阿川弘之
| 『米内光政』阿川弘之(新潮文庫) |
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本書は、ざっぱーんという音が聞こえてくるような波涛をバックに、どどんと「米内光政」と書いてある表紙の通り、「米内光政」に関する本である。米内光政って誰じゃろーって聞いてくるような、お前日本史勉強してないだろっていう困ったちゃんに簡単に米内光政について説明すると、太平洋戦争に始終反対していた海軍のヒトで、海軍大臣として、そして首相としてぎりぎりまで戦争を回避しようとしたものの多勢に無勢で失敗してしまい引退していたものの、終戦間際に再び海軍大臣として未来ある敗戦を導いたエライヒトの一人、である。 本書はそんな米内光政の生涯について、非常に多くの参考資料と、当時を生きたヒトへのインタビューによって浮かび上がらせている1冊である。そのため、その時に米内光政が何を思ったか、実際にどう考えていたのか――という推測はほとんどせず、米内の行動だけを示すのみで、「米内はその時いったい何を考えたのか」は読者に手に委ねられている。 私が抱いた米内のイメージは、無口で腹ん中で何を考えているのかよくわかんないけど、いざって時は一本芯が通っていてそれを曲げないヒト。それは長所でもあり短所でもあって、危機的な状況にある混沌とした国家を導いていく指導者としては向いていなかったのかもしれないけれど、しかしこんな漢はカッコいいよねと思わせるようなヒトである。 多分このイメージはは、著者である阿川弘之が描き出そうとした米内光政のイメージそのままって感じなんだと思うんだけど、そこんとこはやっぱ著者が巧いのだ。誘導しながら浮き彫りにしていく米内光政のイメージ。海軍の男のイメージ。かっこいい海軍の男のイメージ。無口だけど女にモテて、子どもたちにも好かれて、部下にも慕われて、質素に生活をしながらも、格好には気をつけて、有事があった時は敢然とそれに立ち向かう――それは一昔、二昔の前の江戸、明治から昭和に続く男たるもののカッコいい在り方なのかもしれないけれど、古かろうが何だろうがやっぱカッコいい生き方なんじゃないかなと思うのだ。 名作の誉れ高いのも頷ける1冊。オススメくださったK野さんに感謝感謝感謝。引き続き『山本五十六』『井上成美』を読むことにします。
(2003年11日10日更新)
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