2000年度後期(2000/10/15〜2001/04/14)

新刊

 1位:『鳥類学者のファンタジア』奥泉光(集英社)
 2位:『螺旋階段のアリス』加納朋子(文藝春秋)
 3位:『怪奇探偵小説集 久生十蘭集 ハムレット』久生十蘭(ちくま文庫)
 別格:『らくだこぶ書房21世紀古書目録』クラフト・エヴィング商會(筑摩書房)

 1位:小説。ジャズ・ピアニスト池永希梨子(フォギー)の前に現れた謎の黒い服の女は名を霧子と名乗った。黒服の女は音楽留学でヨーロッパに渡り、1944年にベルリンで行方不明となった祖母・曽根崎霧子ではないか。土蔵で鳴り響くオルゴールに導かれ、フォギーは1944年のナチス統制下のドイツ神霊音楽協会へ。オルフェウスの音階、宇宙オルガン、ロンギヌスの石、水晶宮――時空を超えたフォギーの旅。文章によって、音楽の快楽に身を委ねることができるものなのか、と驚かされた。なおかつ、現代日本から、1944年ベルリン、そしてニューヨークへと、次々と時空を跳ばす奥泉光の手腕には圧倒される。四百九十頁もある作品である。感想はこんな短さでは終えられない。是非是非読んで頂きたい。

 2位:ミステリ。定年後、探偵事務所を開いた仁木の元に押しかけ助手としてやってきた安梨沙がルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』を元に事件を解決していく。しかし、本書を連作短編集であることを考えると、最後は少し詰め込もうとしてしまったのではないだろうかと感じてしまった。が、やはり加納朋子は良い。本書でいくと「最上階のアリス」が綺麗な短編に仕上がっている。立て続けに文庫化されていることだし、その他の作品も是非。メルヘンっぽく、ファンタジーっぽく、ミステリっぽい。

 3位:怪奇探偵小説。取り敢えず、一番好みだった久生十蘭を挙げたが、この怪奇探偵小説集、今現在で岡本綺堂、横溝正史、久生十蘭、城昌幸と出ている。最後は海野十三である。これらの作家の名作、未収録作が共に収められた好短編集。これはもう読むしかない。お好きな方は傑作アンソロジー集である『怪奇探偵小説集 @〜B』(鮎川哲也編 ハルキ文庫)も読まれると良いです。こちらもお薦め。

 別格:クラフト・エヴィング商會の作品群は見事だ。ふと本棚を見るとちくま文庫から出ている「シャーロック・ホームズ全集」、角川書店から出た「新青年傑作選」と好きな装丁はクラフト・エヴィング商會だったりする。本屋で見る「明治の文学」シリーズなんかは特に明治期が好きではない私でも欲しくなる。一時期話題になった『絶対音感』の装丁もそうだしなあ。いい仕事している、本当。これは別格。というか、クラフト・エヴィング商會の「商品」、何処かに売ってないかなあ。

旧刊

 1位:『まさかな』小林めぐみ(富士見ファンタジア文庫)
 2位:『傭兵ピエール 上下』佐藤賢一(集英社文庫)
 別枠:『白狼伝 赤い夕陽の快男児』樋口明雄(ログアウト冒険文庫)

 1位:ファンタスティックSF。謎の海面上昇により都市の殆どが水没してしまった時代。海洋物理学講座のリチャード・クレイは奇妙な能力を持つ少女澤田郁生と奇妙な出会いをし、巨大金魚にまつわる不思議な物語に巻き込まれていく……。ほんわかとしたラブコメではあるのだが、SFっぽいっちゃあSFっぽいし、なかなか幻想的っちゃあ幻想的であったりする。というか、幻想的なのだけど。とてもお薦め。因みに、著者によると主人公の名前はリチャード・ファインマンからとっているとのこと。興味ある方は、天才物理学者の名エッセイ『ご冗談でしょう、ファインマンさん。』(ファインマン 大貫妙子訳 岩波現代文庫)もご一読を。

 2位:傭兵小説。生臭い荒々しい傭兵をリアルに再現してみせた一作。中世ファンタジーではもう使い古されたジャンヌ・ダルクの話であるが、それよりも何よりもここまでリアルに傭兵を書いた小説は初めて読んだ。熱い。とにかく熱い。佐藤賢一の熱さには一度触れておくと良し。お薦めである。ちなみに『われはフランソワ』(山之口洋 新潮社)が同時代に生きた詩人にして大泥棒フワンソワ・ヴィヨンを描いたものなので、この時代が好きなものはそちらもどうぞ。

 別枠:山田章博挿絵小説。いや、今期は山田章博挿絵(表紙)の小説が結構読めたので入れさせて頂く。だめといっても入れる。山田章博が表紙絵を描く作品は大体が当たりなのだが、菊地秀行の『虚空王』(菊地秀行 朝日ソノラマノベルス)や『鬼童来訪』(一条理希 徳間デュアル文庫)は外れだったか。後は基本的に当たりばかりである。本書は山田章博の挿絵があって、中身もまあまあ楽しめて、うはうはである。他に当たりとしては『白銀の聖域』(マイケル・ムアコック 創元推理文庫)が挙げられる。ちなみに、作者の樋口明雄は最近ヤングアダルトから離れて、単行本で結構出しているので要注意。まあ、それはいいや。

(2001年4月30日更新)
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2001年度前期(2001/04/15〜2001/10/14)

新刊

 1位:『モンスターフルーツの熟れる時』小林恭二(新潮社)
 2位:『ペロー・ザ・キャット全仕事』吉川良太郎(徳間書店)
 3位:『イリヤの空 UFOの夏 その1・その2』秋山瑞人(電撃文庫)
 番外:『華胥の幽夢』『黄昏の岸 暁の天』小野不由美(講談社X文庫ホワイトハート)

 1位:小説。今まさに小林恭二が変貌しているのは事実だ。混乱し、錯乱し、惑乱する大衆たち。その狂騒的な群衆をケレン味たっぷりに演出するのが小林恭二はとても巧い。この作品もその一つだ。角川ホラー文庫から『したたるものにつけられて』も出たし、小林恭二好きにはもう、うはうは。ただ、オススメはしません。うはうはだけど。

 2位:第二回日本SF新人賞受賞作。非核大戦後の近未来。ペローはフランスの暗黒街でエジプトが開発した機密システムを入手する。それを元に、意識をサイボーグ猫へと送信、憑依するシステムを完成させる。猫としての生活と生身の身体での生活との二重生活を楽しむが、ある日ギャングの幹部に捕まってしまう。そして、ペローは暗黒街に潜入した秘密警察の残党狩りをする羽目になるのだった……。早々と第二作『ボーイソプラノ』も上梓され、三作目に期待。オススメはしない。期待はしているけど。

 3位:というわけで、『イリヤの空 UFOの夏』なのである。この物語はおかしくて、切なくて、どこか懐かしい。ラブコメに括っちゃいけない気もするが、SFに括っちゃいけない気もする。せつない作品書かせたら秋山瑞人は巧い。オススメはしません。せつないけど。完結が待ち遠しい。

 番外:山田章博挿絵小説。長く沈黙を保っていた「十二国記」シリーズが漸く再開し、今期は『黄昏の岸 暁の天』『華胥の幽夢』と2冊も拝むことができた。数年ぶりの十二国記であるが、山田章博の絵は未だに健在。因みに、来期BLの1位はほぼ確定で、『ロードス島戦記 ファリスの聖女』となる。オススメはしない。が、格好良い。本当。

旧刊

 1位:『クラゲの海に浮かぶ舟』北野勇作(徳間デュアル文庫)
 2位:『アビシニアン』古川日出男(幻冬舎)
 3位:『語り手の事情』酒見賢一(文春文庫)

 1位:SF。数日間、他の本は殆ど読まず、『クラゲ』にかかりきりになったのだが、どうやら本書は凄いらしい。絶賛してもいい。絶賛しようか。では、絶賛しよう。凄いぞ、本書は。もう少し能動的な読書しないといかんなあ、と反省させられた。決して「何が何だかわからない作品」ではない。謎は殆ど解かれる作品である。いや、謎は始めからない、と言ってもいいかもしれない。読者の前に開示されるのは物語の断片である。「ピースの足りないジグソーパズル」と言われるのも納得。作品全体をノスタルジーが覆い、浮遊感が伴う。読後感は寂しく、せつなく、やるせない。本書を読んで気に入った方は『昔、火星のあった場所』『かめくん』(北野勇作/徳間デュアル文庫)も是非。こちらの方がピースが足りません。北野勇作にどっぷり浸かってしまった半期だった。デュアル文庫は良い仕事してます、本当。

 2位:小説。これは凄いぞ。粗筋だけ話しても、この作品の魅力は伝えられない。いや、粗筋なんかを話したら、魅力がこそぎ落とされてしまう。そういう小説なのだ。言語化しにくいものを言葉で捩じ伏せてしまう、のが古川日出男の小説なのではないかと思う。『13』は色彩についての小説だった。沈黙』は音楽についての小説だった。そして、『アビシニアン』は匂いについての小説であり、言葉についての小説である。実際、どのような小説であるのか、は本書を読んで頂きたい。凄いことは保証する。

