風の向くまま−3 攻める戦い
泉の上を風が駆け抜けていく。
そのほとりには、銀髪の青年とスーツ姿の男、さらに木にもたれかかった藍色の髪の少女が居る。
そのポポッコはちょうど水を飲みにそこへ降りていこうとしているところだった。
まるで風に舞うタンポポのようなフワリフワリと。
男が驚愕の表情を浮かべている。しとめたはずの攻撃をあっさりと防がれたのだ、無理もない。だが、男はすぐに再び笑みを浮かべると、フロートに言い放った。
「……フッ、なかなかやるようだな。だが、次の攻撃を凌ぐことはできるかな?」
「な〜に余裕こいてんだ。ミサイル針はあっさり防がれたじゃねえか」
そう言いつつも、フロートも一応目で合図して、コイルに警戒を促す。相手の男が最初に襲撃してきたときには、背筋が底冷えするような恐ろしい殺気が感じられたのだ。それは揺るぎのない事実。この男の実力は、はったりではない。
「次の攻撃は、そう簡単には防げないはず。サンダース、エレニードル!」
聞いたことのない技の名前に眉をひそめるフロート。と、サンダースが全身の毛を逆立て電気をためる姿勢を見せた。さらに、尾の毛は激しく逆立ち、ミサイル針を思わせる形を取っている。
「まずいな。コイル、もう一回ソニックブームで防ぐぞ」
フロートがそう言うのとほぼ同時に、正確にはコイルの音の振動が防御壁を形作ったのとほぼ同時に、サンダースの逆立った尾から無数の針が電撃を帯びて発射された。
電撃を帯びた針達はソニックブームの壁にぶつかると同時に、あたりに電撃をまき散らした。不規則にまき散らされる電撃の中には、フロートやクリスをかすめそうになるものもある。
「サンダース、連射するんだ!
奴らを黒こげにしてしまえ」
どうやらあいては少しの隙もみせてくれないらしい。ありがたくないことにエレニードルを連射し続けてくれるようだ。
ソニックブームの防御壁にエレニードルが激しくぶつかり、激しい衝撃と轟音が響き続ける。
フロートが舌打ちして相手のサンダースを見つめていると、不意にクリスが声を上げた。
「フロートさん、あれ、あんなところにポポッコが!」
「ポポッコ?」
クリスの指さす方向を見てみれば、確かにポポッコが1匹この戦場に迷い込んでいる。水でも飲みに来たんだろうか?
しかしあの位置では……。
「あ、ポポッコ!」
言わんこっちゃない。エレニードル自体は当たっていないが、飛び散る電撃が何度かポポッコの体をかすめている。
「ったく、コイル、しばらくここ守っとけよ」
舌打ちしてコイルにそう言い渡すと、フロートは電撃が飛び散る中を防御壁から飛び出していった。
「奴が出てきた。サンダース、あちらにエレニードルを放つんだ!
もちろんコイルの方も忘れるな」
男がそう言ったのが聞こえた。が、フロートはポポッコの方へと走っていった。
ピスッ、ピスッ、ピスッ
背後で地面に何かが突き刺さる音が聞こえたが、とりあえず当たっていないうちは大丈夫だろう。
ポポッコは状況がつかめずにおろおろしているように見える。きっといつもここで水を飲んでいるんだろう。
「よしっ!」
ポポッコまで後少し、フロートは跳んでポポッコを捕まえ、さらに数メートル転がってしまった。そして、回転が止まる一瞬、フロートの動きも止まる。
「今だ、サンダース、エレニードル一斉掃射!」
フロートがあわてて振り向いたときには、もうその目前までエレニードルの大群が迫っていた。
「フロートさん!!!」
クリスの悲鳴が泉に響き渡った。
ソニックブームによって作られた防御壁、その壁を挟んでも向こう側の様子ははっきりと見て取れた。ポポッコを助けに向かったフロートが、ミサイル針のような針を大量に打ち込まれた。
爆発、とまではいかないが、その周辺には砂埃が待っている。
「おじさん! なんてことすんのよ!
