Masquerade

赤と黒の花

 ひっそりと静かにただずむ、しかし見るものを威圧する城・・・皇帝ガイナスの城。その一室にアルフェイスはいた。この城に部屋を割り当てられているという事はそれ相応の地位を持つはずなのだが、寝ているとただの18、19の娘にしか見えない。
「う〜ん・・・うわっ」
 驚くのも無理はない。目の前が真っ赤・・・なのではなく赤い髪の毛が顔にかかり目を覆っていたからである。
「こら、マナっ。何度言ったら分かるのっ。勝手に人のベッドに入って来て寝ない」
 マナと呼ばれた少女が目を覚ます。赤い髪と赤い目が特徴的だ。
「う〜ん、おはよ」
 アルフェイスの黒い切れ長の目がさらに細くなる。首をしめかねない勢いだ。
「だいたいあんたにも部屋は割り当てられてるでしょうが」
「だってぇ」
「あ〜別に言い訳が聞きたいわけじゃないからいいわよ、もう。ていうか鍵は」
「あけたけど」
「も〜」
 こんこん、こんこん
 ドアがノックされる。
「アルフェいる?どうせマナもいるんでしょう?集合がかかってるわよ」
「今開けるわ。マナも着替えてくる。集合なんだから」
 ドアを開けると黒エルフのルナがいた。
「おはよ、アルフェ。その長い黒髪の寝癖が素敵だわ」
「あたしのアルフェに手を出すんじゃないわよ」
「いつから私があなたのになったの?」
 しかし、そんなアルフェのつっこみは2人の耳に入らないようだ。
「アンデッド風情が何を言ってるの?」
「耳長ばあさんに言われたくないわね」
 そんな時1人の男がやってきた。金属鎧を着ているところを見ると騎士らしい。雰囲気は渋い男性なのだが・・・
「やあ、お嬢さん方。朝から俺のためにけんかしてくれるとは、なんて俺は罪な男だろう」
 当然の事であるが・・・とても冷ややかな視線がその男ルーファスに突き刺さる。
「男風情が・・・」
「あんたなんかアルフェの魅力の10000分の1にも及ばないわよ」
 このときばかりはルナもマナも意見が一致したらしい。
「集合がかかってるんだからアルフェもマナもさっさとする。この馬鹿ルーファスにかまってる暇はないでしょ」
 ルナのもっともな意見にアルフェイスは自分の部屋に入る。アルフェイスはきちんと鍵をかけたらしい。マナはマナで・・・あっかんべえをして部屋に入っていった。
「何の集合なんだい?」
「反乱軍の砦が勢力線付近で見つかったとか」
「何で君がわざわざ伝えに来たんだい?」
「そんな事どうでもいいでしょ」
 ルナのプライドにかけて近くにいたから使われたなどという事を口に出すわけにはいかなかった。
「じゃね」

「アルフェイス参りました」
「同じくマナ参りました」
 そう言って2人はひざまずいた。ひざまずく相手は当然皇帝ガイナスである。
「相変わらず律儀な奴らだな。顔をあげろ。早速だが命令だ」
「何なりと」
「反乱軍のとりでが東の勢力線付近で見つかった。馬で急げば2日くらいだろう。潰して来い。現地の指揮官が使える奴だから詳しい事はそいつに聞け」
 アルフェイスが発言する。
「ガイナス様、捕虜はどうしましょうか?」
 この言葉は捕虜の待遇を聞いているのではない。拷問するための捕虜が必要かどうか、ということを聞いているのである。
「いらん。どうせ勢力線付近だ。スパイがいるわけでも有るまい。たいした情報が有るとも思えんし、捕虜をとるのに手加減するくらいならいっそ派手にやって見せしめにしろ」
「ガイナス様の仰せのままに」
「ご主人様の仰せのままに」

