Mr.研修医!

第九話

 飲み会のあった翌日の勤務は、高原さんと河村さんだった。

「ねぇ、昨日はあの後どうなったのよ!」

 河村さんが出勤してきて、朝一番に小声でしつこく聞いてきた。あまりのしつこさに高原さんはしかたなく答えるしかなかった。

「きのう何があったかは、療治君を見てれば分かるんじゃないの?」

 高原さんはそういって河村さんから離れていった。高原さんにそういわれた河村さんは、療治を見た。

 療治はなんだかぎこちなく、なぜか動揺しているような気がした。

 それを見てしまった河村さんはすべてを理解したようで、抜け殻状態になった。

 しかもその噂は、あっと言う間に田村さん榊原さんに伝わり、看護婦達の仲は急に気まずくなりだした。

 そんななか当の本人の療治は、看護婦達の態度に気付いていないようだった。

 そんな気まずい状況を打ち破ったのは高原さんだった。

「療治くん、今日の勤務が終わった後話があるから、待ってて。」

「あ、はい。わかりました。」

 二人がそんな約束をしていることに、他の看護婦は気が気でなかった。

 しかし、看護婦たちの予想は全然ちがっていたのだった。

 その日の勤務が終わったあと、療治と高原さんは話し合っていた。

「やっぱり、一度に言われてもショックよね。、、、私が、あなたの姉だなんて。」

 高原さんは静かに言った。

「昨日は酔った上での事だったから、冗談だと思ってたけど、、、。」

 二人は静かにコーヒーを飲みながら話していた。

「思えば運命ね〜。あなたが医者やっているなんて。あなたの、私たちの親は医者だったの。

 田舎の小さな町医者だった、、、。あの頃は楽しかったな、、、」

「な、なんで離れ離れになるようになってしまったんですか?」

 療治は動揺しながらも、核心を突いた。

「あれは、たしかわたしが3歳で、あなたがまだ生まれて1歳のころだったわ。あの日、、、村にはある大物が来日したの、、。

 誰だったかはよく覚えてないけど、たしかアメリカのお偉いさんだった。 護衛つきで、日本のふるさとを観光にきていたらしいわ。

 村あげての招待をして、観光は順調かと思われた、、、。でも事件は起こった。

 お偉いさんが、来日二日目の朝に激しい腹痛に襲われたの。

 急きょ近くにあったうちの病院に来ることになったの。検査の結果ひどい食中毒だった。

 わたしたちは、ある程度の免疫があるからたいして効かない菌だったんだけど、

 アメリカのお偉いさんにはその菌に対する免疫力がないから、、、

 最新の医療設備が整ったところだったら、助かったかもしれない。でも小さな田舎の町医者じゃあ、限界だった。

 そのままアメリカのお偉いさんは亡くなったわ、、、そのあと、アメリカから裁判に持ち込まれたの。

 医療ミスだ!ってね。日本側としては、下手するといままでの友好関係が崩れてしまうのではないか。

 と考えたらしいわ。だから、父一人を悪者にしたの。父は、医療ミスをして人を殺めたとされ、医師免許は取り消された。

 さらには裁判で刑務所にしばらく入れられたし、残った私たちも周りの人びとから非難されてばっかだった。

 それに耐えられなかったのか、母は自殺したの。わたしたちの目の前で、、、

 そのことを知った父も、刑務所で舌を噛み切って死んだわ、、、

 残された私たちは、児童養護施設に入れられた。赤ん坊だったあなたには、すぐに養子の話がきたの。

 そして私の前からいなくなった、、、でもこの病院で偶然出会った。まさに奇跡ね。」

 高原さんがそう言い終わると、療治は下を向いたままだった。

「じ、じつは俺、自分が養子なんじゃないか。って。知ってました。たまたま、住民表をみたら養子って書いてあったんです。

 、、、でも、なんで姉だって打ち明ける気になったんですか?」

「だって、たったひとりの肉親なのよ?当然でしょ?まえに、あなたが事故にあって入院したときも、ずっとそばにいてあげたかった。

 でもあなたのお母さんがいて、できなかった、、、。だから、早く本当のことを話したくなったの。」

 高原さんは少し照れたように笑ったが、療治にはそれがうれしかった。

「みんなには言わないようにしてね。ちょっとある事情があってね、、、。わたしからいつか言うからさ。」

 高原さんはそう言って、しばらくしてから帰って行った。

「お、、お姉ちゃん、、、か、、、。」

 療治はそうつぶやいて、軽くほほ笑んでいた。

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