0. 午前7時。 朝のテレビのニュ〜スが、台風の接近を告げる。 昼には上陸する様だ。 私は、窓の外に強く吹く風と、その風にふりまわされる落ち葉に目をやった。 「どうした?」 三枝さんは、私の顔を見て聞いた。 「別に…」 「何でも言えよ?」 「本当に、何でも無いよ。台風が…来るなぁって、思っただけ」 「そうか。もう、そろそろ、台風もやってくるな」 「うん」 私は小さくうなずくと、ベッドを抜け出した。 「今日は、加納さんが用事あるらしいんだ」 「ふーん」 「一緒に来いよ。それか、中塚の家に戻るか?」 「う〜ん…一旦、中塚さん家に戻るよ」 「中塚に電話しとくな」 「うん」 ここ最近…というか、あれから、妙に、自分が自分に素直だった。 そうさせてくれたのも、三枝さんだった。 1. あれから、三枝さんと、中塚さん、加納さんに協力してもらうことになった。 『私一人で無茶しないこと』 という、条件付きで。 しかし、私の心の奥では、やはり、人に全面的に頼れない…気持ちがあった。 捲き込みたく無い人達を、捲き込むのは、やはり、辛い。 それに、今まで、人に頼れなかった部分があったので、 『人に頼る』という行為自体に、抵抗があった。 2. 午前9時。 私は、三枝さんに中塚さん宅に送り届けられた。 それから、三枝さんは、すぐ勤務に向った。 「やぁ、久しぶり」 中塚さんは、私を見るなりそう言った。 「一昨日来たばかりでしょ?」 「最近、三枝ん家に居てるほうが多いんじゃないか?」 中塚さんが、からかうように言う。 「そう?」 私はそれを軽く受け流した。 「まぁ、いいや。入りなよ」 「うん」 私は、うなずくと、中塚さんの部屋に上がりこんだ。 いつ見ても、資料や写真が散らばっている部屋だ。 … 一昨日…来た時も、掃除したような…。 「もう!!ちょっとちゃんと、整理したら?」 「知野ちゃんのやることを作っといてあげたんだよ」 ぬけぬけとそう言う。 「何、言ってんだか…。ただ、汚してるだけじゃない」 「あはは…」 「笑って誤魔化さない!」 私が怒ると、中塚さんはまた笑った。 3. 午前10時。 「ここだ、ここ」 加納は、やってきた男を見ると呼んだ。 加納は、近くの喫茶店にやって来ていた。 ある男、と会うために。 「加納がわざわざ出てくるなんて珍しいな」 その男は言った。 12年ぶりに会う男。 …高田 充。 全然、変わっていない。 「そうか?」 「どうだ?そっちは?」 「静かな街だよ」 「だろうな」 高田は笑った。 「12年前、お前が、急に転勤願いを出した時にはビックリしたよ」 「そうか。吸うか?」 加納は、そう言うとたばこを取り出した。 「いい。で、なんだ?」 「あぁ、お前、村岡 篠の事件、担当してたよな?」 「そうだ。でも、加納が居たら、加納が捜査本部の部長だったんじゃないか? 官僚の道まっしぐらだったお前だからな…」 そう言うと、高田はひきつった笑いを見せた。 高田が、官僚の道にいながら、その道をたやすく捨てた加納のことを さげすんで見ていることくらい、加納は良く分かっていた。 「上から見てると分からないことは、たくさんあるんだよ」 12年前。 そう言った、自分の台詞が、加納の頭をよぎる。 そういえば、コイツは、その時、 「馬鹿な真似を…」 と、言った。 『高田には、一生わから無いだろうな…』 加納は、そんな気持ちで居た。 「そんな、昔の事はどうでも良いよ。で、どうだ?」 「どうだ?って…?」 「犯人の調査とか…進んでるのか?」 「まぁ、なんとか…な」 高田は、あまり、話したく無いような口ぶりだ。 「お前の意見は?」 加納は、ズバリと聞いた。 「どーゆー…事だ?」 「どう、思ってるか…だよ」 加納は口端を少し上げた。 「そりゃ…、ニュ〜スやワイドショ〜なんかで、言ってるとおりだと思うよ。 あれは、やり過ぎだけどな」 「ってことは、娘が犯人だと?」 「そう言うこと」 「本当にそう思っているのか?」 加納は、高田の顔を見た。 高田は、表情を変えない。 しかし、その目は、何を考えているのか曇っている気がした。 「加納…あんまり首を突っ込むな」 「いや…別に…」 加納がそう言うと、高田は眉をしかめた。 「あの部下の…」 「三枝か?」 