 3位:官能小説。あまりにもくだらなかったので記念にこれは3位にいれておくことにする。官能小説が好きな人は一読の価値が。いや、堪能してしまった。表紙ミュシャだし、それだけでも買う価値は。酒見賢一の後書きの長さには定評があるが、本書も馬鹿みたいに長い。後書きもくだらない。立ち読みでよいから読んでみることをオススメする。因みに酒見賢一は『後宮小説』(新潮文庫)がオススメ。

 他、筒井康隆『虚人たち』(中公文庫)、いとうせいこう『難解な絵本』(角川文庫)、町田康『夫婦茶碗』(新潮文庫)、石田衣良『池袋ウエストゲートパーク』(文春文庫)、阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』(新潮文庫)が次点。ミステリと言えば、吉田音『Think』『Bolero』(筑摩書房)くらい……か? 次点が多くて申し訳ない。面白かったのだから仕方がない。

(2001年11月30日更新)
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2001年度後期(2001/10/15〜2002/04/14)

新刊

 1位:『アラビアの夜の種族』古川日出男(角川書店)

 今期の第1位は『アラビアの夜の種族』。
 ――『アラビアの夜の種族』という題名の本がつまらないわけがない。
 聖遷暦一二一三年、舞台はカイロ。ナポレオン率いるフランス軍が偽りの平穏に満ちたカイロに迫る。 対抗する手段は唯一つ。読む者を狂気に導き、歴史さえも覆す一冊の書――。 イスラム軍のアイユーブは、ナポレオンに一冊の書物を贈呈し撤兵へと導くよう、策を練る。
 (前略)「――ひとことで説けば、これは稀代の物語集でした。古今東西における、もっとも稀代の。 またとない玄妙脅威の内容を備えた一冊であったのです。 ――さながら魔術的な媒体の書物でした」(中略)
 「その書物には名前はないのか?」とアイユーブにたずねる。
 「正式な題号は、残念ながら」とアイユーブ。 「その書名が記載された公文書、あるいは史書や年代記はございません。 これは公式の歴史ではありませぬので。 しかし、非公式の歴史においては、これは一部の年代記編者らの一門や賢者たちの師資相承、 組合に属さぬ物語り師たちの口伝などによって、ふさわしい名をあたえられております。 すなわち『災厄の書』です」
 「『災厄の書』――」(後略)

 かくして物語られる『災厄の書』。これは稀代の物語集にして、玄妙脅威の内容を備えた一冊。 古川日出男がスゴイのは、ここまで言った物語を本当に書き上げてしまうことだろう。 アラビアンナイトの世界に一度でも触れた人ならば読めばすぐにわかると思う。 語り部により譚られていく物語。 語り部により、夜にのみ紡がれる物語。 物語の迷宮へ誘ってくれる魅惑の物語。 物語の迷宮にして、迷宮の物語。
 副読本としてダンジョンRPG小説の傑作、 ベニー松山『隣り合わせの灰と青春』(集英社スーパーファンタジー文庫)と 同作者『風よ。龍に届いているか』(宝島社)を推奨。 千夜一夜物語風の作品とダンジョンRPG小説がどう繋がるかは読んでからのお楽しみ。 是非是非。

 新刊次点:北野勇作のソフトSF『ザリガニマン』(徳間デュアル文庫)、 吉川良太郎のスタイリッシュSF『シガレット・ヴァルキリー』(徳間デュアル文庫)、 クラフト・エヴィング商會『ないもの、あります。』(筑摩書房)、 いしいしんじのほのぼの恋愛小説『トリツカレ男』(ビリケン出版)。 どれもこれも面白いです。

旧刊

 1位:『完全な真空』スタニスワフ・レム(国書刊行会)
 2位:『時間衝突』バリントン・J・ベイリー(ハヤカワ文庫)
 3位:『E.G.コンバット』秋山瑞人(電撃文庫)

 1位:書評集。
 と言っても、ただの書評集ではない、ここに収められた書評の対象である本はどこにも存在しない。架空の本に関する書評集。様々なレベルの、十六本のアイデアが惜しげもなく書評のために使われている。内容は『完全な真空』の書評(本書の冒頭には何と『完全な真空』についての書評が載っているのだ)に詳しいが、パロディ又はパスティーシュの書評、アイデアの紹介としての書評、実際に書くことが不可能であるような本についての書評、の三つに分類できる。最後に挙げた、「実際に書くことが不可能であるような本」についての書評の題材となっている「どとのつまりは何も無し」は、凄い。本当に凄い。本当に凄いのだが、その凄さを説明すると非常に長くなるので、是非とも『完全な真空』にある書評を読んで頂きたい。ひとまず作者の言葉を引用しておくことにする。
 「文学はこれまで、架空の登場人物について語ってきた。我々はその先に進もう。つまり、架空の書物のことを書くのである。これこそ、創造の自由を回復するチャンスであり、それと同時に我々は、二つの相反する精神――すなわち作家の精神と批評家の精神――を結び合わせることができるわけだ」


 2位:舞台は遠未来、大規模核戦争の後、地球は「真人」と呼ばれる白人の軍事社会が成立し、その他の有色人種は亜種として迫害されている。この地球では、過去に異星人の破壊的な攻撃により一時期侵略されたという伝説があり、考古学者ヘシュケたちはその異星人の残した遺跡を調べることとなる。一体、昔の写真の方が遥かに荒廃しているのは何故なのか――。ワイドスクリーン・バロックの第一人者、ベイリーの奇想SF。
 これでもか、これでもか、と出てくる奇抜なアイデアには唖然とせざるをえない。一見ばかばかしいとも思える奇抜なアイデアの奔流、破天荒なプロット、むやみやたらな壮麗さ、異様さに満ちたこの作品、見所は尽きない。何と言っても、我々の時間と逆行する時間が正面衝突してしまう、というばかばかしくも物凄い想像力には、ただただ圧倒されるばかり。尋常でないセンスと知性を放出し、驚くほどの生理的エグさをちりばめさせたベイリーの諸作品は一読の価値がある。是非とも豪腕な作者に振り回されて頂きたい。

 3位:――「奴ら」は女を狙って殺す。西暦二〇七九年七月九日。それは後に「プラネリアム」と呼ばれることになる宇宙からの侵略生物によって、人類が全人口の4割を失った日。未曾有の混乱のなか、月面から降り立った救世軍(サルベージョン・アーミー)によってかろうじて滅亡を免れた崖っぷちの人類は、すべてが戦場と化した地球から全女性人口を月面に移送。人類の存亡を賭けた反撃を開始した。あまたの戦場で無慈悲に消えていく幾多の人命。僅かな生存者さえも、次の戦地で生き残れるわけではない。そんな、いつ果てるともしれない戦争は二〇六七年の今も続いている……。
 『イリヤの空、UFOの夏』でハマってしまった秋山瑞人のデビュー作。ミリタリーSFである。表紙と裏書きとで引いてしまう可能性は高いが、そこを何とか乗り越えて是非。
 ネットワーク侵入者を追跡する場面の描写が凄い。架空のシステムだが、実際のネットワークに詳しくなければここまで書けないだろう。GARPという人工知能兵器と謎の侵入者のハッキング争いは、非常にスピード感溢れる描写で、胸が躍る。月をぶち抜く「自由落下坑」という舞台設定、飽きさせないストーリー展開、独特な文章。泣かせます。「電線に、電気を通すと、そこには意識が生じるんです。」は名言。是非是非是非。

 旧刊次点:石田衣良の良作『娼年』(集英社)、松村栄子の秀作『紫の砂漠』(ハルキ文庫)は好きな人にはたまらない作品。賀東招二「フルメタル・パニック」シリーズ(富士見ファンタジア文庫)は良くも悪くもライトノベルの佳作、といったところ。古典SFのロバート・A・ハインライン『夏への扉』(ハヤカワ文庫)は何となくのすたるじいに浸れます。傑作。

(2002年4月30日更新)
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2002年前期(2002/04/15〜2002/10/14)

新刊

 1位:『デイヴィー』エドガー・パングボーン(扶桑社)
 2位:『スローグッドバイ』石田衣良(集英社)
 3位:『真世の王 黒竜の書・白竜の書』妹尾ゆふ子(EXノベルス)

 1位:ファンタジーSFにして教養小説。核戦争による崩壊から三百年。小国家が乱立し単一宗教による支配下にあるアメリカ東海岸を舞台にした、デイヴィーの回想録。少年の成長譚である本書の、諧謔と風刺に満ちた物語は読んでいてにやついた笑いが頬に張り付いたまま離れない。往々にしてSFにジャンル分けされるのだが、ファンタジー色も非常に強いのでファンタジー好きの方にも是非オススメしたい。ビルドゥングス・ロマンでファンタジーで世界設定はSFで。きっと手に入るのは今の内。是非是非是非。

