0. 「はぁ〜」 次の日の勤務中、三枝は、ため息をついた。 どうして…。 俺はあんな事を…してしまうんだ? あの子の目。 体。 つい引き寄せられてしまう雰囲気がある。 あの子の前に出ると、自分が変わるんだ。 でも、あの子は中学2年生…だよな。 立派な犯罪だ。 ついでに言うと、俺はロリコンじゃない! 今まで、付き合ってきた女は、同じ年か、1つ2つ下かくらいだ。 それが、どーして…。 気になってしょうがない。 同情なんかじゃないんだ…。 頭から離れない。 「あぁ〜!もう、わからん!!」 三枝は、そう言って、頭を柱にぶつけた。 「大丈夫か…?三枝…」 加納さんが驚いて聞いた。 そりゃ、自分の部下が、何やらブツブツ言った挙句、柱に頭をぶつけているのだから、驚きもするだろう。 「あ、あぁ…すいません」 三枝は頭をかいた。 「どうしたんだ。本当に…」 加納は、少しあきれたように、三枝を見た。 「いや、どうも…納得がいかないんです」 「何がだ?」 「あの子ですよ!村岡 知野!」 「あの子がどーした?」 「昨日、頭から血が出てたので、病院に連れて行ったんですよ。 担当した医師は、昔からの知り合いで…率直な意見を聞きました。 …やっぱり、あの傷は、虐待によって付けられたものと見るのが、普通だそうです」 「だろうな」 「それでも、動いちゃいけないんですか!?」 「動いたところで、あの子は『母親につけられたんじゃない』と言うよ。 それを言われちゃ、警察ももう、動けない」 「現場を見つけたら…!」 「ずーっと、あの子の家に、張り込みでもする気か?そんなに、暇じゃないだろ?」 「でも…」 「どうして、そんなに、こだわるんだ?」 「放って置けないんですよ!」 「そうか」 と言うと、加納は笑った。 1、 「どうも、調子が悪い…」 私は、カゼ薬を買ってきて飲んでいた。 「はぁ…また、休んじゃうよ…。学校」 私は、小さくため息をついた。 それから、布団に入る。 眠りかけたその時、母親の篠が帰ってきた。 私は、つい、布団を頭まで被った。 「知野!!」 篠が、部屋の戸を開け、入ってくる。 「何、寝てんだよ!」 と言って、布団を取って、蹴ってきた。 「お…おかえりなさい」 「ほら、これ」 というと、紙を1枚渡される。 「…」 この紙は…、援交の相手の電話番号が載っている。 いつも篠から、新しい客ができたときに、渡されるものだ。 「今から、行っておいで!」 「ちょっと、カゼ気味で…」 「何が、カゼだよ!?そんなの、男とヤりゃ、治るよ!!ほら!早く!!」 篠は、そう言うと、私の腕をつかんで、立たせた。 「はい」 私は、そう一言言うと、さっさと、家を出た。 2. ≪コウ 090−6421−0000≫ その紙には、それだけ、書いてあった。 汚い字…。 きっと、篠が書いたのだ。 「コウさん…ね」 大抵、名前なんて、あって無いようなものだ。 私生活に影響し無いように、嘘の名前で相手を頼む。 「もしもし?」 私は、早速番号をプッシュした。 『どちらさまでしょうか?』 丁寧な言葉遣い…。 きっと、会社か、どこかに居るのだろう。 「コウさんですよね?」 とりあえず、確認。 『あぁ、えっと、その件でしたら、1時間後に、T駅前の喫茶サトウで…』 「はい。わかりました。それでは」 と、言って、電話を切った。 それから、1時間後に、喫茶サトウに行った。 そして、また、携帯をかけた。 近くに座っていた男が、電話を取った。 私は、すぐ電話を切ると、 その人の所に行ったのだった。 「コウさんですか?」 「そうです」 コウさんという人は、顔は普通で、まぁ、彼女は居そうな感じの人だ。 まぁ、そーゆー人でも、援交なんてするのよね。 「じゃあ、行きましょうか」 と、コウさんは言った。 「あ、はい」 即行だな…。 と、思いつつも、私はコウさんの車に乗りこんだ。 「あの、君は、シオリさんとどんな関係?」 と、コウさんに、聞かれた。 シオリとは、母の援交斡旋業でのみ使っている名前だ。 「あぁ、ただの、仕事の上司と後輩です」 「そうなんだ」 というと、コウさんは、少しうつむいた。 「???」 私とコウさんは、そのまま、ホテルへ直行。 ヤル事ヤって、帰る事になった。 風邪という事もあって、体力はもう限界にきていた。 帰り際に、 「又、会える?君のこと、気に入ったよ」 と、コウさんが、笑いながら言った。 「はい。じゃあ、いつでも、ここに電話下さい」 と、言って、無理矢理笑顔を作り、商売用の名刺を渡した。 