「あいつは…どうも…」 「なんだ?」 「どうも、好かない」 「そうか?あいつは、良い奴だよ」 加納はそう言うと笑った。 「三枝は、首をつっこみすぎだ」 高田は言った。 「どういう意味だ?」 加納は少し焦った。 三枝と中塚くんと、俺が組んで、 警察を調べていること…知っているのか…? 「そのままの意味だよ。首になりたくなかったら、首を突っ込むな…とでも、 言っておいてやってくれ」 「ほう。何か、探られて困ることでも、あるのか?」 「そんな事は無いが…」 「そうか?」 「…個人的にな」 高田は小さくそう言った。 「え?」 加納は、そう言った高田の冷たい声を聞いて、鳥肌が立った。 昔の高田とは、少し違う雰囲気を感じた。 昔は、あくまでも、上を目指すだけの奴だったが…。 何か…違う。 今は…。 分からないが… 一体ドコが…? 「…じゃあな。ちょっと、用事があるもんで」 高田はそう言った。 「そうか。すまんな。今日は」 「じゃ」 高田はそう言うと、足早に喫茶店を出た。 4. 午後1時。 私は、中塚さん宅で掃除をし終わっていた。 「やっと、片付いた!」 「ご苦労様」 中塚さんは、あくびれも無くそう言う。 「もー!どうして、1日や2日で、あそこまで、汚せるかが不思議だよ」 「そうか?」 と、言って、また笑う。 …と、そこに、電話が鳴った。 「もしもし?……あぁ、すぐ行く」 中塚さんは、電話を置くと私に、 「ゴメン!仕事ができた!知野ちゃんは三枝のところに行ってくれないか…?」 と、言った。 「うん。いいよ。早くいきなよ。何か事件でしょ?」 「警察関係らしい!あとで、詳しく話すよ。じゃあ、気をつけて、三枝の所に行くんだぞ!?」 「分かってる」 私は、そう言うと、中塚さんの後ろ姿を見送った。 警察の…何だろう? 気になるなぁ。 私は、そう思いながらも、中塚さん宅を出る準備をした。 そして、留守電にセットする。 すると、また、電話が鳴った。 『中塚です。ただいま留守にしております。ピ〜っと、なりましたら……』 留守電の応答メッセ〜ジが流れる。 あぁ、きっと、中塚さんの仕事関係だろう。 私は、そう思い、玄関に向った。 『もしもし?警視庁のものです。ちょっと、聞きたいことがあるので折り返し…』 電話機から、その声が漏れる。 …け、警察…!? それに…この声は…、電話だけど…電話だから、良く分かる。 私は、つい、電話器のところまで走ると、無意識に受話器を取っていた。 「もしもし」 『中塚さんですか?』 「村岡 知野です。たぶん、「あなた」、が捜している」 『…!?』 「お久しぶりです」 『…………捜してたよ。ずいぶんと』 「でしょうね」 『ずっと…連絡も取れなかったし…』 「私を?…それとも、犯人としての私を?」 『…君自身だよ』 「犯人だと、思ってるでしょう」 『お、思って無い。本当に、あれから連絡が取れなくて…寂しかった』 「は!?ウソでしょう?何が『寂しい』よ。冗談じゃないわ」 どんどん、怒りが込み上げてくる。 『…本当だ。また、会いたい』 「そうなの?私も丁度、あなたに話しがあるの」 『…………二人で会える?かな?』 「もちろん」 私は決意した様に言った。 5. 午後1時30分。 「三枝さん」 私は、三枝さんの居る、小さな警察署を尋ねていた。 いつもは、2人でいるのに、もう1人はパトロール中だろうか。 三枝さんしか、居なかった。 「あれ?どうした?中塚ん家じゃなかったのか?」 「中塚さん、急に仕事入ったらしくて…ね」 「そうか…」 三枝さんは、そう言うと笑った。 「三枝さん…」 「何だ?」 「あのね……ここで、して」 「え!?」 三枝さんは、私の顔を驚いた様に見た。 私の目は三枝さんを見て揺れ動かない。 「な、何言ってるんだ?」 「Hしてって、言ってるの」 「どうしたんだ!?一体…」 「何も無い。ただ、したくなったの。してよ。ねぇ」 私は、三枝さんの首に腕を回した。 「何で…」 「黙って」 私は、まだ、動きそうな三枝さんの口を塞いだ。 唇で。 そして、ズボンに手をかける。 「…んな、何だ!?一体……変だぞ!知野」 「黙ってって言ってるでしょ?」 私は、また、キスをした。 三枝さんは、驚きを隠し切れていない。 