 2位:傑作恋愛短編小説集。石田衣良の格好良さを再確認した一冊。石田衣良は恋愛小説書かせたら確実にうまいだろうなあとは思っていたがやっぱりうまかった。ツボでした。脇腹えぐりこむようにつぼに入ってきました。何ていうかもう心がときめいたねごめんちょっと嘘ついた。もう一冊、こちらは期間外になるけれども、「IWGPV」の『骨音』も出たし最高にクールだったし石田衣良絶好調だし。石田衣良を読むなら今の内。ほら、若い時の石田衣良は買ってでも読めって言うし。「フリフリ」が一押し。

 3位:異世界ファンタジー。言葉によって創られた可変世界。「十二国記」の世界観サイコー、って人は一度読んでみるのが吉。いや、「十二国記」とは全く違うけれども、設定原理主義者は読んでおくのが吉。できうるならば、同作者の『異次元創世記』(角川スニーカー文庫)を先に読んでおくとさらに吉。絶版だけど。レーベルがレーベルだけに本書自体もいつ絶版になってもおかしくない。買うならば今の内。

旧刊

 別格:『エンジン・サマー』ジョン・クロウリー(福武書店)
 1位:『パヴァーヌ』キース・ロバーツ(扶桑社) 
 2位:『平行植物』レオ・レオーニ(ちくま文庫)

 別格:叙情系SF。【嵐】と呼ばれる大破壊後の遥か未来の北アメリカを舞台として物語は始まる。そこではインディアンの末裔たちが過去の機械文明を失いつつも、一種の牧歌的ユートピア社会を形成していた。語り手は〈しゃべる灯心草〉と呼ばれる少年。彼は少女を相手に〈聖人〉になろうとして彷徨した自分の冒険譚を語っていく。〈一日一度〉と呼ばれる美少女や、〈ドクター・ブーツ〉と巨大な猫族の物語、ラピュタと呼ばれる天上都市と謎の水晶体――。この物語に関しては語り始めたらキリがない、というよりも語れるほど読みこめていないというのが恥ずかしながらも正直なところ。同作者の『リトル・ビッグ』(国書刊行会)を今現在読んでいるのだけれど、これまたファンタジーの傑作であるのが読んでいる最中もひしひしと感じられる作品で。もしかして自分って叙情系かも、とか思ってるやつは皆ジョン・クロウリーを読んだ方がいいと思う。1位というか別格。自分の中でこれを越えるSFは中々出ないと思う。

 1位:改変歴史SF。エリザベスT世の暗殺後、カトリック教会の支配により科学技術の発達が阻害され、異端審問の暗い影が落ち、古い社会構造が維持された二十世紀のイギリス。「もう一つの世界」における歴史の大きなうねりを描いた作者にはただただ脱帽するのみ。実は本書の魅力はSF的設定やらファンタジー的設定だけではない。というのも……ああ、数行で紹介しきれるような内容ではないのだ。SF、ファンタジー好きはこんなところ読んでないで早く本書にとりかかるのが吉。こんな傑作を復刊してくれるなんて、素敵だぜ、扶桑社。

 2位:SF。どのくらいSFかと言うと、もしかしたら今期旧刊の中で最もSFかもしれないくらいのSFである。「架空」と「博物誌」という単語にピンとくる人は今すぐ本屋に走れ!

(2002年10月30日更新)
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2002年後期(2002/10/15〜2003/4/14)

新刊

 1位:『天使』佐藤亜紀(文藝春秋)
 2位:『セカンド・ショット』川島誠(角川文庫)
 3位:『竜とわれらの時代』川端裕人(徳間書店)
 次点:『D-クラッカーズ』あざの耕平(富士見ミステリー文庫)

 1位:もはや佐藤亜紀の作品は佐藤亜紀の作品であるとしか説明ができない身体になってしまったのだけれども、それでもやはり佐藤亜紀作品を未読の方もいらっしゃるだろうから、説明を試みることにする。佐藤亜紀はすごいヒトである。本書はそのすごいヒトが書いたすごい作品なのである。第一次世界大戦を舞台としたサイキックノベルなんだけれども、自分もサイキックなんじゃないかと錯覚できるくらいすごい。いや、ここだけの話マジホント。っていうかマジで錯覚した。子どもの頃、自分もカメハメ波出せるんじゃないかと思って練習したのと同じくらい錯覚した。いやまあ、錯覚じゃないんだけど。自分すでにサイキックでヒトの肋骨の一本や二本を折るのは簡単って言うかもはやメザーリも目じゃないって感じ。
 芸術選奨文部科学大臣新人賞も受賞したほどの作品。オススメです。……その賞は何?っていう突っ込みはなし。私も知らん。

 2位:川島誠の青春小説。純粋無垢でそれ故に残酷な少年時代、甘酸っぱく官能的な思春期を書かせたらトップクラスに入ると思う。とりあえずは本短編集に収められている「電話がなっている」を是非とも読んでもらいたい。本作を読んで少年少女たちが受ける衝撃は、きっとあなたにも感じられると思う。とてもオススメ。

 3位:ふと今までの読書生活を振り返ってみると、小学校の頃から今に至るまで年に一冊は恐竜関係の本を読んでいたりするんじゃないかなと思う。暑くて眠れない夏の夜に、スタンドだけを付けた薄暗い部屋で読み漁り、寒い冬の夜にこたつの中で夢中になって読み耽った。いずれにせよ、その巨大な生物は長い間、私の心を魅了し続けている。「太古、地球上に棲息していた巨大な生物の化石」というものが小さい子どもに与えた衝撃は果てしなく大きい。それは――幼少期にかけられた恐竜の呪縛は――いつか解かれることがあるのだろうか、と思えるほどに大きかったし、その呪縛は今でもまだかけられたままだ。私は恐竜に対して、その巨大さ、その生命力、その力強さ、その不可思議な魅力に、これからも絶えず圧倒されてゆくのだと思う。そしてそれを乗り越えることは多分できないだろう。しかし、それが故に我々は恐竜とともに生きていくのだ。同じ時代を。

 次点:ジャンキーがドラッグでラリってスタンド出して戦う話。ジャンキーですよ。ポケットから一掴みはあるカプセルをつかみ出してそのままガリッと噛み砕いて嚥下しちゃうんですよ。しかもそのカプセルでパワーアップするわけですよ。そんなジャンキーもののくせにライトノベルの王道いっちゃっているんですよ。ライトノベル界ジャンキー小説では、1,2を争う作品。いや、マジで。いやもうライトノベルジャンキー小説1位と言い切ってしまってもいい。言い切っちゃえ。1位だ。これ1位。今決めた、オレが決めたこれ1位。とりあえず、ライトノベル読むヒトはまとめ買いして一気に読むがいいよ。そして断言してもいいが、5巻ラストでは誰しもが思わず三村ツッコミをしたくなるに違いない。
 「つづくのかよっ!」
旧刊

 別格:『リトル、ビッグ』ジョン・クロウリー(国書刊行会)
 1位:『光の王』ロジャー・ゼラズニイ(ハヤカワ文庫)
 2位:『黙示録三一七四年』W・M・ミラー・ジュニア(創元SF文庫)
 番外:『だれが「本」を殺すのか』佐野眞一(プレジデント社)

 1位:現在に甦った、古き良き妖精物語。Fairy Tailを愛する全てのヒトへ贈られるべき、妖精たちとその一族に関する物語。今期の旧刊1位であるし、それだけでなく生まれてこの方この数十年で読んだファンタジーの中での1位。より多くのヒトに読んでもらってこの気持ちを分かち合いたいとは思うものの、斯くも見事な物語の前に立たされると、語る言葉がない。長大で、壮大で、悠然たるこの物語に飲み込まれてしまった。いつの日か、本書のような〈物語〉に対してでも語ることができる言葉を探しながら、これからも読書を続けていこうと思う。

 2位:ダークヒーローを書かせたらダントツでうまいロジャー・ゼラズニイの代表作と言えるべき作品。どの作品でもいいから物語原理主義者はとりあえず読むがいいよ、ゼラズニイ。本書では地球から遠く離れた植民惑星を舞台に、毒殺・撲殺なんでもござれで暗殺し続ける反逆者なお釈迦さまとか、無双の強さを誇り比類なき天才でもあるシブい閻魔さまが出てきます。むちゃくちゃかっこいいです。激しく燃えます。画面の前の君も本書を読んで、お釈迦さまと閻魔さまに激しく萌えろ!