 2日後、アルフェイス一行は勢力線付近の町に有る、部隊の駐屯所にいた。山のふもとの町である。勢力線付近なので結構大きな規模で部隊が展開している。
「あなたがここの指揮官?名前は?」
 アルフェイスが中年の男に問う。
「は、隊長のディヴィスであります」
「早速だけど砦とやらは?」
「おい、映像を」
 そう言って脇に控えていた女性魔道士に指示を出す。女性魔道士が前に出てきて呪文を唱え始める。
「え〜では今から幻像の呪文で地形などを説明します。まずは砦の位置から」
 そう言ってあまり片付いていないテーブルの上に幻像が生まれる。山の麓に今部隊がいる町、山には森が広がり、川のそばの中腹に砦がある。砦と町の距離は大体歩いて半日強といった所だろうか。
「ご覧の位置にあります。地図も作成してありますので後でお渡しします。さて、この砦はおそらく谷を越えた後の進軍の拠点として建てられたものであると思われます。ここに砦を作っておく事で、この町を二方向から攻める事が出来ますから」
 マナが口を開く。
「進軍って言ってたけど・・・森の中じゃ馬を進めるのは無理でしょ」
「え〜この川がこの町まで流れてきているんですね。ですから予想としては森の樹を切っていかだにして進軍するのではないかと。対策は一応立ててあります。町から少し上った森の中に弓兵隊を配置しようかと思っていますが」
「まあいいわ。あたしらには砦をつぶせって命令だし」
「はあ、では砦付近の説明をしますね」
 映像がズームアップする。砦付近を真上から見た図だ。しかし砦の内部まではさすがに描かれていない。
「付近の地形の情報は当然前からあったもので、砦は外から偵察して大きさだけが判明しています。砦と言うよりこの駐屯所に堀と柵をつけたような代物で、中には複数の建物が有ると思われます。ご覧になれば一目瞭然ですが堀には付近の川の水が引かれています。深さは推定ですが私が手を伸ばしたくらいです」
 そう言って手を伸ばす。だいたい2m弱くらいだろう。さらに説明が続く。
「出口は1ヶ所。橋がかかってます。周りには木の柵・・・というより壁ですね。先がとがっています。堀の深さと同じくらいの高さです。おそらく弓兵も配置されているでしょう。わかっているのはこれくらいですね」
 女性魔道士は席につく。呪文の維持は続けているが。
「アルフェ、どうする?」
「そこにいる反乱軍の規模は?」
「大きさから見て70人程度でしょうか」
「それならさっさと潰しましょう」
「は、しかし攻めようにも兵を配置する事が難しいのですが」
「私とマナで十分よ」
「はあ、ほんとに大丈夫なのですか」
「くどい・・・」
「申し訳ありません」
「顔が」
「はあ?」
「マナ、行こう」
「わかったわ。あっそうだ。あんた、名前は?」
 女性魔道士に問う。
「ソフィアですが」
「覚えとくわ。あんたに向かって”風の通り道”を使うからいつでもこのおっさんに報告できる位置にいてね」
「わかりました」
 2人は地図を受け取ると駐屯所を出て行った。

