20.




「蜜柑、こっち来い」
家に帰るなり飯島明久はあたしを自分のほうへ手招きした。


「…」
「蜜柑さん」
野島さんはあたしの背をそっと押す。


「私は外しますね」
「…あぁ」


野島サンが家を出ていってしまって。
あたしは、ふたりっきりの雰囲気にドキドキしていた。

静かな室内…。


「ほら」
飯島明久のほうへ自然と身体が動く。
二人の距離が縮んで、ついにその距離はなくなった。

飯島明久があたしを抱き締めたのだ。


なんで?
なんでここはこんなに安心するんだろう。


「で?蜜柑、言いたいことがあるんだろ」
耳元で声がする。

「あなたは…あたしに何も言わない。会社のことって、あたしの口出すことじゃないって分かってます!
分かってますけど…。さっきの野島さんの言い方じゃ、あたしとのことも関連してるみたいだし。
わかんないです!あたしは、意味もわからずここに居なきゃいけないなんて、嫌なんです」

あたしが言うと、飯島明久は少しして口を開いた。

「…端的に言うと、うちの会社は、今度、双海商事と統合するかもしれないんだ」
「…え?」

会社が…なくなるかもしれないの?

あたしが不安で飯島明久を見つめると、彼は笑った。

「どちらかがどちらかを吸収と言う形ではない。
しかし、合併と言うからには、上の役員達の入れ替えも入ってくる」
伊島明久は続けた。
「俺が主体となってやっていくのに、親父は俺が独身じゃ示しが付かないって言って、
無理矢理見合いを強行させたんだ」
「俺はその態度に腹が立って、結婚を約束した人が居るって言って、見合いを断りつづけた。
だけど、限界はいつかやってくる」

だから、飯島明久はあたしを。


「あたしは…タイミングよく現れただけの」


あたしはやっとで言葉を出した。

飯島明久は苦笑して。


「確かにはじめは利用出来るかもと思った」


という。



「でも、おかしな話だよ。俺はいつのまにか」




「お前を好きになってたよ」



あたしは顔をあげた。
飯島明久は目の前で微笑んだ。


「蜜柑」


抱き締める腕に力が篭もる。

「俺は蜜柑と本当に一緒になりたいと思ってる」




「お前は…嫌か?」





そう、あたしにだって。
12時の魔法がとけるときが来る。






あたしは返事の代わりに飯島明久に抱きついていた。