 3位:破滅SFの傑作。娯楽ってのは、頭を使わずに楽しめるものと、頭を使って使って使い切って楽しむものとがあると思うわけですが、本書はその両方が楽します。読んでいる最中はその世界の没頭してしまうのですが、読了後今までの自分の世界の捉え方について考えてしまう、そんな作品なのです。思索的なエンターテインメント。破滅してます。オススメです。

 番外:やはり一人の本好き・読書好きとしては現在の出版業界の状況というものに目を向けざるをえません。現実の経済では90年代にバブルがはじけたと言われていますが、出版業界のバブルは未だにはじけていません。この異常に膨らんでしまったバブルがはじけた方が良いのは確かなのですが、はじけた時に一体どうなってしまうのか正確なところは多分誰にもわかりません。
 そんな出版バブル時代の今、現在の出版を取り巻く状況に関して理解できている本好きの方は一体どのくらいいるのでしょうか。実際に、再販制度ってのがどういう制度なのか、アマゾンやらbk1やらのオンライン書店ってのがどのような仕組みで一体何が画期的だったのか、今現在出版社はどのような営業努力をしているのかとか、そういうことをきちんと知っているヒトがどれほどいるでしょうか。って言うかまあ、私はさっぱり知らなかったんですけれども。
 今、時代そのものがものすごい勢いで進んでいますし、それと同時に出版業界というものの変化も徐々に速度をあげていっているため、今読むと2001年に刊行された本書も時代遅れである観が否めません。ただそれでも、本の流れていく道、出版、流通、書店、と個々をその流れに沿って見てみることにより現在の出版の流れがわかり、なおかつ問題意識を持つことができる貴重な一冊だと思います。
 陳腐な感想になってしまいましたが、本書を読まれれば色々と驚かされることが多いはずです。どうぞご一読を。

(2003年5月24日更新)
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2003年前期(2003/4/15〜2003/10/14)

新刊

 1位:『中国行きのスローボート RMX』古川日出男(角川書店)
 2位:『イリヤの空 UFOの夏』秋山瑞人(電撃文庫)
 3位:『北野勇作どうぶつ図鑑 全六巻』北野勇作(ハヤカワ文庫)

 1位:東京を幻視する作家、古川日出男。――ということで、本書の紹介をしようかと思ったものの、省略。紹介しようとするとファンのたわ言以外の何にもならないので紹介できないし、落ち着いて評価もできないのでオススメもできない。ひとまず、今の私にとって一番遠くへ連れて行ってくれる作家であるのは間違いない。ので1位。いやまあ、いっそ別格扱いにしてもいいんだけど。

 2位:「永遠の夏休み小説(C)大森望」が全4巻でついに完結。ボーイミーツガールのベストオブベストであると同時にサイコーの夏休み小説。真夜中のプールでの出会い。部活に文化祭にと学校生活を楽しむも、引き離されそうになっての逃避行――ボーイミーツガール好きには圧倒的にオススメの1冊。読め!読んで泣け!

 3位:もちろんその内容もハズレがない良作の短編集であるのは間違いないものの、やはり企画の勝利と言ってしまって良いであろう、全6冊のおまけ付き書籍。食玩ならぬ本玩。どれか1冊買ったらもう1冊もう1冊と全部買わずにはいられないコレクター魂をくすぐる装丁も、食玩らしさを醸し出している。これぞまさしく「折り紙」付きの面白さ。買うなら今のうち!
旧刊

 1位:『香水』パトリック・ジュースキント(文春文庫)
 2位:『マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー(白水社)
 3位:『キャッチワールド』クリス・ボイス(ハヤカワ文庫)

 1位:今期の旧刊1位となるは、古今を通じて最高にして希代の香水調合師グルヌイユの一代記。希代の香水調合師が悪臭ふんぷんたる匂いの街パリで出会った〈最高の匂い〉。その〈最高の匂い〉を再現するために、グルヌイユはその全生涯を費やすことになる。これほどまでに香り立つ妄想はそうそうお目にかかれるものではないので、ひとまず当サイトをご覧の皆々さまにはオススメしたい。読まれたし。

 2位:〈地下の想像力の作家〉スティーヴン・ミルハウザー待望の新刊――だったのは2002年7月の話。新刊として出た時に読まなかったので今期の旧刊に。一体何に対してかよくわからないものの、何だか非常に悔しい。ミルハウザーによる、偏執的なまでに緻密な描写で創り出される箱庭は本書でも健在。長編である分、より長く箱庭の中に居られるってのが、実に嬉しい。オススメ。

 3位:ワイドスクリーンバロック――まあ、訳すとするなら壮大な法螺話――からSFに入ってしまった人間なので、これぞSF!と思える作品はワイドスクリーンバロックばかりなのだが、その中でも本書は天外の奇書。一体脳みその何処をどう押したら法華宗の僧兵が異星人を倒しにアルタイルへ旅立ちその後あんな展開になるのかさっぱりわからない。さすがイギリスSF。艦船名が〈憂国〉ってのもこれまたポイント高し。

(2003年10月23日更新)
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2003年後期(2003/10/14〜2004/04/15)

新刊

 1位:『文学賞メッタ斬り!』大森望・豊崎由美(PARCO出版)
 2位:『書店風雲録』田口久美子(本の雑誌社)
 3位:『バッカーノ! 1932』成田良悟(電撃文庫)

 1位:うわあそこまで言っちゃっていいんスか豊崎シャチョー、つーかそれを全然フォローしないどころかもっとヒドイこと言っちゃっていていいんスか大森さーん。快刀乱麻とはまさにこのこと、現在の文学賞業界を純文学からミステリからSFから受賞作から選考委員の選評まで当たるを幸いバッサバッサと薙ぎ倒していく小説読みの小説読みによる小説読みのための愉快痛快な文学賞ガイド。こんなめっちゃオモシロイ本を読んでないっていう文学賞好きのそこの君は損してるので今すぐ書店に走って買って読め!

 2位:1980年代、池袋新刊書店激戦区と80年代文化とは相乗的に作用して発展していった。その激震地にあったのが、〈西武リブロ〉。池袋書店激戦区を作り出していった、そしてその池袋書店激戦区が作り出されていった、〈80年代文化〉とは一体どのようなものであったのか。池袋の新刊書店を知ってるヒト、書店文化に興味があるヒトたちには強くオススメしたい優れたエッセイ――いや、本書はもしかしたらノスタルジックな書店ファンタジーなのかもしれない。

 3位:時は禁酒法時代。古き良き犯罪の国アメリカを舞台に、クレイジーなヤツらによって繰り広げられるバッカーノ(バカ騒ぎ)。視点の切り替えの巧さと、構成の妙。大陸横断列車〈フライング・プッシー号〉のクレイジーな一夜を表と裏から描いた「1931」〈鈍行篇〉〈特急篇〉。 縺れた一本の糸を解きほぐすように収斂していく見事なケッサク「1932」。そんなB級ライトノベルのケッサクをものすごいスピードでモノにしているナリタリョウゴ。何とも楽しみな新人が出てきたってもんだ。ライトノベル読みならば、この〈バカ騒ぎ〉を見逃す手はない。急げ急げ急げ!!

旧刊

 1位:『ウィルソン氏の驚異の陳列室』ローレンス・ウェシュラー(みすず書房)
 2位:『青白い炎』ウラジミール・ナボコフ(ちくま文庫)
 3位:『アウステルリッツ』W・Z・ゼーバルト(みすず書房)
 別枠:『会社はこれからどうなるのか』岩井克人(平凡社)

 1位:フィクショナルなモノが展示されている博物館に纏わる物語を、ノンフィクショナルに語っていく本書を読み進めていくと、本書そのものがフィクションなのかノンフィクションなのかそれすらもわからなくなっていく。虚構と現実との間には数ミリ――いや僅か数マイクロミリ以下の狭間しかなく、その狭間へと誘ってくれる本は多分貴重で、稀だ。貴書にして稀書にして、奇書。本書こそ驚異の産物だ。

 2位:長詩の注釈書。狂人キンケイドによって注釈されていく長詩の世界は徐々に現実を蝕み、妄想が現実に取って代わり、現実が妄想へと変幻していく。優美にして華麗、甘美にして絢爛なる、狂人の妄想。其処にこそ読書の愉楽がある。その妄想と遊び戯れることこそが読書の快楽だ――そう思ってしまうのはスノビッシュな読書家の妄想だろうか。

 3位:『アウステルリッツ』はフィクションだ。たぶん。アウステルリッツの半生を読み進むにつれ、作者ゼーバルトの巧みな語り口に酔い痴れてしまう。いや、より正確に言うと、「酔い痴れられないこと」に対して酔い痴れてしまう。そしてそこにゼーバルトの巧みさがある。ふとした匠の技を魅せられる、何とも見事なノンフィクショナルフィクション。

 別枠:いやはやまったくこんなデフレスパイラルな不況な世の中で日本の会社は一体どうなっちゃうのよっていうニッポンのオトーサンたちとOLたちと就職活動する学生たち皆の問いに、会社という組織の根っこの成り立ちから今後の国際経済社会におけるニッポンの会社にまで論理パズルを解くように答えてくれちゃう1冊。こりゃすごい。

(2004年5月10日更新)
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2004年前期(2004/04/14〜2004/10/14)

新刊

 1位:『ケルベロス第五の首』ジーン・ウルフ(国書刊行会)
 2位:『象られた力』飛浩隆(ハヤカワ文庫)
 3位:『もうおうちへかえりましょう』穂村弘(小学館)

