6.
 一階にあるレストランに連れていかれた。
あたしは、一体何がどうなってるのか分からなくて周りをきょろきょろ見渡す。
ある窓際の席の前に行くと、野島さんはあたまを下げた。

「遅い」

そう言ってあたしを睨んだその男は。

「あ、あたしの靴が当たった運のいい男!!」

すみません。
自分を正当化しました。

でもね?他人の靴が当たるの何て、すごい確率だと思わない?
一生に一度あるかないかよね?
ある意味、かなり運がいいわけで…。

「なんだ、そりゃ…」

男は眉を寄せて、溜息をついた。

「ま、さか…あたしに慰謝料請求!?」
「それが助けてやった恩人に言う言葉か?」

そう、その人を上から。
高層ビルの最上階から見下ろすようなその態度。
怖いって!!

恐怖から、やっと意識を取り戻し、
「助けたって…何を?へ?」
さっきの言葉の意味を考える。
誰を?あたし?
「ほぅ…、覚えてないとは」
男は目を細める。
「な、なにかしました?あたし…」
あたしの言葉に、男はまた眉を寄せた。

「全く覚えてないのか」
「えぇ、全く、全然、キレイに、どっさり、覚えてません」
「『どっさり』は違うと思うぞ」

すばやいツッコミにあたしは苦笑。
っていうか、怖すぎて、笑わなきゃやってられないわよ。
引き攣った笑いだけどもね…。

「とにかく、靴は当てられるし、昨日は大変だし。相当、俺のことが嫌いらしいな」

男は、そう言ってあたしを見た。
やっぱ、こわ…。

「…つかぬ事をお伺いしますが、あなたヤクザですか?」

あたしが聞くと、その男と野島さんは、目を丸くした。
そして、のちに、隣にいた野島さんは慌てて、男は爆笑するのだった。

「な!?」
「俺がか、…そうか!」

男は息をするのも苦しそうだ。
…そこまで笑わなくても。
「ち、違いますよ!!この人は…!!」
野島さんがいいかけると、男はそれを制止して、
「まぁ、いいじゃないか。…それにしても、本物のヤクザでも、そう聞きそうだな。蜜柑は」
と言った。

「なんで名前…」
「カバンのなか見せてもらった」
「は!?なにすんのよぅ!!」

あたしが怒っても、男は、あたしを指差し、
「不真面目OL。仕事、あるんじゃないのか?」
と、余裕の表情を浮かべた。
時計の針をあたしに見せながら。

「ぎゃッ!!時間!!」
あたしは、慌てて立ち上がった。
「もう、完全遅刻よーーー!!」

今まで寝坊してしまったことはあるケド、連絡をし忘れた遅刻は初めてだ。

「…」
あたしは、服に目を向けた。
昨日のまま…やばいよね、これは。

「しょうがない、最終手段よ」
あたしは、電話を探した。
くそう、ないわ。部屋に戻って、携帯で…。
そんなあたしを見て、男は、
「ちょっと、待て。蜜柑」
と、手を掴んだ。
「なによ」
「こっちの問題は解決していなんいだんだけど?」
それどころじゃないのよ!
「あたし、今から、会社に電話して、凄くしんどそうな声で、
風邪引いたんですって言わなきゃならないのよ」
あのハゲにね?ハゲ上司にね?
電話しなきゃならないの!
あたしが慌てていると言うのに、男は微笑んで、
「大丈夫だ」
と言った。
「だから、大丈夫じゃないんだって。今日は、よくわかんない接待の席でお酌して、
考えられない声色で、話さなきゃならないんだから…」
「そんなことやってんのか」
「しょうがないでしょ。ただの会社のお飾りみたいなもんなんだから」

あたしは下を向いた。
すると、人生が走馬灯のように蘇ってくる。
あたしは項垂れた。

「こんなことなら、高校3年の進路相談のとき、先生の反対押し切っても、
泥棒になっておけば良かった」

そうよ、あそこよ。
あそこで人生が変わったんだわ。
先生!一生恨んでやる!

「…は?」
「なりたかったのよ。キャッツアイみたいな泥棒。だけど、それを描いたら先生に怒られて、
泣く泣く短大志望にしたってわけ」

あたしは昔に酔いしれて外を見た。
男は溜息をつくと、

「…バカ、だな」
と一言。
「何をッ!!??」
あたしが食って掛かろうとすると、男はそれを制して、「でも、嫌いじゃない」
「嬉しくないんですケド。心から」

「…よし、蜜柑。お前なんでもするよな?なんせ靴当てた上に、あんなに迷惑かけられて」
「え?あのー…お金とかはちょっと…。あたし貧乏なんで」
「一緒にきてもらおう」

そう言って、男はあたしの腕を掴んで立ち上がった。

ちょっと待て。
あたし、連行されてます!!??


やーだー!
助けてっ助けてっ!
きっとどっかの国に売られて、内臓とか売られちゃうんだわ!
いやっ!そんなのっ!
せめて、キレイなまま東京湾に沈めるか、雪山に埋めて!


って、それも嫌ぁぁぁあああ!!