 2人は今茂みの中に隠れている。10m程で砦の入り口が見える。橋は今降りているようだ。
「どうする、マナ?」
「橋が降りてるし中に入ってやっちゃえばいいでしょ。壁のおかげで中から外には出られないし。何かいい作戦が有るなら別だけど」
「それでいいか。道に迷ったんですなんて言い訳は通じそうにないし」
「この格好じゃね」
 そういうマナの格好は普通の服の上に黒いマント、アルフェは黒い革鎧をつけている。
「一応の作戦はとりあえず入り口まで走って入って、あとは好きなようにって事でいい?アルフェはもちろんあたしにも矢は当たらないだろうし」
「まあね。とりあえず橋と建物は焼いちゃってね」
「うぃ」
「行こうか」
 そう言うか否かアルフェイスは茂みから飛び出す。マナも慌てて続く。
「普通みっつ数えたらとかでしょ〜」
 最初見張りは慌てた様子だったがすぐに大声を上げる。
「敵だ!」
 アルフェイスにもマナにも矢が飛んでくるが、気にする必要もないらしい。的確によけて入り口に近づいていく。一気に入り口に突入する。
 とりあえずアルフェイスは手近な建物に近づく。彼女は無表情にあせって出てくる兵士たちを見つめていた。
「結構数がいるわね」
 そう言って手裏剣を出すと、一度に何枚も投げつけた。兵士たちに反応できるわけもなく目やのどや心臓を貫かれて死んでいった。すべて致命傷になるような位置を狙っている。時間に比例して死体が増えていく。あっという間に地面に血が染みていった。すぐに出てきた兵士は残り1人になってしまった。
「なあ助けてくれよなんでもするからお願いだ命だけは見逃してくれよ」
 必死に哀願をするがアルフェイスはその眸に何の感情も浮かべずそれに近づいていった。が、そのとき、
「よくも仲間を!」
 後ろから兵士の1人が剣を振りかぶって襲ってきた。が、1歩横によけると腰の短剣を引き抜きそのまま後頭部に突き刺した。
 ざしゅっ
 返り血が彼女を紅く染めた。この隙に先ほどの情けない奴は逃げようとして立ち上がろうとしたところだったのだが、逆手に持ち替えたナイフで頭頂から一気に突き刺した。情けない奴を消したアルフェイスは、ナイフを頭から抜くと、死体を道に転がる石のように蹴飛ばし、次の建物に向かった。
 一方マナは手始めに橋を炎の魔法で落とした。兵士たちが近づいてくるがあわてずに髑髏の飾りが先端に取り付いた杖を構え、呪文を唱え始めた。
「炎よ、我が敵を貫く矢となれ、炎矢」
 炎の矢が空中に十数本出現する。矢といってもマナの魔力だと1本1本が2m弱ある。それが兵士たちに襲いかかる。貫かれた兵士は全身が発火し死んでいった。外れた矢の1本が建物に突き刺さる。しかし兵士たちの数はまだまだ結構いる。
「めんどくさいなぁ。ちょっと大技使うか。アルフェもあたしの魔法の範囲内にはいないでしょ」
 呪文を唱える間にも敵が増えるのだが、そんな事は気にしない。
「炎よ、我が意に応え我が敵を食らい尽くせ、炎流」
 爆発的に炎が広がったかと思うと建物も人もお構いなく燃やしていった。後には炭が残るばかりである。

「こんな馬鹿な・・・」
 この部隊の指揮官のリッキーはつぶやいていた。なにしろ年端の行かない女2人に自分の部隊を壊滅させられているのである。残っているのは彼と、彼の腹心である魔道士グリーンだけである。そして元凶の女2人は目の前でのんきにしゃべっている。
「アルフェ、どっちやる?」
「どっちでもいいわよ」
「じゃああたしが魔道士のおっさんやるね」
「はいはい」
「じゃ、そういうことになったんで、おとなしく死んじゃって」
 そういっていきなり炎矢をグリーンに放つ。防御呪文を唱えようとしたグリーンだが、間に合わずにあっさり死んでしまった。
「おのれぇ」
 やけになってリッキーはアルフェイスにつっこんでいく。当たったかに思えた長剣は虚しく地面をたたく。
「なにぃ」
「お〜影分身」
 マナがいちいち解説を加えている間に、アルフェイスはリッキーの背後を取っている。鎧に向かって心臓の位置に掌底を叩き込む。
「かはっ」
「お〜鎧通し」
 リッキーも血を吐いて倒れ、後には2人だけが残った。
「柵を焼いて、報告をして、さっさとガイナス様のところにかえろ、アルフェ」
「そうね、川で水浴びしてからね」
「ガイナス様に汚い姿を見せるわけにはいかないもんね」
 軽口を叩く2人の頭には今までの戦闘の事などない。廃墟に背を向けてとりあえず二人は川に歩き出した。




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