 1位:今期の新刊1位にコレを持ってこずしていったい何を持ってくるというのか。初読だけで満足できるヒトはいないはずだ。ゆっくり再読し、じっくり三読し、それでもまだまだわからない。何度も何度も読み返し、より大きな迷宮の存在に気づくのだ。物語の迷宮を創り出すのは作者か読者か、はたまた――。「ジーン・ウルフの小説をすべてわかったと称する人間は、嘘つきか、馬鹿者か、ジーン・ウルフだけだ」。

 2位:飛浩隆は刺激する。五感を刺激する。言葉で。言葉で直接、視覚と聴覚と嗅覚と触覚と味覚とを刺激する。その文章は、その単語は、その文字は、言語的五感をダイレクトに刺激する。文字でしか与えられない、濃密な言葉とエキサイティングな物語。その物語世界に入り込んだら窒息しかねない。でもそれがまた心地良い。

 3位:いまだにエッセイというのがどんなものなのかよくわからないのだけれど、今んところ「ああ何だかよくわからないけれど著者が言いたいことは何となくわかる気がする」といった気分にさせてくれるのが私にとってのエッセイであって、ソレから考えると穂村弘のエッセイていうのはまさしくそうしたエッセイであるわけで、本書もああよくわからないけれど何だかその気持ちはわかる気がするようなエッセイばかりが集められているからコレをオススメしていいんだか何なんだかわからないのだけれど、まあでもおもしろいと思うから読んでみたらよいと思う。

旧刊

 1位:『プラネタリウムのふたご』いしいしんじ(講談社)
 2位:『レ・コスミコミケ』イタロ・カルヴィーノ(ハヤカワepi文庫)
 3位:『偽書百撰』垣芝折多著/松山巖編(文春文庫)

 1位:いったい何だってここまで透徹な眼差しでこんなにせつない物語が書けるんだろう、このヒトは。プラネタリウムで育ったふたごの交錯する人生。ほんものはすごい、そう思った。でもニセモノもすごいんだ。ニセモノをほんものに魅せてしまうヒトたちの、せつない物語。せつなくてせつなくて、でも心あたたまる物語。こういうヤツに弱いんだよなあ。

 2位:往年の名作が復刊。Qfwfq爺さんの飄々とした法螺話はとても心地良くて、なおかつおもしろい。近くにこんなじいさんがいてあんな法螺話をいくつもしてくれたらさぞかし楽しいだろうな。まあ、法螺話なんて言ったらQfwfq爺さんに怒られてしまうかもしれないけれど。何にせよ、本を開けばQfwfq爺さんに会えるのだ。我々はなんて幸せな時代に生まれたんだろう。

 3位:いやはやまったくこれぞまさしく稀代のケッサク、いやいやケッタイなケッサク。博覧強記の松山巖が魅せるケッタイな偽書/奇書たちは、まさしくキタイにしてキッカイにしてケッタイ。埋もれさせるにはもったいないメイサク。

(2004年10月27日更新)
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2004年後期(2004/10/15〜2005/04/14)

新刊

 1位:『gift』古川日出男(集英社)
 2位:『高い城・文学エッセイ』スタニスワフ・レム(国書刊行会)
 3位:『白の鳥と黒の鳥』いしいしんじ(角川書店)
 3位:『不在』宮沢章夫(文藝春秋)


 1位:掌編集「gift」。そこには数多の物語があり数多のgiftが語られる。その中で、普段見過ごしている日常の中の非日常と、普段見ることができない非日常の中の日常が語られる。古川日出男の作品が出るたびにべた褒めしている気もするが、もはやそれは私が古川ファンだからという理由だけでは済まされないと思う。それだけの作家なのだ、古川日出男というそのヒトは。語るべきことは少なく、読むべきことは多い。

 2位:彼はその博識さで壮大な物語を聞かせてくれ――たまに大法螺吹きとも呼ばれる――、筋の通った自説を曲げず――それは頑固とも言う――、その類稀なる知性により多いに批判し大いに語る――ただしそれは偏屈と言われることもある――。そんなレム爺さんの話を聞こう。楽しい楽しいレム爺さんの話を。偏屈で頑固な大法螺吹き――そんなヒトの話がつまらない筈がないじゃないか。

 3位:実は3位は未定。今期の3位は大森望/三村美衣対談の『ライトノベルめった斬り!』、穂村弘のエッセイ『現実入門』、いしいしんじの短編集『白の鳥と黒の鳥』、宮沢章夫の『不在』どれにするかはけっこう迷うところ。しばらくしたら確定させる感じで。ひとまずは3位不在。

旧刊

 1位:『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス(岩波文庫)
 1位:『モンテ・クリスト伯 全七巻』アレクサンドル・デュマ(岩波文庫)
 1位:『百年の孤独』G・ガルシア=マルケス(新潮社)


 1位:震撼しろ震撼しろ震撼しろ。これぞまさに小説。これぞまさにボルヘス。これこそまさにボルヘスの中のボルヘスだ。ボルヘスを前にしていったい私は何を口にすればよいのだ。何を言えばよいのだろう。その世界には言葉しかなく、その世界に対して語るべき言葉は出ない。自分の言葉で語れない以上、ひとまずは他のヒトの言葉を借りよう。本書『伝奇集』に対する古川日出男の言葉を引用させてもらうことにしよう。

 「『ボルヘスは頭が悪い』という前提で読むと、簡単に読めます。でも……じゃあ頭がいい人って、誰だろう?」

――誰なんだろう?

 1位:娯楽小説だ。それが上演されている間、観客はただひたすらにハラハラしドキドキし、登場人物たちに感情移入し笑って泣いて、そしてラストには割れんばかりの拍手と喝采とを浴びせかける。それが娯楽小説だ。そしてこれこそが娯楽小説だ。素晴らしい素晴らしいこれこそまさにエンターテイメントこれこそまさに娯楽小説だ。監督・脚本・主演を務めるは〈巌窟王〉モンテ・クリスト伯、その演目は優雅にして華麗なエンターテイメント――さあ、甘美なる復讐の開幕だ、紳士淑女の皆様方、大きな大きな拍手を。

 1位:おもしろいおもしろいたまらなくおもしろいこれほどまでにもおもしろいものがあるんだろうかこれは世間一般でもおもしろいんだろうかもしかしてこのおもしろさがわかるのは世界で私ただ一人だけなんじゃないだろうか――あの、おもしろい小説を読んだ時の独特の感覚は、小説を読んだことがあるヒトにしかわからないのではないだろうか――そんな錯覚を起こさせる小説。――いや、それは錯覚なのか。

(2005年04月15日更新)
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2005年前期(2005/04/15〜2005/10/14)

新刊

 1位:『現代SF1500冊 乱闘編』大森望(太田出版)
 2位:『輝く断片』シオドア・スタージョン(河出書房新社)
 3位:『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男(文藝春秋)


 1位:一番最初にSFをSFとして意識して読んだのが ワイドスクリーンバロックSF『時間衝突』だった。 作者はバリントン・J・ベイリー。訳者は大森望。 その書を読んだ2000年当時、私が大森望に対してもっていた認識は 新本格ミステリの周縁部にいるSF系の書評家っぽいヒト、というものだった。 結局、『時間衝突』はSFとのファーストインパクトとなり、 そのまま自分の中でのSFオールタイムベストに入る作品となった。 「だから」という言葉で繋いでよいものか難しいところがあるが、 その後、SF読書の指針として私の前には大森望が常にいて 訳書も共著も編著もコラムもエッセイも目に付いたものはだいたい読んできた。 その大森望のSF時評集が出ると聞いた時の喜びといったら なかなかわかってもらえないんじゃないかと思う。 どのぐらい嬉しいかというと、 半期ベストにあげちゃうぐらい嬉しい。 今回の刊行時期とはずれるが、「乱闘篇」に続編となる 1995年から2005年のSF時評集「回天篇」とあわせてのベスト1位。 そして私の中のオールタイムベストSF時評集。

 2位:ということで。 その大森望が編集したこれまた奇想作家―― というかヘンな作家シオドア・スタージョンの短編集。 最近、一気にオリジナル短編集が編まれたり幻の長編が出版されたり 幻の短編集が復刊されたり、どさどさどさーとスタージョンの本が 積まれていってうわうわうわースタージョンだスタージョンだー と慌てている間に、スタージョンブームがやってきちゃってて、 実は前期も前々期もスタージョンの作品はずっと読んできたのだけど、 如何せんどれもこれも新刊刊行時期に読めなくて ベスト入りを果たせなかったので、今回初めてランクイン。 本作は全6編の短編集。 「マエストロを殺せ」「ルウェリンの犯罪」の2篇がオススメ。 きっとどのジャンルに入るのかって言ったらクライムノベルなんだろうけれど、 こんなクライムノベルは読んだことがない。 まさにワンアンドオンリー、 シオドア・スタージョンの作品群に関しては、 どんなあらすじを言ってもどんな説明をしても、 その小説を読んでもらう以外はその独特な味わいはわからないと思う。 ひとまずは、ここにある輝く短編を読んでみてほしい。

