Masquarade

Mana in Black

 城の一室ディアの部屋に2人の人間がいる。とはいっても外見が人型に見えるだけなのだが・・・
「お呼びですか、ディア様?」
 赤毛、赤い瞳の少女が問う。
「ええ」
 ディアと呼ばれた20代に見える妖艶な美女が応える。
「お前の妹のカナが反乱軍にいるのは知っているわよね?」
「まあ。戦場であったことはありませんが」
 触れられたくない話題なのか、赤毛の少女が気まずそうに応える。
「そこでだ、カナに化けて逆賊ミアをさらって来なさい」
「はあ?確かにあたしは幻術も使えますし、あの子の癖くらいなら真似られますが」
「それで十分よ。順を追って説明しましょう。ダノンの町に反乱軍が最近本部にしている砦があるわね」
 そう言ってディアは説明をはじめる。
「潜入させているスパイが鳩で伝えてきたのだけれど。反乱軍は次の町に拠点を動かすための準備としてダノンの町で物資の調達をしているのだけれど、後方からの支援が遅いらしくはかどっていない様子なのよ。まああそこには大きな川が流れてるから。その補給部隊のほうにカナがいるらしいのよ」
「本人と鉢合わせする心配はないってことですね」
「そういうことよ。あとこれがカナの周りの人物に関する調査書、質問はある?」
 5、6枚の紙の束を取り出す。
「わかりましたが・・・この分量の紙を鳩が運んできたんですか?」
「ああ、何回かに分けて運んだのよ」
「それはいいとして・・・ガイナス様はこのことをご存知なんですか?」
「マナ、あなたはいらない事を心配しなくてもいいの」
 そういってマナと呼ばれた少女の頬に手を触れる。
「あの人は忙しいのよ、いらない事で煩わせる事はないわ」
「はあ、まああたしはディア様の操り人形だから、詮索はしても口に出して言ったりはしませんが」
「そういう時は余計な詮索はしませんって言うのよ」
「ガイナス様には内緒にしときますけど。あたしがいない事への言い訳はしといてくださいね?」
「あたりまえじゃない。殺さずにさらってくるのよ?」
「わかりました。それでは」
 マナはさっさと行ってしまった。

 ぱからっぱからっぱからっ
「まったくディア様ったら。程ほどにしないと・・・」
 風で髪がなびいている。
「え〜とこの男がアリウス、でこいつがケルビム、でこいつがエクス。カナと親しいようだから会わないようにしないとね。といってもケルビムはカナのいる補給部隊の隊長だから心配しなくてもいいけど」
 マナは街道を馬に乗って資料を読んでいた。
「あたしの役どころは伝令に帰ってきたカナの役。あたしがダノンの町について三日くらいで本隊が帰ってくる予定らしいってことだから・・・あの子が帰ってこないうちに片付けないとね。それにしても・・・」
 マナはいま幻術は使っておらず身に付けているものは軽めの鉄鎧、ロングスピアなのだが。
「鎧が重い・・・」

 ぱからっぱからっぱからっ
「開門願います。補給部隊カナ、本隊に先立ってご報告に参りました」
 ぎぃー。門が開く。幻術でカナに化けたマナは馬を進める。さすがに姉妹だけあって髪と瞳の色以外はあまり変わらないのだが。
(ちょろいもんね・・・)
 門の先にいた一般兵に話し掛ける
「ミア様に報告なんだけど」
「ミア様は中央の間にいらっしゃいます」
「ありがとー。ついでにボクの馬をつないでおいてくれないかな?」
「はい。ご苦労様です、カナさん」
 マナは手を振って中央の間に向かう。
(一人称がボクっていうのは慣れないわね。それにしても懐かしいな。蒼い髪に蒼い目は・・・)

 中央の間、マナはミアの前に膝をつきつつ周りの人間を探る。
(たいしたことない奴が4人か。だけど入り口にいた白い鎧の奴が曲者らしいわね。確か名前は・・・グーデリルだっけ?)
「報告します。ケルビム様が率いる補給部隊は予定より1日早く2日後に到着の予定です」
「ありがとう。顔をあげていいわよ、カナさん」
 金髪で背の低いミアだが、気品にあふれた態度でマナにそう言った。
「物資のほうはどうなの?」
「予定より少し米が少ないみたいだけど、逆に麦が予定より大目みたいです」
「じゃあ心配要らないわね。これからあなたはどうする?アリウスさんなら鍛錬場にいるわよ。それとも自分の部屋で休む?」
「休ませてもらいます。ちょっと馬を飛ばしすぎてボク疲れた」
「じゃあまた」
 そう言って中央の間から出て行く。しかし出口を出たところで白い鎧の男に睨まれる。
「おい」
「ボクの顔になんかついてる?」
「違う」
「いや、ボクをじーっと見てるからさ。それともボクに見とれてた?でもだめだよボクはアリウス様一筋なんだから」
「・・・お前ほんとにカナかと疑ったんだが。いつもとどこか感じが違って」
(ひょっとしてばれた?)
 マナは内心であせりつつも言った
「ひっどーい」
「よくあることだ、気にするな。さっさとアリウスの野郎のところにでも行け」
「ボク疲れたから寝るんだけど」
「運んでやろうか」
(いいやつじゃん。ルーファスとは大違いね。部屋も分からないし運んでもらおうか。それにしても潜入させているスパイとやらは砦の間取り図にカナの部屋くらい書いておきなさいよ。ミアの部屋はきちんと調べてあるのに)
「ありがと」
 白い鎧の男は軽々とマナを持ち上げてしまった。そして2階の部屋に運んでいく。
「こら、そんなとこ触らないでよ」
「知るか」
「変態」
「ほれ、着いたぞ」
「ありがと。でも入ってこないでね」
「色気のないがきの部屋に誰が入るか。さっさと寝ろ。で働け」
「触ったくせに。じゃ」
 マナは部屋に入る。ふと焼けたペンダントが目に入る。
(母さんのじゃない・・・まあ親に頼る部分が大きかったからね、あの子は。どこが良かったんだろ、あんな親の。あたしをいつもできがわるいっておこってばっかり・・・)