「じゃあね」 コウさんの車を見送ったあと、私はその場に座りこんだ。 「あー…もう、ダメだ…」 私の意識は、そのまま、飛んだのだった。 3. 気がつくと、知らない天井の下に居た。 「どこ…?」 「あぁ、良かった。気がついたか…」 と、安心している人は…どっかで見たことあるような…。 「加納さん!?」 私は、驚いて起きあがり、加納さんをつい指差してしまった。 「もうちょっと、ユックリ寝ておきなさい」 と言って、加納さんは私をベッドに寝かした。 「どうして…?」 「パトロール中に、道端に倒れてるからビックリしたよ…」 と、加納さんが笑った。 私は、またもや、警察官なんかに助けられたの…!? 自己嫌悪…。 「あっ!!母には…!」 「言って無いよ」 「あ…そうですか。良かった…。ありがとうございます」 私は、加納さんにお礼を言った。 うん。 警官のクセに、少しは気が利くじゃない。 「ただ…」 加納さんが何か言いかけた。 「ん?何??」 「三枝には知らせといたよ」 と、言って、また笑った。 「三枝……さんに!!!?」 ちょっと、ちょっと! どうしてそう、余計なことを…。 頭痛が…。 「わ、私、帰ります!!1日入院しただけでも、どれだけかかるか…」 私は、ベッドをすかさず降りた。 点滴がついてて、邪魔だわ。 「ちょっと、安静にしてなきゃダメだよ」 「でも…」 「大丈夫。ここは、知り合いの病院だから。お金の心配はしなくて良いよ」 「だって…」 「ほら、寝て、寝て」 と、言って、年の割にある力でベッドに戻された。 私は、加納さんが帰ったら、病院を抜け出す作戦を立てた。 今日は、もう1人…会わなきゃならない人が居る。 だから… こんなところで寝ているわけにはいかないのだ。 4. 「もう、そろそろ、帰るとするか」 と、加納さんが、時計を見て、ベッドの横にある椅子を立った。 「どうも」 私は、一応、お礼を言っておいた。 「選手交代だからね」 と、加納さんは、分けの分からないことを言った。 「え?」 「ほら」 加納さんは、病室の入り口を指した。 すると、入り口の戸が勢い良く開き、三枝さんが息を切らしながら入ってきた。 「意識…戻りましたか!!?」 「戻りましたよ。もう、俺は、帰るから…シッカリ、見張っておいてくれ」 と、加納さんは、私にとっては、とっても、迷惑な発言をして出て行った。 5. 「あのー…私…帰りたい…んですけどぉ」 私は、ある人と会う時間を気にして、三枝さんの顔色をうかがった。 「ダメ」 三枝さんは即答。 う〜ん…。 困った。 とにかく、連絡だけは取りたい。 取って、日にち変更…きく…かな? 無理だろうか…。できることなら、会いたいのだ。 それにしても、なんだか、まだ、頭がグラグラするわ。 「とにかく!私…会わなきゃいけない人がいるのよ!お願い!! もう、大丈夫なの!私は!!」 私は、三枝さんの顔を見てお願いと、大丈夫を繰り返した。 「どうせ、援交相手だろ?」 三枝さんは、おもしろくないように言った。 「違う…わよ」 「え?」 三枝さんは、驚いた表情を見せた。 なんだか、失礼な反応ね。 私が、誰かと会うなんて、援交意外の何物でも無いと思ってるんだろう。 まぁ、外れてはいないけど…。 9割型、援交相手よ。 「誰と会うんだ?」 「言う必要は無いと思う」 「場合によっちゃ、連れて行ってやっても…」 「えっ!?ホント?………いや、やっぱ、いいわ。警察の世話になんてなりたくない」 「どうして、そう、警察を嫌うんだ?」 「前も聞いたわね。ソレ」 「皆が皆、悪いヤツばかりじゃないよ。警察は」 「そう?私は、そうは思わない」 と、言った瞬間、私は急に咳き込んだ。 「けほっ…ぇほっ……」 「ほら、まだ、全然、治って無いんだ。過労に睡眠不足。ついでに、栄養不足。 その上、風邪だぞ!?よく、そんなんで、行こうとするなぁ」 「大丈夫よ。今日は…行かなきゃ、ダメなのよ。せめて、連絡取らなきゃ…」 「…分かったよ。俺が、連絡してきてやるよ」 三枝は、困った様にそう言った。 「でも…」 「日にち変えてもらうように言うよ」 「うーん…」 警察の世話にはなりたくない。 でも、今日、会う予定の人は…大切な人なの。 本当に。 もし、『今日、約束すっぽかした』って、もう、会ってくれなくなったら困る。 それに、もう、時間も無いの。 6. 「やっぱり、行く。私…今日、会わなきゃ」 私は、点滴を自分ではずした。 そして、ベッドから降りると、体がグラグラ揺れるのが分かった。 「おいっ。無理だって」 「大丈夫だって言ってるでしょ!?」 