 3位: 各パートが「犬よ、犬よ。お前たちはどこにいる」で始まる印象的な作品。 斉藤美奈子対高橋源一郎の対談の中で、 「これは犬の聖書なんだ」と高橋源一郎が言っていて、、 ああそうかそういえばそうなのかとそこで気付かされた。 古川日出男が柴田元幸と対談していた時に 「くるりは常に曲調が違っていくので、 初めて聴くヒトに薦めるのが難しい。 でもそれ(変容し続けること)こそがロックなんじゃないか」 という話(かなり意訳)をしていて、 うんうんそうそう、そうなんだそうなんだ、 くるりは「図鑑」から「ワールドイズマイン」、 「アンテナ」に最新作「NIKKI」まで どれもこれもがまったく違って、 いやホントに何もかもが違う。 でもそのいろんな違うどの曲を聴いても、 やっぱりその芯にはくるりであることが貫かれていて、 くるりのファンとしては、新曲が出るたびに ああなんかいつもと違う。けどやっぱくるりはくるりだよなー、と思える。 私にとって古川日出男というのはそういう作家で、 たまに「古川日出男ってどこから読めばいいのか?」と聞かれるけれど、 いつも答えに窮してしまいひとまず代表作って言われてる 「アラビアの夜の種族」とショートショート「gift」を薦めることにはしているのだけど、 いつもイヤでもやっぱり違うんだ読むなら全部読んでみてくれといいたくなる。 「砂の王」でデビュ〓してから、「沈黙」「アビシニアン」 「アラビアの夜の種族」「サウンドトラック」「ロックンロール七部作」 とそのメロディは全て違う。 しかしその根底に流れるのは古川日出男というロックだ。 そしてその古川日出男がロックであるということに関して語られたものこそが 最新作の『ロックンロール七部作』で、 そこにはロックを巡る7つ+1つのロックな物語が流れる。 小説でもロックができるんだ――いや、小説というのはそもそもロックなんだ、 ということを実感させてくれる一冊。

旧刊

 1位:『皇国の守護者』佐藤大輔(C・NOVELSファンタジア)
 2位:『四十日と四十夜のメルヘン』(新潮社)
 3位:『ぼくらが非情の大河をくだる時』清水邦夫(新潮社)

 1位:C・NOVELSファンタジアを追っかけていた高校時代、 一応は『皇国の守護者』も手に取ってみのだけれど、 最初にどどんと出てくる漢字だらけの皇国の地図、 試しに読み進めていくとどぱどぱ出てくる軍隊用語。 こりゃあ軍隊好きじゃねえと読めないわーと放り出してしまった。 そんな放り出してしまった『皇国の守護者』も 9巻まで続いてたり平野耕太が表紙書いていたり、 こんだけ続いているんだからきっとおもろいんだろなあ、 と傍目で動向を気にしていたら、今度は漫画化するのだという。 作画の伊藤悠というマンガ家さんも知らないけれど(有名らしい)、 マンガからなら入りやすいんじゃないかと思い、 手に取ってみたらこれが大当たり。 しかしどんなに大当たりだろうと、 月刊誌に連載されてるマンガが そんなハイペースで出るわけもなく。 マンガ版1巻を読み終えてしまうと さすがにこれは続きが気になる気になる ――と、原作を1巻から9巻まで一気に読んでしまった。 いびつな主人公、いびつな戦争、いびつな佐藤大輔文体。 ハマればイッキだ。 原作をがしがしがしーと読み終えて、 9巻で一区切りがついたところで、 再度マンガに戻ってみて読み返してみれば、 重要な部分はちゃんと原作から拾っていて、 おおここをこう再現するのか、 すげえよ伊藤悠。と驚いてしまった。 軍隊好きは小説版から、 佐藤大輔初心者はマンガから入ると 設定がわかりやすいと思う。


 2位:何が書いてあんだかよくわからない。 保坂和志の、小説家の小説家による小説家のための小説本、 『小説の自由』を読んだ。 これがまた興奮させられる本で、知恵熱を出しつつ読んだ。 読んでしばらくの間は小説が小説と手を繋いでアタマの中を走り回ってたぐらい。 その本の中に、青木淳悟の作品、「四十日と四十夜のメルヘン」 「クレーターのほとりで」が取り上げられている。 保坂和志による「クレーターのほとりで」評はかなり的確な書評だと思うので、 まあそれはそれで別として実際に読んでもらうとして。
で。
保坂も「メタレベルの欠如」と述べているのだけれど、 本書『四十日と四十夜のメルヘン』に収録されている 2作品は何が書いてあるのかよくわからない。 別に難解な文章とか複雑な構成とかそういう話ではなくて、 全体を把握するのが大変困難である、 っていうか把握させないようにしてある。 でもいったいこの小説のどの部分がどう、という指摘は私にはできなくて、 いやなんかよくわからんけどあやふやなんだよこの本いやよくわからんけど、 としか言いようがない。 それでも読み終えて再読までしてしまったのは 当時、同時並行で保坂和志の『小説の自由』を読んでいたからだと思うわけで、 この2冊を同時並行で読んでいたのは微妙に偶然は偶然なのだけれど、 小説はどうやって小説たらんとしているのか、を 考えて考えて考え続けながら書かれている『小説の自由』を読みながら 「四十日と四十夜のメルヘン」「クレーターのほとりで」 を併読できた自分は幸せだな、と思うのだ。


 3位: これはタイトルのみで入選。
なんなんだろう、この無駄なかっこいいセンス。 清水邦夫のこのセンスは明らかにおかしい。 清水邦夫というのは大変有名な戯曲家らしい。 私はつい最近まで清水邦夫を読んだことがなかった、 というか名前すら知らなかった。 知らなかったし読んだこともないのだけれど、 タイトル見ただけで尋常じゃないのはわかる。 なんだこの格好良さは。 他にもいくつか挙げてみる。

「ぼくらが非情の大河をくだる時」
「泣かないのか?泣かないのか一九七三年のために?」
「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」
「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」
「救いの猫ロリータはいま……」


どうだ。 どうだ、この力強さは。 そりゃあ若き日のフルカワヒデオ少年が ずががーんとやられてしまったのもわかる。 ずががーん。 いったいなんなんだ。 なんなんだ、清水邦夫は。 そう言いたくなる。 そして戯曲「ぼくらが非情の大河を下るとき」を読み終えて思う。 なんなんだ、これは。 なんなんだ、清水邦夫は。


(2005年04月15日更新)
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2005年後期(2005/10/15〜2006/04/14)

新刊

 1位:『現代SF1500冊 回天編』大森望(太田出版)
 2位:『特盛!翻訳講座』大森望(研究社)
 3位:『心中への招待状』小林恭二(文春新書)
 4位:『ロックンロール七部作』古川日出男(集英社)

今後こういうことはありえなさそうなので、大森望の単著によるワンツーフィニッシュ。
――ということではなく、純粋におもしろかったため。

 1位:冬の時代を乗り切り、春を謳歌するSF、その時評もやっぱり春で、 興奮している大森望の筆致はこちらも一緒に興奮したくなるくらいノッている。 イーガンはすげーし、チャンもすげー、池上はすげーわ、古川もすげーわ、 日本もぜんぜん負けてないぜすげーすげー。 ここまで書かれてたら読まなきゃならん的な本ばかり。

 2位:そんなSFの冬も春も夏も秋もずっと翻訳を続けてきた同著者による翻訳講座。 講座といってもそこはそれ、著者は大森望だから軽い軽い。 軽いけれどなんだか役に立ちそうな気もして、まあでも実際役に立つ/立たないは関係なく、 なにはともあれ楽しい楽しい。 この本を紹介する際はきっと皆が皆、とりあえず見所はここ、と紹介したくなるのが ベッドシーンの翻訳について語られる「恋人も濡れる街角」という章のあたり。 この部分だけでも立ち読みしてみて、おもしろければ、買い。 もっともっと大森望のこういうエッセイを読みたいものだけれど、 どこかで連載してくれないものか。
それにしても。
『翻訳講座』は89年に連載が開始されて95年に終わったもの、
で、
『現代SF1500冊』に関しては「乱闘篇」が20年分の時評、
そして「回天篇」が10年分の時評をまとめたもの。
と、こんなふうに1,2年でこれだけ単著を出しちゃったってことは あと10年ぐらいは大森望の単著を拝めないってことなんじゃろか。 一時期、身体を壊されていたとのことなので、身体に気を遣いつつ、がしがし書いて、 げしげし本を出していただきたいな、と思う。

