝手に嘴を突っ込む。
「ご飯だよ、これがお肉とウインナー」
「ごはん!」
ツバメの子みたいな嘴を開き、お箸からご飯を受け取る。
「おいしい!」
お肉・野菜とバランスよく食べさせ、最後にまーくんの大好きなミルクを飲ま終わると、また買い物袋の中に入ってもらう。
「日が落ちる前に家に戻るんだよ」
「うん、あーちゃん」
二メートル位浮くと、みんなを見渡した。
法子が元気ないので、気になったのだろう。
彼女を頬ずりして励まし、空高く舞い上がって行った。
「行くよ、法子」
感動にほうけている彼女は、昼休み終了のベルが鳴る校舎の中へ一美に引っ張り込まれた。

 放課後、掃除を済ませて瞳の家を目指す。
「ビューテイキャッスル・・ああそうか、美城ね」
初めての二人は緊張している。
オートロックに目を見張り、警備員さんに驚き、執事さんに感動していた。
瞳はその二人の反応がおかしくてたまらないらしいが笑いをこらえている。
「こんな広い所に一人なの?、わたし引っ越して来ていい?」
「ダメに決まっているでしょ! ほんとに法子は!」
「何だか今日の一美は手強い」と法子は思う。
 一人暮らしの訳を聞きたい二人だったが、彼女らは勝手に頭の中で、
「きっと両親が不仲なんだ」と思いこみ目頭を熱くした。
お茶とお菓子をたらふくご馳走になった三人は、長話の後、早々に退散する事にした。
まだ法子は居たかったらしいが、一美に睨まれてしぶしぶ後にする。
「じゃあね! またあしたね」
「弓美! あした早めに迎えに行くね、まーくん触らせてね」
「OK!」
弓美がいつもの通り、手を振りながらパン屋さんの路地に消えた。
「一美ぃ、明日一緒にまーくんと遊ばない?」
「先月末月例会がなかったから、明日は子供達の月例会があるのよ。ごめんね」
まーくんと遊べなくてもあんまり残念そうじゃない一美に少し不満を感じたが納得した。
「剣道か、じゃあしょうがないね。それじゃ! また明日ね」
「ばーい!」
元気よく二人は別れた。

 一美がタバコ屋さんの角を曲がると、また今日もお爺ちゃんの気合いが聞こえる。
玄関先のポストには町内会の案内と、出し主の名がない手紙が届いていた。
「なんだろ、紅緒さま宛か・・、へんなの」
姉の机の上に置き、道着に着替えて道場に出た。
「なにを今頃! のこのこと!」
すでに練習も後半、掛稽古が始まっている。お爺ちゃんは怒ってるが、他の練習参加者は彼女の白い道着を待っていたのだ。
「お願いします」
準備運動を終え、一美はお爺ちゃんに挑んでいった。

 練習が終わり、道場の拭き掃除を終えた。
一美は着替えを自分の部屋に取りに行く。
姉が帰っているらしく部屋に明かりがある。
「おかえり、・・お姉ちゃん?」
姉が泣いている、始めてみたような気がする。涙は明らかに冷たく見えた。それ以上は何も言葉は交わさなかったが、姉の手にさっきの手紙が握り絞めれれていた。
 一つの影が、鏡に映った自分に頬を染める。
お風呂に目の下までつかりながら、一美は姉の涙と横顔を何度も頭の中で繰り返す。
「なんだろ」
その夜、姉は一言も発せなかった。
一美は、頭まで布団をかぶって眠った。