三枝さんは、行こうとする、私の手をつかんだ。 「いたっ。ちょっと、離して。もう、大丈夫なの。だから…」 「あくまで『大丈夫』って言い張るんだな?」 と、三枝さんは、目つきが変わった。 「な、何!?」 三枝さんは、そのまま、私をベッドに押し戻した。 「ちょっと…!!」 そして、文句を言いかけた口を、唇で塞がれる。 「……んっ!!?」 「大丈夫なんだろ?ここでヤろうか?」 「ちょ、ちょっと…何考えてるのよ!!私は、もう、三枝さんとは…!」 三枝さんは、 「約束は、守ってもらわなきゃな…」 と、言って笑った。 「嫌なら言えよ。おとなしく寝てるって約束できるなら、やめるから」 と、三枝さんは言った。 「…いいよ。早く…しよう」 私は、決心をつけて言った。 こんなところで、グズグズしている場合じゃない。 早く、行かなきゃならないのよ…私は。 「何…言って…!?」 三枝さんは、ビックリした様子を見せた。 「ヤらないの?じゃぁ、もういいでしょ?」 私は、戸惑っている、三枝さんの顔を見て言った。 すると、三枝さんは、そのまま、またキスをしてきた。 「じゃあ、ヤろう」 三枝さんは、そう言った。 「う、うそ…?」 「ほんとう」 三枝さんはニッコリ笑った。 「熱いな…」 三枝さんは、服の下に手を入れると、そう言った。 「ふっ…あぁんっ……」 熱のせいか、いつもより、三枝さんの手が良く分かる。 そして、体の全てが敏感になっている感じだ。 さっきの…コウさんとかとやってる時は、演技だ。 声は、出して『あげる』のだ。 でも、三枝さんとは…違う。 勝手にこぼれ出てくる。 体全部が熱くなる。 体も、思考も、全部、私じゃなくなる。 だから嫌。 この人だけは…。 「あっ…あんっ……!」 「大丈夫か?」 三枝さんは、身体を気遣ってくれているみたいだ。 「う…ん……」 私は、うなずいた。 三枝さんは、私の足を開かせ、ゆっくりとその部分へ指を差し入れてくる。 その瞬間、クチュリと音がした。 「あっ…!」 「こんなに、熱くなって……」 三枝さんは、そう言うと、そのまま唇を重ねながら、指を動かしてくる。 「あっ…ぅんんっ…!」 「気持ちいいか?」 「なっ…なん…でそんなことばっかり聞くのよ…?」 私の声は、もう、かすれてきていた。 喉が痛い。 「嬉しいから」 三枝さんは、そう臆面も無く言うと、指を引き抜いた。 私は、その後、また意識が遠のいたのだった。 7. 「やだっ!時間っ!」 私は、意識が戻るとともに、時間を見て慌てた。 約束は11時。 時間は10時50分。 私は、ベッドにもたれかかって、良く寝ている三枝さんを、確認すると、 慌てて携帯を取り出して、番号を押した。 (病院での携帯電話の使用は、本当はダメだが…) 「もしもし。中塚さん?」 『あぁ、どうしたんだ?』 「ゴメンナサイ!本当にごめんなさい!今日…ダメになった…。 ちょっと、用事ができて!!あの…日にちずらしてでも会えないかな…? お願い!忙しいのは分かってる…」 私が、そう言うと、中塚さんは、少し考えて、 『いいよ。気にしないで…。それより…、少し、面白いことが分かりそうなんだ』 「えっ!?嘘!?何!?事件のこと!!?」 『そうだよ。まぁ、携帯だと話づらいから、いつ会える?』 「えっと、スグ…会いたいけど…。気になるよ…。いつあいてるの?」 『そうだな…明後日の夜10時は?』 「絶対行く!!ありがとう。本当に今日はゴメンなさい!」 『いいよ。じゃあ』 と、言って、電話は切られた。 8. 私は、少し笑顔になった。。 「何だろ…。早く…聞きたかった」 「へー?何を?」 と、言うと、三枝さんが起きあがってきた。 「えっ!?」 さっき、良く寝てた…よね? 嘘…。 聞かれた!? 「き、聞いた?」 「何を?」 「いや…別に…」 私は、視線を窓に向けた。 風が強くなってきてる。 木の葉が、風で飛び交っている。 雨が今にも降り出しそうな天気だ。 「援交相手?」 というと、三枝さんは、携帯を指した。 「え?」 「さっき、電話してたの」 「そ…そうよ」 私は、そう言うと、布団を被って、 「しんどいから、寝るわ」 と、言った。 コレ以上、何か言われない前に…。 9. 「中塚……って、まさかな…」 三枝さんは、小さくそう呟いた。 その呟きは、私の耳までは、届いてなかった。『大切なもの』 第3話『くもり空』![]()
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