 3位:小林恭二久々の新刊、は「心中」をテーマに据えたもの。 集英社新書で出た『悪への挑戦状』後書きに、 次は心中ものの新書を、という感じのことが書いてあったものの、 しばらく待っても出る気配をみせず、 そのウチ、現代心中小説の傑作である『宇多川心中』が上梓されて おおこれと前後して新書も出るのか、と思っていたらぜんぜん出ず、 忘れていた頃に本作が。 古典芸能に対しての解釈書的なものを読んだことがないため、 そういうものとの比較はまったくできないのだけれど、 読んでいてすとんと納得できて、初心者にも読みやすく、惹きこむ一冊。 歌舞伎「三人吉三」を題材に江戸の街を紹介する『悪への招待状』 現代短歌の界隈で活躍する人々による歌合せをプロデュースした『短歌パラダイス』、 等々、小林恭二の新書はハズレが一切ないので、どれもこれもオススメ。 見つけたら、即、買い。

 4位:古川日出男の新刊。 小林恭二ふぃーばーは多少落ち着いたため、 多少は客観的にどれがおもしろいとオススメができるのだけれど、 古川日出男熱はいまださめやらず、いったい今期出た作品で、 『ロックンロール七部作』がおもしろいのか、『LOVE』がおもしろいのか、 「読もうと思うんだけどどう?」て聞かれても、どうだろう?としか答えられない。 感覚的にロックンロールの方が好きなので、こちらを挙げることに。 古川日出男は毎回毎回文体を変えてくるのだけど、 小説の芯の部分には(そして変えている文体自体にも) 毎度毎度ながらの古川日出男的なものが流れていて、 それを一個で表すならばそれはたぶん「ロックンロール」なんだと思う。 “ハイカルチャーでもなければ大衆でもない” “周りを全部巻き込んでいく速度の内部に身を委ねて、速度そのもので生を貫こうとしたということ” それが古川日出男によるロックンロールとは何か、の定義であり、 それこそが古川日出男作品の根底に通じる何か、なんじゃないかな、と思う。 純然たる混沌から汲み取る、その行為。そこにはハイカルチャーでもあり 大衆文化でもありポップカルチャーでもある、何か、が存在するんじゃないだろうか。


旧刊

 1位:『ミステリ百科事典』間羊太郎(文春文庫)
 2位:『正しい保健体育』みうらじゅん(理論社)
 3位:「終わりのクロニクル」シリーズ(全7巻) 川上稔(電撃文庫)
 3位:「戯言」シリーズ(全6巻) 西尾維新(講談社ノベルス)

 1位:復刊なのでちょっとずるいけどこれだけは。ということで。 式貴士、蘭光生、小早川博、ウラヌス星風、数々のPNを使って縦横無尽に活躍した作家、 その中の1つのPNである間洋太郎名義で出された『ミステリ百科事典』がついに復刊。 名著名著。 以前、社会思想文庫から出版されていたものからさらにヴァージョンアップしての復刊。 古今東西のミステリのトリックを分類し引用し解説する、まさにミステリの百科事典。 がんがんネタバレされていくにもかかわらず、そんなことはまったく気にならない。 ミステリを普段読まないヒトも楽しめる、ていうかもはやこれ1冊あれば ミステリ語っちゃってもいいんじゃないの、ぐらいな楽しい楽しい百科事典。 こんなに楽しい百科事典はなかなかないんじゃなかろうか。 1家に1冊必要な名著。 式貴士研究サイト「虹星人」 http://www008.upp.so-net.ne.jp/siki/ の管理人五所光太郎さんによる、 「文春文庫版『ミステリ百科事典』を読み解く」 http://blog.so-net.ne.jp/hazama/ も一緒にどうぞ。


 2位:みうらじゅんセンセイによる正しい保健体育。 センセイがみうらじゅんであることからわかるとおり、基本的には男子版。 ただし女子の方々にも「男子はこんなことを考えているのか」とわかっていただけると思います。 年齢問わず男女ともに推奨。


 3位: 新刊なのか旧刊なのかよくわからないけれど、 過剰さでは右に出るライトノベルがない2つのシリーズが終わったので記念に。 前者は、川上稔ならではの世界設定、クセのある文体、一癖も二癖もあるキャラクタ、 そして熱さが詰まった全7巻ノライトノベル。最終巻の7巻では1091ページという ライトノベル史上最厚の数字を叩き出す過剰っぷり。全部揃えると本棚が1列埋まりそう。
後者は西尾維新により命名された「戯言」と呼ばれる饒舌文体によるライトノベル。 主人公の青臭さっぷりがその饒舌によって疾走する全6巻。 もしこれから読む、という方はノンストップで読むのが吉。


(2006年04月15日更新)
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2006年前期(2006/04/15〜2006/10/14)

新刊

 1位:佐藤亜紀『小説のストラテジー』(青土社)
 2位:保坂和志『小説の誕生』(新潮社)
 3位:若島正『殺しの時間』(バジリコ)

 1位から3位まで全てノンフィクション。小説に関する本。 なのでちょっとまとめて感想を書いてしまうことにする。 一応説明をしておくと、 佐藤亜紀のは佐藤亜紀的小説論を大学でやったものの講義録、 保坂和志のは『小説の自由』という保坂和志的小説論の続編、 若島正のは海外ミステリの紹介集、 である。
万年金欠な現在、独り身な社会人のクセにけっこういろいろな本を 図書館で借りてきてしまう不義理をしているのだけれど、 このあたりはもう有無を言わさず本屋で購入。 図書館で借りてきて、再読したくなるぐらいおもしろい本、 というのはもちろん購入しているのだけれど、 佐藤亜紀、保坂和志、若島正の本なんて 一読しなくてもどうせおもしろいに決まっているのだし、 そもそも、貸し出し最長期間の2週間で読みきれる自信がない。 ということで、新刊のベスト3には入れてあるけれど、案の定まだ読み終わっていない。 最初はウワキして佐藤亜紀→保坂和志→佐藤亜紀なんて読み方をしてみたものの、 当たり前だけどアタマの切り替えがぜんぜんできずひとまずは佐藤亜紀に専念中。 いつになったら読み終わるんだか。 こういう本を読み始めると、消費時間がすげえかかるので、 ものすごくお得した気分になるのは自分だけだろうか。 お得です。


旧刊

 1位:梅田望夫『Web進化論』(ちくま新書)
 2位:宮沢章夫『演劇は道具だ!』(理論社)
 3位:村上春樹『意味がなければスウィングはない』(文藝春秋)


 1位:読んじゃったからにはこれは外せない感じなベストセラー『Web進化論』。 インターネットに詳しくないおとうさんおかあさんにもわかりやすく書かれている新書、これぞ新書。 インターネット初心者おとうさんレベルな自分にもわかりやすく、おおーgoogleってすごいんだなあ、 インターネットとオープンソースとチープ革命と、技術革新によっていろいろ変革が起きているのかあ、と思わせてくれる。
――思わせてくれるが、いやでもしかしちょっと待て。「googleってすごいんだ」だけで済ませて良いのか。 梅田説はあまりにも一面のみを語ってはいないのか。試しにブログではどんな異見があるんだろうと探して読んで ああなるほどそういう異見もと納得しつついやでもしかしちょっと待てと自分で考えて。いやまさしくこれぞ新書。

 2位:演劇。演劇ってなんだろう。なんとなく観るには難しそうで、 なんとなく演るには恥ずかしそう、それが自分の演劇のイメージだ。 別に演劇だって前衛的なものばかりじゃないのだから 最初はエンターテインメントに徹しているものを 観てみたらおもしろいんじゃねえかなあということで 実際に観てみたらああおもしれえなあと思わせれたのだから、 きっと自分で演ってみたらそれはそれでおもしろいんだろうなあ、 ――とこんな文章から本書『演劇は道具だ!』の感想には実は繋げられなくて。 本書は「演劇」に関することが書かれているのではなく、 演劇をやっている宮沢章夫というヒトが、演劇を道具として、「何か」を考えて、 考えて、考えて、たまに休んで、考えて、ずっとずっと問い続けていることを 平易な言葉で平易に書いた難しい本、なんだ。 あまりにわかりやすく書かれているからわかったような気がしてくるのに あとで考え直すとやっぱりわかっていない自分を発見できる、そんな本。


 3位:これはちょっとずるっこで、『意味がなければスウィングはない』が3位というよりは 本書のスガシカオ論が3位、という感じであるのだけれど。 ヒトに言うのはちょっと恥ずかしいけれど村上春樹が好きで、 ヒトに言うのは憚られるけれどスガシカオが好きで、 自分が好きなヒトが、やっぱり自分が好きな他のヒトのことを言及している、 てのはなんか嬉しい。 自分は音楽を聴く際、歌詞はメロディの一部として聴いている節があるので、 歌詞の内容はほとんど素通りしていたりする。 そのため、日本語詞でも英語詞でも関係なく素通りしてしまうのだけれど、 なんとなくこれはいいなあと思うものはやっぱり耳に残るようで、 何度となく聴くような曲はなんとなく歌詞も覚えていて、 後々になってからふと口ずさんだ時に、 ああこの歌はこういう内容だったのか、と驚いたりする。 そんな自分がたまに口ずさんでしまう曲、 の中にスガシカオの曲がけっこうあって、 それが「月とナイフ」だったり「ぬれた靴」だったり「黄金の月」だったりする。 うーん曲がいいのか歌詞がいいのかいったい何に惹かれるのかわからんなあ、 でもなんかこう惹かれてしまうんだよなあ、 やっぱり音楽に対しての感想の言語化って難しいのかなあ、 と毎度思っていたら村上春樹が見事にそれをやっていて、 ああやっぱこのヒトはすげえなあと思わされてしまったのだった。