私は、三枝さんのモノを取り出すと、唇をそこにもっていった。 「ちょ…、知野!!」 「……」 私は、三枝さんの静止の声を聞かず、舌で全体を舐めあげた。 それから、口に大きく含む。 「うっ…」 三枝さんのは、だんだん、硬さを増していった。 「ふっ…んっ…んふっ…」 「…はぁっ……」 三枝さんも、やっと、声を出し始めた。 いつもは、三枝さんが、全部やってくれるから… こ〜ゆ〜のも、悪く無いだろう。 三枝さんは、私の髪をそっと撫でた。 手の暖かさだけが残る。 「…気持ち、良い?」 私は、三枝さんの顔を見た。 三枝さんは、 「…うっ……」 と言うと、同時に、グっと、喉の奥のほうまで挿し入れて、私の口の中に全てを出した。 「むぐぅっ!……」 喉の奥に、粘液が絡みつく。 むせるにも、むせることができない。 でも…大好きな人の味。 「早いよ?三枝さん…」 私はからかうように言った。 「ご、ゴメン」 三枝さんは、すまなさそうに謝った。 「そんなに気持ち良かった?」 「そ、そりゃまぁな」 「良かった。いっつも、してあげてないもんね。してもらうばっかで」 「俺は、してあげるほうが好きなの。知野の顔を見てるほうが…ね」 「変態っぽいよ…。その発言」 「そうか?」 「もう…」 私は、気を取りなおすと、もう1度キスをした。 「知野…」 「喋らないで」 三枝さんの体中にキスをする。 少しでも…自分の跡を残したくて…。 「んっ…」 三枝さんの声を聞くと…。 三枝さんの体に触れると…、私は信じられないほど自分まで濡れてしまっているのを感じた。 いつのまに、こんなに好きになってしまったのだろう? 強引で、やさしくて、時に子供っぽいこの人を…。 「知野…?」 「んっ…」 私は、下着を足首まで引き下ろした。 そして、片方の足にかける。 「三枝さんが…欲しいの。お願い…」 「知野…」 三枝さんはそう言うと、手を広げた。 「んっくっっ…!」 三枝さんの上から腰を沈める。 やっぱり、入れる時は少し痛い。 しかし、すぐに違う感覚が押し寄せることを私は知っていた。 他の人では、絶対感じることのできない感覚。 「はぁっ…ぁあん……あっっ…」 「知野」 「んんっ…な…に…?」 「どこにも行くなよ…一人で…」 三枝さんは、ぎゅっと私を抱きしめた。 「………くっ…ぅんっ…分かってる」 「絶対だぞ…!」 三枝さんが少しでも動くたび、快感の波が私を襲う。 「やぁあっ…んくっ……ふぁっ」 「知野…!」 三枝さんと私が結合してる部分からは、クチュクチュといやらしい音が響いている。 耳から離れない。 「もっと呼んで…な、まえ…」 もっと…。 「知野」 「三枝さんっ!くっぅっ…あんっ…」 「はっ…知野…!!」 「あっ…あ…や…!も…!ぁぁああ…!」 私は、一気に頂点に上り詰めたのだった。 6. 「ちょっとそこで待ってろよ?」 三枝さんに、私は仮眠室に連れてこられていた。 「うん…あ!」 私は、三枝さんを呼びとめようとした。 「なんだ?」 しかし… 「いや…何でもない」 私は、うつむいて、首を横に振った。 「そうか?」 「うん」 私は、三枝さんの後ろ姿を見て、 「三枝さん…大好きだからね…」 と、言った。 そして、その場を立つと、三枝さんの目をしのんで警察署を出る。 「ごめんなさい」 7. 午後4時。 私は、待ち合わせをしていた。 「こんにちは」 そう言うと、振り向いた男。 高田 充。 ……………コウさんだ。 「びっくりした?」 「そりゃね…久しぶり…だね。会えて嬉しいよ」 コウさんは、本当なのか皮肉なのか分からない言葉を出した。 「私もよ」 「話ってなんだい?」 「先に、そっちが言ってよ」 「…もしかしたら、君の父親も助けられるかもしれない。 君さえ条件を飲んでくれれば…ね」 コウさんは、予想もしていなかった意外な言葉を発した。 助けられる…? どーゆー事…? …私を捕まえるために、そんな嘘言ってるの…? 「…!?条件って…?」 それでも、私は聞いてしまった。 疑ってはいるけれど、父を助けられる方法があるのなら…。 「俺とずっと、一緒に居てくれ」 「…へ?」 「ずっと、俺だけの為に…俺と一緒に…」 「何言ってるの?」 コウさんの目が真剣で…。 とても、冗談には見えない。 