 太陽はすべてのものを平等に照らすわけではないが、すべてのものに等しく訪れる夜。まあ、夜にだって明かりを照らす事は出来るのだが、砦は節約のためか明かりは灯っていなかった。そんななかマナはミアの寝室に向かっていった。幻術で化けてはいるものの鎧はつけていないし、槍も持っていない。廊下を曲がったところに寝室があるところまで来たが、さすがに明かりを持った兵士が見張りに立っている。
(1人か。どうしようか・・・派手な呪文は使えないし。あんまり得意な呪文じゃないけどやるか)
「その影は枷、その闇は檻、暗縛」
 兵士は硬直する。声も出せないようだがマナはわき目も振らず部屋に向かう。
 ドアを開けるが部屋は真っ暗だ。しかしマナはベッドに寝ているミアに気づいた。部屋に入りドアを閉める。
(寝てるみたいね・・・まあ念のため)
「夢の世界に眠れ、夢眠」
 マナはミアを抱えようとするが・・・後ろにわずかな気配を感じ飛びのいた。白刃がマナのいた場所を薙ぐ。
「だれ?」
「それはこっちの台詞だ。何者だ?」
 声を聞いてマナは相手の事がわかった。
「グーデリルか・・・確かに曲者みたいね」
「グリーデルだ。貴様カナじゃないだろう。筋肉のつき方が違う」
「まさかそのためにあたしをわざわざ運んだの?いろんなところを触りながら」
「そうでもなければあんなにめんどくさい事をするものか。アリウスに会いに行かないって時点で怪しかったからな」
「泳がされてたんだ・・・不覚ね」
 そう言ってマナは横に飛ぶ。直後、雷の束がマナのいた所を通り抜けた。
「2対1か・・・」
「はずれたわ。せっかくの雷走なのに」
 寝たふりをしていたミアが起きだしてきたのだ。
「いったい何者なの、あなた?」
「さて、どこの誰なのか、何の目的なのか吐けば命くらいは助けてやるぞ」
 マナは次の手を考えていた。
(かなり不利ね・・・でも逃げる前に一矢報いないと。とりあえず時間を稼がないと)
 そういうわけで出てきたのは減らず口だった
「グーデリル、色気のないがきの部屋には入らないんじゃなかったの?」
 一瞬憮然とするグリーデル。しかしすぐにやり返す。
「グリーデルだといっているのに。ところでいいのか?時間がたつほど、俺たちの味方が増えるんだが」
 ミアが続く。
「観念して全部しゃべったら危害は加えないわよ」
「ふぅ。今日のところは引いておくいてあげるけど。覚えときなさい。どうせあんたたちの命はないわよ」
「貴様何者だ?」
「さっきから同じことしか言わないけど。その質問はおかしいわよ。少なくとも1回はあたしはあんたたちに会っている。だから『なぜお前がここに?』とか『久しぶりだな』とかじゃないと。『また会ったな』もいいかな」
「何?どういうことだ?」
 その時廊下のほうから声がした。雷走の音で兵士たちが気づいたのだ。
「ミア様、何事ですか?」
「ゲームオーバーか。じゃあお暇するわね」
「待て!」
 どんどん、どんどん。扉が叩かれる。が、ミアが叫ぶ
「きちゃだめっ!」
「その瞳は深紅、その鱗は血よりも赤い炎の竜よ、我が敵を灼き尽くせ、炎殺紅竜波」
 炎が部屋を焼き尽くす。ドアごと外にいた兵士もふきとばす。それどころか窓のそばの壁も、木っ端微塵にしてしまう。
「グリーデル!こっちに!」
 そう言ってミアはグリーデルごと自分を包む結界を張る。
 幻術を解いたマナの赤い髪、赤い瞳に炎が映える。マナだけが荒れ狂う炎の中で1人平気な顔をして立っていた。
「結界を2人分張るとは・・・やっぱ流石ね、それじゃあ」
 そういって壁にあけた穴から出て行った。
「風は天使の翼、風翔」
 炎が治まった後、ミアは兵士のほうに向かった。
「大丈夫?」
 ドアの残骸を押しのけると兵士たちがいた。少々のやけどは負っているが。
「はい多分4人とも無事です。結構頑丈なドアだったようで、炎に直接当たりませんでしたから」
「よかった・・・」
 グリーデルがついて来る。
「何者だったんだろうな?推察はついているが」
「とりあえずカナさんには黙っておきましょう。問題をややこしくする事はないわ。いいわね、あなたたち」
「はい」
「ところでグリーデル・・・」
「何だ?」
「あの子のどこを触ったのかなぁ?」

「失敗しちゃったか、まあいいや。表立ってお仕置きされたりはしないでしょ。ガイナス様には秘密だし」
 町で奪った馬に乗りながらマナはディアの元にかえっていった。




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