秋庭俊

『帝都東京・隠された地下網の秘密』秋庭俊(洋泉社)

 東京の地下には、秘密の地下網が張り巡らされている――。

 読み始める前に、うんそりゃそうだろうと頷いてしまった。いや、実際にあるかどうかは知らないけれども、そう言われたらそう思わせるだけのある種の胡散臭さとケレン味が東京という街には、ある。

 最初に提示されるのは、二つの地図だ。本書にも載っているその二つの地図は、国会議事堂前付近の地図。東京の地理に詳しくない方は、お手持ちの地図を広げて見て欲しいのだが、国会議事堂の近くでは丸の内線と千代田線の二つの路線が近接して走っている。一方の地図ではその二路線が、交わるかというくらい接近するものの最後まで接することなく、通り過ぎていく。しかしもう一方の地図ではこの二路線が交差している。こんな明らかな違いは、どちらかが正しくどちらかは間違っているはずだ。しかし、どちらもよく売れている地図であり、ここまで大きな間違いを長年するというのも不思議な話。はて、それではこの謎はいったい――。

 というふとした疑問から本書は出発している。その謎を探る内に、著者はさまざまな疑問にぶち当たることになる。綿密な調査、緻密な推測、謎解き、地道な検証作業。そして著者が推測し調べた末に見えてくるものは、東京の地下に張り巡らされていた秘密の地下網――。

 本書の面白さは、その謎解きにある。我々が住むこの都市の地下に、広大な地下網が張り巡らされているとしたら――その考えを裏付けるために著者は様々な証拠を提示し、その証拠から新たな謎を発見し、その新たな謎に対する謎解きにより自説を補強し、それを繰り返すことにより、メインの謎である「帝都東京の隠された地下網の秘密」へと近づいていく。その過程を追うのは非常にスリリングでおもしろい。それでは、そのスリリングさはいったいどこからくるのか――。

 その答えは、問題そのものが「地下である」ことにある。

 地下は想像力の世界だ。地下は見えない。見えない地下の世界を、我々は想像する他ない。今現在、地下にはいったい何が隠されているのか、はたまた何も隠されていないのか。この謎を解決するのは技術的な問題であり、科学技術の発展によって「隠されている/いない」という問題に関しては判明するだろう。それはあくまでも技術的な、つまりは時間の問題であり、判明しえる問題だ。しかし、判明するか否かは解決しえるとしても、我々にとって地下は不可視の世界だ。結局、そこを自身の肉眼で見ることが叶わない、想像力に頼らざるをえない世界なのだ。もし何かが隠されていなくとも、本当に隠されていないかどうかは我々が実際に見ることはできない。その不可視な地下の世界へ接近するのに想像力よりも有効な方法はないのだ。そして、著者はその想像力をフルに使って地下へと潜行していく。深く深く。その様が、非常にスリリングであり、魅力的な謎解きへと繋がり、フィクションとしての面白さを引き出しているのだと思う。

(2003年12日31日更新)

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