風の向くまま−4 ダンディライオン




ワカバタウンの南に、弓なりに広がるリーズン諸島。そのリーズン諸島の中の最大の街、カウズシティにあるとある零細企業のビルの屋上にフロートは立っていた。いつものようにその銀髪を風になびかせている。
「そいじゃ、まあ、ラスボス戦といきましょうか」
そうつぶやくと、エアームドで屋上の扉を破り、中へと入っていった。


このビルはつい昨日来たところなので、勝手などはだいたい分かるつもりである。ただ、社長室がどこにあるかはわからないが……。
「き、貴様は、ダーティ・ライオン!」
「残念ながら人違いだね」
通路の陰からでてきた平社員(おそらく)を適当に気絶させるとさらに通路を進んでいった。
「俺は、もう、ダーティ・ライオンじゃないからな……」
倒れている男につぶやきかけながら。


―――――昨日、刺客の男を倒した後。
「俺の仕事は、裏世界の武器運び屋。一応『ダーティ・ライオン』って名前でそれなりに通ってるんだが、ま、人に恨みを買うことも多くてな」
クリスの隣に腰掛けると、空を見上げながらフロートはしゃべりだした。どこか少し遠い目で見つめる先には、何もないのだが。
「こんな俺だけど、一応殺しは絶対しないっつー信念があってな。今回の仕事は、何を考えてか暗殺の依頼で、それを断ったらご覧の通りってことだったんだ」
「それって、つまり単なる逆恨み、みたいなもの?」
「どうだろう……、そんなに簡単なことでもないとは思うんだが。おおかた俺をほっとくと危険とかそんな感じだろう。何せ向こうで交渉決裂した瞬間にいきなり襲ってきたからな。そいつらはあっさりと倒しといたけど」
ちょっと考えながら、フロートが答える。今回の相手は確かに妙なことだらけだった。たかだか零細企業なのに、なかなかの腕のポケモントレーナーで襲ってきた。他の会社なら自分が依頼を蹴ったくらいではなんにもしないのがふつうなのだが、その場で終わらずにさらに追撃が来た。しかも周りの人間を巻き込んで。
「それより、なんで『ダーティ・ライオン(汚れたライオン)』なんて名乗ってるんですか?」
考え事モードから、クリスの不意な疑問で引き戻されたが、
「ん、まあ、仕事がこんなだろ。それに、一応こいつの陸運が元々の始まりなんだ」
そう言いながらモンスターボールを出す。そこから出てきたのはウィンディ。
「ウィンディなら、まあライオンっぽいだろ。そう言うわけ」
そうつぶやきながらウィンディを再びボールの戻す。
「でも、あたしならもっといい名前考えるけどな。「ダーティ・ライオン」なんていかにも悪役だし。……そうだ、『ダンディライオン』なんてどう?」
「『ダンディ・ライオン』、てーと、洒落たライオンってか? そりゃなんでも、」
クリスのとんだ提案を否定しようとするフロートの言葉を途中で遮って、クリスは説明を加える。
「それは『Dandy Lion』でしょ。違う違う、あたしがいってるのは『Dandelion』。つまり、タンポポのこと。ほら、さっきのポポッコのこととか、それにフロートさんって気まぐれだし、まるで綿毛みたいに。響きの中には『ライオン』だって残ってるしさ」
「……ま、考えとこう」
フロートはそれだけ言うと立ち上がった。
「はい、じゃあ後の決着は俺がつけとくから、クリスは帰りな。それとも、カウズあたりまで送ろうか?」
「いいです。あたしにも一応この子が居ますから」
そう言ってクリスが出したポケモンはバタフリー、それもここらじゃそうでもないが、珍しいと言われているリーズン種。オレンジとピンクのはねが泉を吹き抜ける風に揺れている。
「それじゃ、また縁があったら会うこともあるだろう。達者でな、クリス」
「ええ、それじゃ」
そう言うとバタフリーは風に乗って上空へと上がっていった。フロートはそれを見ながら、
(『ダンディライオン』か、悪かないな……)
自分自身につぶやいて見せた。


時は戻って、とある零細企業のビルの中。
「おい、そこの。社長室はどこだ」
少し身なりの良さそうな男を見つけて声をかける。つい昨日ここへきたばかりなので、フロートの顔はほとんどの者が見たことがあるだろう。男はビクッとふるえると、ただ通路の奥を手で指し示し、一目散に逃げていった。
「じゃ、ボス戦の開始ですか……」


とある零細企業の社長。彼は社長室で受け取った電話のその内容に驚愕していた。
先日の運び屋が襲撃にきている。
連絡をくれた者はそういった。刺客はやられたということだろうか? こうなってしまっては自分の身が危ない。ひょっとしたらあの運び屋の男はもうそこまできているのかもしれない。喧嘩を売るのではなったという後悔は後から後からわき出てくる。
コンコンというノックの音に我に返り、そしてドアノブに掛けた手を危うく止める。外にいるのは今にも襲ってきそうなあの男かもしれない。
「だ、誰だ!?」
「ご存じないですかね……?」
扉の向こうから聞こえてきたのは、予想通りあの男の声。さらに、
「開けないつもりならそれでもいいですよ。こちらにもそれなりの手段がありますから」
冷え冷えとした声で脅迫をかけてくる。先ほどから冷や汗がで続けてやまない。社長という座に座っているだけの、無力な男は、仕方なくドアノブを回した。


「とりあえず言っておく」
そう前置きをしてからフロートは目の前の社長に言った。
「貴様のやっていることは俺のルールを破っている。俺に対する逆恨みと、攻撃は、御法度だ。こいつはどこの社長さんでも認めてる。貴様が破るというのなら、それなりの報復もあるが……」
そこでじらすように言葉を詰まらせて、目の前の社長を見つめる。ダークスーツに身を包んだ、無力な男は、先ほどから冷や汗を流し続けて黙り込んでいる。
フウ、とため息をつくと、
「今回のことをすべて謝り、関係者にも今後一切手を出さないと言うのなら、今回だけは許してやる。どうするかは、貴様の自由だ」
目の前の社長は依然としてふるえている、が、唐突に思い出したかのように土下座をすると、手をついて謝った。
「ただな……、何もなしで許すとは言ってねぇよな」
バチィッ、と激しい電撃の音がした。フロートが立ち去った後のは元から黒い服をさらに黒く焦がした男が転がっていたという。


リーズン諸島とジョウト地方との間にある海、リュージュ海峡。その上を飛行するエアームドの背中に一人の男が乗っている。
鮮やかな黄色のバンダナを風になびかせ、その銀髪を青空になびかせている。
「ダンディ・ライオン(タンポポ)みたいに、フラフラと旅をするのもいいかもしれねぇな……」
そういいながら彼はモンスターボールを一個取り出す。中に入っているのは、彼のバンダナを同じ色をした花びらを持つポポッコ。彼はそのポポッコに語りかける。
「久々に旅を楽しむのも、悪かねぇ」


ジョウト、カントーに限らず、様々な場所を気まぐれに旅する一人の男がいるという。コイル・エアームド・ウィンディなどをつれていて、「鉄の旅人」や「スナイパー」などの通り名で呼ばれている。
だが、もっともよく知られている通り名は「ダンディ・ライオン」、すなわちタンポポ。その旅の仕方の気まぐれさがタンポポの綿毛に通じていることや、時たま見せるポポッコの強さ、そしてトレードマークの黄色いバンダナ。そんなところからつけられた通り名らしいが、その真相を知る者はいない。


End


−3 攻める戦い放浪記トップ