我が愛しのママチャリへ

 

君は今年の春、見事にまた盗まれたね。

場所は岡山駅の近くの駐輪場。二階建ての駐輪場で、階段の下に無理して君を停めたんだ。僕は私用で高松に行っていて、そこから終電で帰ってきたところだった。ちゃんと行儀良く待ってろよと言ったのに、君はいなくなっていた――。

言い訳じゃあないがちゃんとチェーンキーをしていたんだ。現状を認めたくなかった僕はそこら中の自転車置き場の、自転車という自転車を虱潰しに探した。もしかしたら、他の利用者が「この自転車ちょっと邪魔」とか言いながら違う場所に移動させたのかも知れない……。

いや……、そうか! こうとも考えられる。いつも停めている場所に飽きていた数時間前の僕は、無意識の内に二階の駐輪場に停めたのか……? そしてその二階もくまなく探したさ。勿論君はいるわけはない……。

約一時間以上そこら辺を行ったり来たりうろうろしながら「僕の愛車失踪事件」の捜査活動を進めた。もしこんな僕をおまわりさんが見付けていたら、それこそ自転車泥棒か、変質者かと思われていたことだろう。しかし、捜査本部を撤収せざるを得なかった。

そう、君は盗まれたのだ!  犯人に、でっかいニッパーかなにかでチェーンキーをぶった切られて盗まれたのさ。ここまで周辺を探しても君はいないのだから。くやしいが……、本当にくやしいが、現状を、今自分が置かれている状況を、認めない訳にはいかないじゃあないくぅわあああ!!

泣く泣く歩いて帰った。自宅まで(やや速歩きで)四十五分ぐらいかかった。歩き過ぎて右足を痛めた――。

盗難届は出さないことにした。前回君が盗まれたとき、派出所に行って盗難届を書かされたことがあった。これがまた面倒臭いことと言ったらない! 「役所仕事は書類書きから始まる」とはよく言ったものだ。住所、氏名はもちろんのこと、盗まれた場所の略地図、間違えたらその上に傍線引いて訂正印を押して書き直し……、そんなのはもうこりごりだったので、今回は止めにしたんだ。

防犯登録もしているし、まあそのうち君はひょっこり出て来て僕の胸(サドルだからケツか?)に帰って来るだろうと、軽く考えていた。

そして――、数カ月後のある夏の日、君はあっさり出て来たね。

先輩のH野・Bブ・Y二さん(!?)に車で送って頂き、交番に君を引き取りに行った。書類に印鑑を押すとき、盗んだ奴の名前が見えた。こいつの名前と住所を覚えて、裁判所に訴えるか、もしくはこいつの持ち物(出来れば自転車)を盗んでやろうか、とか考えもした。もしくはストーカーのようにただひたすらこいつをつけまわして嫌がらせをしてやろうかと考えもした・・・・・・。でも止めた。訴えたところでたいして金が得られるとは限らない。もしかすると無駄に金がかかるかも知れない。さらに決定的な理由は、自分が小心者であることと、暗記は苦手なので犯人の名前も住所も覚えられなかったってことだ。

君と再開出来たんだから良しとしよう、と自分に言い聞かせた――。

僕と君の別れが決定的になったのは今年の夏だったね。

僕は、夏休みの後半に帰省し、休暇をこれでもかと言うぐらいにエンジョイした。君を最寄の駅の駐輪所に停めていた。三週間程してから、戻ってみると――君はいない! また! また!! また!!! 盗まれたのか!? しかし、このときしていた錠はかなり頑丈なものだった。とてもじゃあないが、ぶった切れる代物じゃあない。どうしても、僕の自転車が欲しかった犯人は軽トラックでやって来て、僕の自転車を積んで行き、工場によくあるはんだごてのでっかいのみたいなので火花を飛ばしながら鍵をぶったぎったのか――? しかし極めて可能性は低そうだ……。

目の前にあるべきものがないという状況をやっぱり認めたくなっかた僕は駐輪所中をくまなく探した。勿論君はいない――。すると、他の自転車のカゴの中にこんなことが書かれた小さな紙が入っていた。

「長期間の自転車の放置は他の利用者の迷惑になりますので処分します。岡山県警」

そう君は星になった……。

警察にあっさり処分されちゃったんだね。岡山の警察は仕事してるね。しかし! 処分する前に電話ぐらいしてよ! 引き取りに行くからさあ。泥除けに名前と電話番号書いてるし、防犯登録だってしてるんだしい……。

また泣く泣く歩いて帰った――。

君は二度盗まれ、その度に出て来てくれた。今回は三度目の正直ってところか……。

と言うわけで、僕らは二度と会うことはないだろう……。

生きていたら元気でね。

 津島東より愛をこめて……‘99秋
(「烏合の衆より」抜粋2003年3月6日)