『幸せの扉』 第2話『涙』


0.
―――私は幸せな『夢』を見ていた。

健ちゃんが…目の前に居る。
ずっと、ずっと、会いたかった人。


私は、健ちゃんに抱きつくと、キスを交わした。
「ん…」


健ちゃんもそれに答える。
何度も何度も、キスをした。

「もう…どこにもいかないで…」
「…う、うん」
「会いたかった……ずっとずっと、会いたかったんだよ」
私がまた泣き出すと、健ちゃんは頬に優しくキスをしてくれた。



1.
「んっ…」
健ちゃんの大きな手が私の小さな胸に触れる。
私は、その瞬間、小さく体を強張らせた。

「大丈夫だよ」
健ちゃんがそうささやく。
私はその声を聞いて、体からフッと力が抜けていることに気付いた。


「好き、好きだよ。…大好き」
私は、健ちゃんの愛撫を受けながら、その言葉を繰り返していた。

今までの時間分。
ずっと、会って言いたかった。

「俺もだよ」
健ちゃんはそう言うと、手を太股に移す。



―私は、どんどん、健ちゃんの顔がぼやけてくるのを感じていた。



「あっ…んっ……」
大事そうに…優しく、太股を撫でられる。
しかし、焦らすように、中心の部分に触れそうになるが、触れない。
「ふぁ…あっ……あぁ……んっ」
私の体は、どんどん熱を帯び始めていた。

「け、健ちゃん…。私、健ちゃんが…」
「ん?」
「健ちゃんが、欲しいよ…」
私は、その言葉を口にした瞬間、顔が真っ赤になるのを感じた。

「かわいいよ」
健ちゃんはそう言うと、簡単に下着を取り、中心の部分に触れる。

触れた瞬間、もう十分といって良いほど、溢れていた私のその部分は、クチュッという音をたてた。
「あっ…」
健ちゃんは、わざと音を立てて、余計に私を感じさせる。
「あんっ…!」


音は良く耳につくのに、視野は薄れていっていた。
健ちゃんの顔はもう見えない。
ぼやけて、輪郭だけになっている。


私は、それが恐くなって、健ちゃんにしがみついた。
「何?」
「やだっ…どこにも、行かないで…」
「行かないよ…」
健ちゃんは、そう言った。


それから、私の中に優しく指をさし入れる、
「んっ……!あっ…」

異物感…。
少し、胃がむかつく。
しかし、その感覚もすぐに、快感に変わった。

「あっ……ふぁ……んっ…あんっ……」

その部分は、完全にとろけきっている。
大好きな健ちゃんの愛撫を受け、健ちゃんを受け入れるためなんだ…と、思うと、嬉しくてしょうがなかった。

「いくよ」
声だけがふってくる。
私は、ギュっと目を閉じて、その時を待った。


「んぐっ!」
健ちゃんが、入ってくる。

少しだけ、顔をしかめてしまう。
「大丈夫?」
健ちゃんの、心配そうな声。
私は、1つだけ、コックリとうなずいた。

「あっ…んっ………健ちゃん…健ちゃん…」
「んっ」
「んぐっ…んっ…あっ…」
声が漏れる。

頭の中まで、とろけてしまったみたいだ。

「…ふぁ……健ちゃん!」
私は、いとも簡単に絶頂に達してしまった。



2.
「苺ちゃん」
「んっ…もうちょっと…」
「こら!学校、遅刻するよ?」
「やだっ」
「ったく」
ギュ〜っと鼻をつままれ、息ができなくなる。


「んあっ!!」
「やっと、起きたか…」
目が覚めると、私は、白くて狭いベッドの上に居た。

朝から、薬品の匂いが鼻につく。

「ん…?」
私は、自分の体に視線を落とした。

「…」

は…だか。…裸!?

