Mr.研修医!

第十一話

 次の日、高原さんは入院した。細かい精密検査の結果は、転移している可能性が大きいというものだった。

 そのことを聞いた療治はすぐさま病院に向かった。

「体調はどう?」

 病室で、療治が高原さんに話しかけた。

「うん、大丈夫よ。今だけはね、、、、」

 高原さんは下をむいてうつむいていた。

「い、今だけってどういう意味だよ?」

 療治は少し動揺したが、その少しの動揺だけで、高原さんは何かを見抜いたみたいだった。

「、、、わたしガンなんでしょ?」

 ふいに聞かれた療治はリアクションに困った。

「なに言ってんだよ。ただの胃炎だって。」

「ふふ、胃炎ね、、、嘘だってばればれ。これでも看護婦なんだからわかるわよ。

 ねえ、わたし告知だけはしてほしいの。

 たとえ余命が短くても、パニクったりなんかしないわ。はっきりホンとのこと言って。」

 療治はしばらく迷ったが、パニクったりしないという言葉を信じて、小さくつぶやきだした。

「、、、胃がんなんだ。で、でも!まだ手術すれば助かる確率はあるんだよ!」

 療治は必死にフォローしながら真実を喋った。

「そっか、胃がんか、、、たぶん転移してるわ。自分の体だもん、自分がよく知ってる。」

 高原さんは目を閉じ、胸に手をあててそう言った。

「姉さん、、、」

 二人は、そのあとしばらく黙ったままだったが、しばらくして、療子が入ってきた。

「失礼します。あら、療治!来てたんだ。」

「やあ、ひさしぶり。」

 療治はその場の重たい雰囲気を消し去るかのようにいっているようだった。

「体調いかがですか?脈測りますね。」

 療子はカルテを片手に、脈を測りだした。

「、、、先生。私の胃がん、どうなんですか?」

 高原さんがそう言うと、療子は脈を測るのを忘れて驚いた。

「胃、、胃がんってどういうこと?」

 あきらかに動揺している。

「さっき療治に聞きましたよ。かなりやばいって、、、。手術の成功率はどれくらい?」

 何かを決心したかのような高原さんの態度に、療子も真実を言うしかなかった。

「現状では成功率20〜30%ぐらいです。時間が経てば経つにつれ確率は低くなります。 一刻もはやく手術をしなければなりません。」

 療子ははっきりと述べた。

「20〜30%か、、、賭けてみる価値はあるわね、、、。先生!おねがいします。」

 高原さんは少しほっとしたようにお願いした。おそらく、自分では10%ぐらいだと思っていたようだ。

 その後、手術の日にち、執刀医、オペの手順を説明して、療子は部屋をでて行った。再び二人きりになった療治たち。

「療治、わるいけど、一人にして欲しいの。」

 ぽつりと高原さんが喋った。療治は何も言わず部屋をでようとした。帰り際、療治はふと尋ねた。

「田村耳鼻科病院の方には何て言っておけばいい?」

「、、、わたしから、話すから、とりあえずひどい胃炎だった。って言っておいて。」

「わかった」

 そう言って療治は部屋を出た。その時、療治はある決意をして療子のところへ行った。

「療子!頼みがある。姉さんの手術、俺に手伝わせてくれ!」

 療治は療子の目をじっと見つめ、叫ぶように言った。 しかし、最初は療治の剣幕に驚いていた療子は、冷静に答えた

「、、、駄目よ。あなたはたしかにむかし研修医として優秀だった。でもね、所詮研修医なのよ。

 外科の手術から遠のいて、あなたにはブランクがあるわ。

 しかも、いつあなたが手術中に震えるかわからないわ。だから、あきらめて。」

 療子はそう言って去っていこうとした。その時、療治が呟いた。

「、、、俺は、父親を救えなかった。たしかに血は繋がっていなかったかもしれないけど、

 俺を医者にするため、必死に働いてくれたいい父だった。俺は父に恩返しがしたい。

 俺ができる恩返しは、医者としてより多くの人を救うことなんだ。

 それが必死に俺を医者にさせてくれた、父に対する恩返しなんだ。たのむ!療子!」

 療治は目に涙をためながら訴えるようにして言った。

「、、、かんがえておく。」

 そういって療子は去っていった。 そして日にちはすぎ、手術の日がやってきた。

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