「嘘つかないで!」 私はその目線を振り切って言った。 「嘘じゃないさ」 「どうして…そんな事…」 「君を気に入ってるからだよ」 …? 気に入ってる…? 意味が…わから無い。 「何、言って…」 「ここじゃ、なんだから…ホテルにでも…行こうか?」 そう言って、腕を引っ張られる。 近くに止めてあった、車の中に押しこまれる。 車は発進した。 前に会っていた時とは、雰囲気が違うコウさんに、私は戸惑っていた。 こんなに、強引…だったかな…? 表情も…前と、違う。 「条件を飲む気は?」 「ない…わよ。ウソでしょう?」 「嘘なわけないさ。冗談でこんなことは言えない。どうしてだ? こんな良い条件はないだろ?父親も助けられる。 それに、君も、俺によって不自由なく暮らせるようにしてやるよ」 「そんなのっ…」 ウソに…決まってる。 「さ…君は断れないはずだよ?」 「うるさいっ!」 「言うね…」 「どうして、あんたなんかと…!」 「…君、三枝くんと関わっている…だろ?」 またも、意外な言葉が出て、私は息を飲んだ。 「えっ?」 「警察を甘く見るなよ?」 「そ、それがどうしたのよ?」 「ちょっと調べさせてもらったよ」 「…」 「君と関わっている事を、隠していた罪は大きい」 「…それ、おどしてるの?」 「まさか。あくまで君が決める事だからね」 「…」 7. 午後4時20分。 車は急停止した。 コウさんは、車を駐車場に止めると、私を連れて、ホテルの一室に入った。 ホテルは、一流ホテルだった。 「俺は君のことを気に入ってるんだ。好きなんだよ。君と会えなくなった時は、 どうしょうもなく辛かった。好きなんだから、手に入れたいと思うのは当然だろ?」 どうして…。 目が…恐い。 真剣で…それでいて… はめこまれたビー玉みたいな…。 本気なのは良く分かる。 ひしひしと伝わってくる。 本気過ぎて…恐い。 「ゆがんでるわよ!全部…」 「そうかもな。君のせいだ。君の為に、俺は、あんな女まで殺してやったんだ」 「…あんな女…!?」 「嬉しかっただろ?毎日、あの女に虐待され続けたんだから」 「なっ!?…コウさんだったの!?警察のクセにっ!!」 「警官だって、人間だ。好きなものは好きなんだ。なんとしても手に入れたくなる。大切にしたくなる」 「そんなの、間違ってる!!これが、コウさんにとっての『好き』の表現なの!!?」 違う…。 コウさんは…。 「…君を救うのは、俺だった。父親もいなくなり、身寄りの無くなる君を! そう『設定』ではね」 そう言って、コウさんは、笑い出した。 「何、言ってる…の?」 「それをあんな…加納の部下なんてやってる、新人の三枝なんかに…! 許せなかった!君を、何年も見続けていた俺じゃないのがっ!」 部屋に入ると、コウさんは、また話し出した。 「どうゆう事なの…」 「俺は、君が俺を知る、ずっと前から、君を見ていたよ。ずっと好きだった。 俺だけのものにしたかった。親も無くし、犯人扱いされ… ボロボロになった君を救うはずだったのは、俺だった。長年夢見てきたんだよ? それが…三枝が出てきて、事態は変わった。それによって…設定より早く、 君と会うことになったんだ。あいつさえいなければ、皆、うまくいってたのにっ!」 「…」 「君が、三枝なんかを好きになるから…決めたんだ。こうなったら君を殺して、 俺も死のうと。そうすれば、これからもずーっと一緒だ」 やっと…分かった。 分かった。 コウさんは、人の愛し方を誰にも教えてもらえなかったんだ。 そう…私と同じで。 ゆがんで…ゆがんで… こういう結果を招いた。 私は、ずっと、父を捕まえた…陥れた警察が嫌いだった。 憎かった…。 でも…私は確実にこの人を憎めなくなっている…。 私と同じ…コウさんを。 …もっと、早く気付いてあげてれば…。 私は、三枝さんを好きになれたからこそ、そう思えた。 「いいよ」 私はその一言を発した。 ――― 台風の上陸。 台風は、こっちの都合なんてお構いなしでやってくる。 でも、避けることはできない。 消すことはできない。 大きな… 大きな台風。『大切なもの』 第7話『台風』![]()
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