一日一善
僕は人付き合いが苦手だ。人見知りが激しい上に、選り好みもそれ以上に激しいので、 自慢ではないが(自慢にならないが)友人も極端に少ない。今思い浮かべても両手に余るどころか、掲げた両手が硬直して今にもつりそうだ。
小学校から付き合っている友人がいる、という人も少なくないと思うが、僕には信じられない。僕の場合、小学校はおろか中学、高校から今まで付き合いが続いている友人など皆無だ。定期にしろ不定期にしろ連絡はおろか、暑中見舞いや年賀状のやりとりが持続している友人はいない。だからたまに帰省しても遊ぶ友人がいないわけだ。かといって誤解してもらいたくないが、学生時代、友人がいなかったわけではない。いじめたり、いじめられたりしたことも全くないし、孤立したこともない。遊んだり、馬鹿話したりする友人はいたのは事実だ。ただ今でも付き合いが続いている友人が少ないだけだ。いや、ぶっちゃけた話、今でもやりとりが続いているのは大学の頃できた友人だけだ(さびしい男と思うなかれ)。
友人が少ない僕だが、少ない分は事足りている。類は友を呼ぶのか、僕の友人は少し変わってる奴が多いのだ。いや変わっているというより、個性の塊のような奴らだ。まさに少数精鋭という言葉がふさわしい。
というわけで高校の頃の友人の話をひとつ。
高校二年の頃の友人の一人にKという奴がいた。彼は変わっていた。畏怖の念からか僕らは彼のことを「K氏」と呼んでいた。
彼はドラえもんマニアだった。出来杉君の下の名前を知っていたり、ジャイアンの本名がタケシなのに、何故妹の名前はジャイ子なのかなどを滔々と語ってみせ、僕らを驚かせてはニヒルな笑いを口元に浮かべていた。
でもさすがに高校生にもなってドラえもんについて熱弁を振るうのが恥ずかしかったのか、人前でドラえもんの話をするときは、そのイニシャルの「D」を用いた。
例文:「D」の新刊、買った?
今度の「D]の映画はいまいちだ。
話の途中でいきなり彼の、彼なりの略語がご登場するわけで、会話は一瞬氷結し、混乱したのは言うまでもない。
そして彼の口癖(きめゼリフ)は「(不敵な笑みを浮かべて)ま、いいってことよ」だった。
あれは確か体育祭の打ち上げの帰りだったと思う。K氏と駅へ急いでいた。ふと見ると道端に空き缶が捨てられていた。それを見つけたK氏は迷うことなくその空き缶を拾い、近くのゴミ箱に捨てた。
「すげえ、K氏」と素直に僕は彼を褒め称えた。
するとK氏は不敵に言った。
「ま、いいってことよ」
K氏はやっぱり違うぜと思い、少し歩くとまた空き缶が転がっていた。しかしK氏は露骨にそれを無視した。
僕は「あそこにも落ちてるよ」と空き缶を指差し、教えた。
するとK氏は言った。
「一日一善って言うやん」
不意を突かれた僕は思わず「すげえ・・・・・・」と言っていた。
そんな僕を尻目に、不敵な笑みを浮かべてK氏は言うのだった。
「ま、いいってことよ」
(2003年2月4日)