この人殺し!」
サンダースのトレーナーの男にそう叫ぶ、が相手は気にする様子すらない。
「仕事だ」
男がそうつぶやくのが聞こえる。フロートは本当に死んでしまったのだろうか?
少なくとも常人なら生きていられるとも思えない。そんなに親しい人ではないが、それでも2回も助けてもらっている。
「フロートさん!!!」
もう一度彼の名前を大声で叫ぶ。こんな時に、お話の中のヒーローだったら煙の中から出てくるはずなのに。しかし、何も起こらない。ダメだったのか……。そうクリスが思った瞬間だった。
「フロートさん、フロートさんってうるせえな。二度も呼ばなくても聞こえてるっての」
まるで伝説の中の勇者のように、切れていく煙の中からフロートの姿が現れたのだった。
「こいつがとっさに花びらの舞いで守ってくれなかったら、ちょっとやばかったぞ、今のは」
今だに電撃がはじけている砂埃が徐々にはれていき、フロートは立ち上がって男の方へと言った。
「な、何を!?」
ミサイル針を防がれた時同様驚愕の声を上げる男。フロートは傍らではねているポポッコをなでながら、
「今、言っただろう……。人の話は聞いとくもんだぞ」
子供を諭すように言うと、クリスの方へ向き直って言った。
「どうも、えらく心配かけたようだな……。ま、もうちょっとで片づくんで待っててくれ」
「え、え? ハイ……」
涙で目を潤ませながら、よくわからない答えを返すクリス。フロートは、さぁてと、と伸びをすると、クリスとコイルの所へと歩み寄った。
「な、何を?」
三度、男が同じことをつぶやく。
「決まってんだろ。おまえを倒すの」
「守っているだけの貴様に何ができる?」
「そうだな……、例えば」
そう言うと、フロートは宙に浮かんでいたコイルをいきなり鷲掴みにしてその目をサンダースの方へと向けた。
「こんなのはどうだ? 電磁砲」
唇をにっとつり上げたフロートがそう言ったときには、コイルの瞳から放たれた強力な電磁波の塊はサンダースを確実に射抜いていた。
サンダースが電磁砲のダメージと、麻痺とでその場に倒れ伏す。
「電磁砲? そんな賭のような技、まぐれにすぎん! 次のポケモンで相手をしてやる」
そういって男が残りのボールからポケモンを出す。が、ほぼ一瞬でそのすべてが電磁砲に射抜かれる。さらに、そのままコイルの瞳は男の方へと向けられる。
「悪いが電磁砲が当たったのはまぐれではない。その最後のポケモンを出させるつもりもない」
もっとも、後半部分は、電磁砲によって気絶した男の耳には入っていないだろうが……。
「終……ったんですか?」
「ああ。悪者は気絶したから、もう大丈夫」
背後で心配そうに聞いてくるクリス、手を振って答える。フロートがクリスの縄をほどいていると、たまりかねたようにクリスが聞いてきた。
「あの、さっきから企業だの始末だの、なんだったんですか?
それに、電磁砲って命中率半分って言われてるようなばくち技ですよ。まぐれじゃないってどういう意味ですか?」
「あの電磁砲のねらいを付けてたのは俺だよ。いわば、そうだな、射撃みたいなものか。コイルはただまっすぐ電磁砲を撃っただけ。まぐれじゃないのは俺の腕がいいから」
縄を解きながら、都合のいい方の質問にだけ答えるフロート。クリスは納得がいかないようで、そんなフロートをにらんでいる。
「わかった、わかったよ。しゃーねぇな、クリスにも話すしかないか……、『ダーティ・ライオン』のこと……」
「『ダーティ・ライオン』?」
「あぁ、実はな……」