Mr.研修医!
第十話
療治には姉がいた。とわかってから一か月が経った。いつもと変わらない一日。
平穏な、のどかな一日が、、、と思いきや、今、台風12号が直撃している最中。ドアはがたがた揺れている。
いつ電気が切れてもおかしくない。そんな一日だった。
「こんな台風じゃ患者さん来ないでしょうね。朝は天気よかったから出勤できたけど、昼から凄い台風がきましたね。」
窓をみながらつぶやいているのは療治。その後ろでは院長がのんびりコーヒーを飲んでいた。朝からずっとこんな感じだ。
その時だった、急に電話がなった。
「はい、もしもし、田村耳鼻科病院ですが。、、、はい、、、はい、少々お待ちくださいね。」
院長はそう言って受話器を耳から離して、手で押さえた。
「佐藤君!君にだよ!用があるってさ」
院長にそう言われて、療治は急いで受話器を受け取り耳にあてた。
「佐藤ですが、、、」
「あ、療治?わたし、療子!」
「! 療子?久し振りだな、何なんだ?用って、、、」
「じつは、言おうかどうか迷ってたんだけど、、、3日前、あなたの病院の高原さんって看護婦が来たの。
話しは聞いた。あなたの生き別れたお姉さんだってね。
それで、「療治をよろしく」っだなんて言われちゃった。」
療子は軽く笑っていた。
「え、え〜?で、でも俺と君はもう別れたわけだろ?な、なんでそうなるわけ?」
療子は電話ごしでも、療治の動揺がわかった。
「知らないわよ、、で〜も、私たちは正式に別れたわけじゃなくて、あなたが勝手にいなくなったんでしょ。
あなたは私のことが今嫌い?」
「き、嫌いじゃないさ、、、き、、君はどうなんだよ。俺のこといまどう思っているんだよ。」
療治は強がっているが、やはり女性のほうが一枚上手なようだ。
「わたし?あなたのことは、いま、、、、、、そ、そんなことより、もっと重大なことがあるのよ。」
療子は好きか嫌いか言いかけていたが、急に話をかえた。
「重大なこと?なんだよそれ。」
「高原さんのことなんだけど、その日に精密検査したのよ。
どうやら本人自身うすうす気付いてはいたみたいだったけど、検査の結果が、、、。」
療子は少しためらっていた。療治は、療子のためらう間が、嫌な予感をさせた。
「まさか重病なのか?貧血?盲腸?なんかの食中毒?」
「、、、ガンよ。」
「がん?がん、、、がんだと!?どこなんだ?肝臓がんか?食道がんか?」
「それが、胃がんなの。」
「い、胃がんって、、」
「胃がんは胃の粘膜内に発生し、数年はその中にとどまるけど、ゆっくり浸潤して、粘膜筋板、粘膜下層、筋層に広がるわ。
筋層には血管やリンパ官が縦横に走っているから、がん細胞がこれらを通って、肝臓や腹膜などに侵潤してたら手遅れね。」
「検査の結果はどうなんだ?」
「、、、いまのところはまだ転移してないは。でも一刻も早く入院して、手術しないと、、、
だから、はやく入院するように伝えておいてほしいの。でも、くれぐれも告知はしないでね。」
「あ、ああ、わかった検査入院するように伝えとくよ。わざわざありがとな。それじゃあな。」
療治はそう言って受話器を置いた。「がんがどうのこうのって言っていたが、何かあったのか?」
院長が療治に尋ねた。
「それが、、、」そのとき、急にドアが開いた。入ってきたのは高原さんだった。
「すごい風ね〜。やっと到着したわ〜。今日みたいな日は、通勤に40分もかかる人にはこたえますね〜」
「今日は休んでいいって言おうと電話したんだが、もう出勤したあとだったからな、、、」
院長は療治の話など忘れたように、高原さんと話をしていた。
「おはよ!療治くん」
ぼーとしている療治に、高原さんは明るくあいさつした。
「あ、ああ、おはよう。」
こうして、この日は3人で勤務が行われた。
帰りには台風も去り、家が同じ方向の二人は、一緒に帰ることにした。
「今日なにかあった?きょうの療治、変よ?」
帰り道、高原さんは何気なく尋ねてきた。
「、、、姉さん、三日前に病院行ったんだろ?どうだったの?」
「さあ?検査結果がでるのは明日らしいし。ただ、気になることがあるけどね、、、
それより、あそこの女医さんは療治の彼女なんでしょ?しっかりものにしなさいよ〜」
高原さんは、まるで何ごともないかのごとく言っているが、かえって療治の不安はつのった。
「彼女だなんて、、、昔の話だよ。それより、気になることって?体調が悪いなら早く入院したほうがいいよ。」
療治はそれとな〜く、入院を勧めた。
「たいしたことじゃないわよ。ちょっと胃がね、、、たぶん胃炎かなんかでしょ。」
明るく振る舞う高原さん。自分の本当の病状を知らないようだった
「胃炎かどうかはっきりしなくても、とりあえず入院したほうがいい。 はやく精密検査したほうがいいよ。」
療治はなおも入院を勧めたが、逆に墓穴を掘ってしまった。
「療治って嘘つくの下手ね〜。やたら入院すすめるなんて、変よ。
たぶんあの女医さんから、わたしの症状聞いたんでしょ?なんだったの?やっぱり胃炎?はたまた盲腸とか?」
「、、、、」
療治は答えられなかった。しかし、沈黙が病気の深刻さを高原さんに伝えるには十分だった。
「安心して。あしたから入院するわ。だからあんまり暗い顔しないでよ。こっちまで気分が暗くなるわ。」
高原さんは療治の顔を覗き込むようにして言った。
「ご、ごめん。じゃあ俺、家がこっちだから。それじゃあね。」
療治はそう言って、帰っていった。あとに残された高原さんは、さっきの明るい表情とはうってかわって考え込んでいた、、、。