 次ぎの朝、姉に起こされた。「練習につき合え!」、と言うのだ。
お風呂に火がある。
「姉貴やる気だな!」
試合形式のぶつかり稽古だ。姉とは実に久しぶりである。
二つの白い道着が朝日を弾く。姉の戦法はよく知っているつもりだが手強い。
初めの一本は開始後すぐ、小手を落とされた。「見事!」しかし、すぐに面で返した。
 練習にしては、より激しい打ち合いが続く。
「姉さんは守勢型なのに・・積極的に攻めてくる」
姉の剣は記憶より早く重くなっている。
しかし、攻撃に関しては一美の方が上だ。
身長差もあり、どうしても防御がちになる紅緒だがすぐに攻勢に出てくる。
 竹刀の音に目を覚ましたお爺ちゃんが起きてきた。
一目で紅緒の迷いを見抜き、見る気が失せたおじいちゃんは薪の臭いにさそわれ道場を出ていった。
「強くなったね、一美」
「まあね、お姉ちゃんもね」
姉は何か吹っ切れた様だった。
お湯を浴びようと着替えを持ったとき、何処からかエコーのかかった詩吟が聞こえて来る。
二人は時計を見、溜息を合わせた。

 おじいちゃんが朝風呂を楽しんでくれたお陰で、ぼやぼやしていると大変である。
朝食もそこそこに家を出ていつもの時間である。学校にはもう弓美達が来ていた。
「今日早いね! あ、そうか、まーくんね」
法子はまーくんと仲良くできたらしく上機嫌だ。
二時間目は体育だったが、姉の紅緒は「用事が出来た」らしく、教室で自習になった。
「おねぇちゃん・・・・」
今朝の稽古でもう大丈夫かと思ったが、一美はまた不安になった。
 放課後、明日はいよいよ日曜日である。
稚桜神社に九時集合を約束して四人は別れた。

 一美は姉のことが心配である。気が晴れぬまま月例会を終え、今日は早めにお風呂に入った。
天井についた水滴が額に落ちる。
まだ姉は帰ってこない。
 悪い事だと思いながらも、姉の机などを探り、あの手紙を探す。
しかし、何処にも見つからなかった。
電話が鳴る、誰も出ないので出てみると瞳からであった。
「瞳? どうしたの」
「ごめんね。これから弓美と法子が家に来るのだけれど、一美もおいでよ」
ここにいても気が滅入るばかりである。一美はすぐに了解し、台所の母に声をかけると、急いで瞳宅に向かった。

 集合したのには理由があった。法子に重大な問題が発生していたのだ。
今日の夕刊に、F1ドライバー『天瀬茂』の交通事故はただの事故ではない。
レースを賭の対象としていた大学生グループが、負けた腹いせに車を細工をし、事故を装い殺した。
そんな記事が、写真入りで出ていたのだ。
たとえゴシップの類ではあったにせよ、遺族には酷い話である。
母が仕事で出張の法子はいたたまれず、泣きながら弓美の家に駆け込んだのだった。
「こんなのひどいよ!、弓美たすけてよぅ」
法子の取り乱し様と、頬を伝う冷たい涙に、弓美はただ戸惑うしかなかった。
ふと瞳の顔が頭に浮かんだ弓美は、彼女に相談に行くことにしたのだ。
弓美の母もその記事を見て法子に同情した。
町はいつもの夕暮れ、何も変わった所はない。人が歩き、犬が吠え、鳥は空を飛んでいる。
しかし、四人の少女達はいま大きく変わりつつあった。

 テレビでも事故の疑惑がささやかれている。これでは嫌でも母の耳に入る事だろう。悲しむ法子の優しさに弓美も瞳も胸が痛い。
せっかくたてられたお茶が、口も付けられずに冷めている。
 インターフォンが鳴り、一美が来た。
四人ともまだ夕食を取ってない。そんな事を考える余裕はないらしかった。
爺がまるでレストランのようなディナーを運んできてくれた。
無口に食事は進み、法子もお腹を満たして落ち着きを取り戻した様子だ。
 瞳がティーカップをテーブルに置く。
「さて・・・・」
難しい話である。ゴシップ紙に思いやりも何もない事は昔からである。
こんな状況になるまで、軽蔑はしても、その事について真剣に向き合うことは無かった。
会話のない時間が流れていった。



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=========  大改修しますので今はここまでです。  ===========