「……んぎゃぁあ!!?ここっ!?へっ!?何!!?」

「そんなに、驚かなくても…」
神田先生は困った様に言った。

先生のほうに目線をやると、白衣ではあるが、白衣の下は、何も着ちゃいない。
「きゃぁぁあ!近寄らないで!!」
「ひどい言われようだなぁ。昨日は全部見せあった仲だろ?」
先生は、やれやれ、と、近づいてきた。

「やだっ!こ、来ないで〜〜!変態っ」
「変態、は酷いなぁ」
「も…もしかして、私が寝てる間に…!?」
「寝てなかったよ。起きてた」
「う、嘘でしょ?」
「本当」
先生は、ニッコリ笑った。

「変態!そ、そんなの…」
「苺ちゃんから、抱きついてきたんだよ?その気にさせたのも、苺ちゃん。しょうがないよ」
「しょ〜がなくないっ!!」
「まぁ、あれだけして欲しそうにされちゃ、俺もしないわけには、いかなかったしなぁ」
「うっ…」
「俺を『健ちゃん』って、ヤツと間違ってたんだろ?」
「何で…」
「何回も、何回も言ってたからな。『健ちゃん』って…」
「う、うるさいっ!」


くぉ〜〜!!
一生の不覚だ…。

コイツを、健ちゃんと間違うなんて…。
し、しかも…H…まで…してしまうなんて。



3.
「『健ちゃん』って誰だい?」
「先生に、言う必要はないです」
「それが、あるんだなぁ。なんせ俺は、『健ちゃん』に、間違われたうえに、苺ちゃんとセックスまでしちゃったわけだし…」
意地悪に、そう言う先生。

「あれは…事故です!忘れてください!!」
「いいや、忘れないよ」
先生は、嬉しそうに笑って言った。


嬉しそうに…というのは、人の弱みを握って、嬉しそうに…という意味だ。



「『健ちゃん』って、彼氏?」
「…そうです」
私は、正直に答えた。


「どこに、居るの…?」


「…」
私はうつむいた。


「ん?」

「それがわかったら…苦労してません!」
私はそう言うと、シ〜ツを、体に巻きつけて、その場を回避した。

「あ、服なら、洗面所のほうに置いてあるよ」
先生がそう言った。


私はそれを聞くと、洗面所に走っていた。


4.
「『それがわかったら、苦労してません』…か。つまり、苺ちゃんは、ソイツを探してるわけだ」
先生は、洗面所の入り口に立つと、そう言った。

「…」
私は、無言で服を着替える。

「お?無視?」
先生は、笑って言った。


「う、うるさい!」
「なんだ、聞こえてるじゃん」

「…どうして、そんな事、聞くんですか?」
「どうして…って。まぁ、Hした仲だし。聞く権利はあるんじゃない?」
「それを聞いて、何か得でもするんですか?」
「知りたいんだよ。君のこと」
「分かって、どうしようっての?私は、健ちゃん以外に、誰にも分かって欲しくない」

「へ〜…健ちゃん、愛されてるね」
先生は、からかうように言う。

「健ちゃんは、先生みたいに不誠実じゃない!」


私がそう言った瞬間、先生はムッとした顔になった。


「俺が、不誠実だって?それこそ、苺ちゃんが、勝手に思ってるだけじゃないか」
少し、迫力の有る声質に、私は少したじろぐ。


「だ、だって…誠実なら、あんなに不特定多数と、Hしたりしないわ!」


「俺は、あの中の皆好きだよ。ちゃんとね。でも、アイツらは他にちゃんと好きなやつが居るんだ。
そう、君みたいにね」
「そ…そんなの、誠実じゃないよ。本当に愛してるなんて言えない」

「それは、君の勝手な観念だろ?人に押し付けないで欲しいな。
俺は、俺なりに、ちゃんと、人を愛してるんだよ。
『健ちゃん』みたいに、急に居なくなって、好きなやつに探させたりしない。
そっちこそ、『健ちゃん』は、苺ちゃんのこと、愛してなかったんじゃないか?
俺なら、好きな女を一人にしたりしない!!」


先生は、そう言ってから『言ってしまった』という、顔をした。


私は、先生の言葉に、ズキンときていた。
本当に…痛い…。


私は、自然と涙がこぼれていた。



男とケンカして、泣いてしまうような…弱い女の子にはなりたくなかったのに…。
健ちゃんを探しに出たとき、泣かないって決めたのに…。



私は、自然と出てくる涙を押さえることはできなかった。



つづく