(2006年10月15日更新)
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2006年後期(2006/10/15〜2007/04/14)

新刊

 1位:有川浩『クジラの彼』(角川書店)
 2位:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)
 3位:西尾維新『化物語 (上・下)』(講談社)
 4位:飛浩隆『ラギッド・ガール 廃園の天使II』(早川書房)

 1位: 有川浩の作品を読むたんびに、 ああこのヒトが恋愛もの書いたらひどいことになるんだろうなあ、と思っていたら 国防恋愛小説短編集『クジラの彼』なんてものが出版されちゃって、 読んでみたらああやっぱりって感じにひどいことに。 メッチャらぶらぶ。 そしてベタ甘。 このおもはゆい感じのベタ甘さは確かに小説媒体でしか味わえなくって、 このおもはゆさをここまでベタ甘な感じに書けちゃうヒトも、 ヒトとしてあんまいないんじゃなかろかなと思う。 そもそもこんなのを出させてくれる出版社ってあるのかどうか。 文庫版のライトノベルはもっとキャラとストーリーの制約がありそうだし、 一般恋愛小説はもっと精神年齢が上の層(性的な意味で)に向けて書かないといけなさそうだし、 この1作が出ただけでライトノベルと普通小説とのボーダーレス化が進んだ意義はある。 と思う、個人的に。 ただまあホントウになんかこう読書少年やら読書少女やら向けのベタ甘さなので、 自分には免疫力あるだいじょうぶだいじょうぶよっしゃばっちこーいって感じな方にしかオススメできません。 恋愛小説かーちょっと読んでみよー、というような気楽な感じで手を出すと恥ずかしい目に遭いますたぶん。

 2位: 各界で話題になり、評判も高く、絶賛されまくっていて、 ああきっとおもしろいんだろうなあと思いながら 読んでみたら案の定おもしろかった、 京大/ラブコメ/マジックリアリズム/小説。 キョウトの街中を満艦飾のバスが走り回ったり 古本市ではガマン大会が執り行われたり 学園祭ではコタツが疾走したりする、 そんなキミョウキテレツなキョウトを舞台に、 ちょっと不思議な黒髪の乙女と、 ひたすら彼女を想い続ける先輩、 とのラブコメ。 ああこういう大学生活を送ってみたかったなあと思うかどうかは読むヒト次第ですが、 ちょっとだけ思いました自分。

 3位: ああこのヒトがキャラクタ小説に突っ走ったら ひどいことになるんだろうなあと思っていたら やっぱりひどいことになってしまった西尾維新作品、 (いまんところ)単発ものの上下巻。 まあ「戯言」シリーズもキャラクタ小説ではあったけれど、 一応シリーズ名に冠されているとおり 「戯言」がメインだったので戯言な作品でしたが、 本作はキャラクタがメインな作品。 まあいつもどおりの西尾維新ワールドが展開されるので、 西尾維新が好きなヒトにはいいけれど、 好きじゃないヒトはたぶんつらく、 とりあえず西尾維新初心者が読む作品ではない気がする。 ちなみに自分はメインヒロインが好きです。怖いけど。

 4位: やべえ忘れてた2006年度国内SF1位。 ということでなんか追加で書いてたためここに入れちゃったけれど実質1位。 つうか1位以上。 自分内国内SFランキングとかやったらオールタイムベストに入る作品。 一応、副題が「廃園の天使 II」なので、 未読な方はシリーズ1作目『グラン・ヴァカンス』からぜひぜひ。 【AI】たちが永遠の夏を過ごす仮想リゾート【夏の区界】。 ゲストとして訪問していた【人間】たちが来なくなってから1000年。 同じ夏の一日を繰り返していた【AI】たちに、 突如謎のプログラム【蜘蛛】の大群が襲い掛かる わずかに生き残ったAIたちの絶望にみちた一夜の攻防戦がはじまる―― という「廃園の天使」1作目では、 仮想リゾート【夏の区界】が出来た理由、 【人間】たちが来なくなった【大途絶】など原因、 などの背景はほとんど語られず、 【AI】対【蜘蛛】の物語のみが静かに静かに残酷に語られて。 うわーキレイにエグいよこの作品ー、と自分はイヤがっていたのだけれど、 2作目『ラギッド・ガール』では一転して、 1作目の舞台背景である仮想リゾート成立秘話が明かされる。 いやいや出るわ出るわ『グラン・ヴァカンス』の舞台裏。 こんな緻密に設定していたのかよ、 ていうかアタマがパンクしてついていけなくなっちゃうよと思いつつ、 ぐいぐいと惹き込まれてしまうのはただ単に設定を詳らかにしていくだけではなく、 設定を明かしていく過程の中での、 現実世界/仮想世界の物語がこれまたおもしろいからだ。 短編になっている分『グラン・ヴァカンス』よりもシャープかもしれない。 否が応にも期待が高まる3作目。 飛浩隆は我々の期待を裏切りつつ、 またもや斜め上にいく作品を出してくれるに違いない。

旧刊

 1位:菊地成孔+大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー東大ジャズ講義録 歴史編』(メディア総合研究所)
 2位:菊地成孔+大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー東大ジャズ講義録 キーワード編』(メディア総合研究所)
 3位:花田一三六『戦塵外史(2) 八の弓、死鳥の矢』(GA文庫)

 1位と2位:菊地成孔を知らないヒトはぜんぜん知らないと思うので、 ていうか2年ぐらい前までは自分もさっぱりだったので、ちっとだけ紹介。 音楽家にして文筆家にして音楽講師にしてヘンタイ。 サックスを吹いていたかと思えば歌い始めて、 音楽エッセイを書いていたかたと思えば作詞作曲をしたりもして しかも音楽講座の講義までしちゃう、ヘンタイ。 きっともっと他の肩書きもあるんだろうけれど 自分はあんま詳しく知らない。 世間的に知られている有名どころだと たぶん「『大停電の夜に』のサウンドトラックを作ったヒト」 あたりの紹介が無難で、 こんなサイトを見ている方には「菊地秀行の弟」 という方がとおりが良いかもしれない。 まあそんなこんなでそんなヘンタイさんが東大に特別講師と招かれ、 前期/後期で行った授業の講義録。 前期が歴史篇、後期がキーワード篇、と分かれてる。 うーんJAZZってなんかあんま聴いたことねえけど どんなもんかいなあと思っていらっしゃる方は この本を片手に、紹介されているCDを買うなり借りるなりして読み進めると たぶんきっと良いと思う自分はやっていないけれど。 自分はちびちびと思い出したときに、 この本にのっていたCDを聴いてみたりしています愉しい。 ひとまずなんとなくJAZZに興味があったら 読んでみてらおもしろいと思うス。

 3位: ちょっとズルっこ。 というのは、本書が十年近く前に出た作品の復刊/文庫化であって、 その元々の作品を自分は読んでいるからで、 本来、ここの半期旧刊ベストに入れるのは 「その期間に読んだ/その期間以前に出た作品で/未読だったもの」 を対象にするからだ。 まあ新作短編が1作だけ入っているから新規扱いということで。 今でこそライトノベルをたまに読んではいるものの、 高校の半ばまではライトノベルを意識して読んだことがなく (「銀英伝」などのボーダー的なものはいくつか読んでいたけれど) なんとなくライトノベルを読んでいる友人に借りて 初めてこれはライトノベルだと意識して読んだのが 国産時間SFの名作高畑京一郎『タイム・リープ』で、 初めてこれはライトノベルだと意識して 自分で見つけて読んでみたのが本書『八の弓、死鳥の矢』。 タイトルも知らず、作者も知らず、もちろんレーベルも知らず、 「あ、これは『タイム・リープ』と同じ版型だからきっとライトノベルだろなあ」と思い、 ふと手にとって読んでみたら、おおなんだこりゃおもしれえじゃねえか。 (ちなみに同時期にやっぱり同じ版型だからと思って手に取ったのが 冲方丁初期の傑作『バイバイ、アース』だったりするおおなんだこりゃおもしれえじゃねえか)。 本書に関して、田中芳樹だ隆慶一郎だ司馬遼太郎だパクリだパクリだ と言われてしまうのは仕方ないし、 本人も前述の作家たちの影響を受けているのは認めている。 ただこの架空歴史小説をライトノベルレーベルから 出したのは角川の英断だったと思うし、 このシリーズが3冊で止まってしまったのは 残念だという他ない。 GA文庫は売り上げ次第で、 「戦塵外史」シリーズの新刊が出るということなので、 ぜひとも買って読んでほしい。 ぶっちゃけ買うだけでもいい。


(2007年04月15日更新)
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