7.
 着いた先は、あたしの会社。
飯島商事だったわけで…。

エレベータに乗せられたかと思うと、最上階まで連れていかれた。

――ちょっと…。
なに、この展開。

「社長室…って。って、って、って…」
あたしは部屋のプレートを見て、男の腕を掴んだ。
男は、あたしを見下ろすと、
「さて、どうしてでしょう」
と笑った。


部屋に入って、

「父さん」

飯島秀明社長に男は言った。
写真しか見たことないよ。
社長は立ち上がって、こちらを見ると、
「明久」
と一言。


「飯島、明久?」


飯島明久。
あたしの記憶が定かであれば、社長の…息子。

ははは。そんなことあるわけないって、笑って自分を誤魔化せる状況でもなくて。
あたしは、男を見て引き攣った顔になった。

男は…いや、飯島明久はしれっとした顔で、
「この人が前に言っていた婚約者です。北村蜜柑さん」
と言う。

「はぁ!!??」

誰よりも反応が早かったのはあたし。

その後、社長は顔を青くすると叫んだ。
「そんな一般人とっ!お前は一体何を考えて…」
飯島明久は笑う。
「条件を飲んでもらえないんなら、俺は手を引きます」
「…っ!」
社長がひるんだ。

ど、どういうこと?
状況が全く把握できない。

なにこれ?なにこれ?なにこれーーーー!?


社長は、息を呑むと、無理矢理笑顔を作って、
「お、…めでとう。挙式はいつにするかな」
と、言ったのだった。


「っておい!!待てぇい!!」


思わず素早くつっこんでいたあたし。

「蜜柑、うるさいぞ」
「だからっ!あたしは、嫌だし!って、そもそも、なんで、あんたなんかと!!」

さっきから、大声だし過ぎて、ぜーぜー言いっぱなし。
肩が上下しまくってるわよ。
もう酸欠寸前。
なのに、飯島明久は不敵な笑みを浮かべた。

「これは取引だ。これが嫌なら、お前はクビ。なぜなら、俺に靴を当てた上に多大な迷惑をかけたんだからな」
「…ひ、卑怯」
「地位が上のものが有利な取引をする。これは当たり前のことだろう?」

世の中そうよね?
でも、今はそんなこと言ってる場合じゃ…。

「でも、でも…!!こんなの…」
「とにかく話は家で聞こう」

そんなズルズルと引きずらないで。
あたしは、ネコかい…。



こんなこと起こっていいわけ。

少女漫画じゃあるまいし。
水戸黄門じゃあるまいし。
遠山の金さんじゃあるまいし。

そんな…。


じつは、靴ぶつけた男が、Jr.だっただなんて…。