Ethan Canin

『宮殿泥棒』イーサン・ケイニン/柴田元幸・訳(文春文庫)

 前にもどっかに書いたような記憶があるのだけれども、ここの感想には短編集の感想ってのがほとんどない。その理由のひとつは、短編集の感想を書こうとするならばやはり収録されている短編各々の感想を書かないといけない気がして、でも感想書くならある程度の量を書きたい気もするし、でもいつもの長さの感想書こうとすると作品の数多いと大変なことになっちゃうし、と結局書かずじまいで終わってしまう。それともうひとつの理由は。
 これもどっかに書いたことがあるような記憶がするんだけど、短編そのものが苦手なのである。それがどうしてなのかは自分ではよくわからないものの、作品世界に長時間浸っていられないっていうのが理由のひとつなんじゃないかなと最近ちょっと思ったんだけど、まあそういう理由とかはさておき私には短編に対する苦手意識があるし、実際短編は苦手だ。

 そんな伏線に全然なっていないような伏線を張りつつ、本書『宮殿泥棒』は言うなれば中編集とでもいうべき作品集である。いや、短編と中編の線引きってのは知らないのだけど。まあ多分このくらいの作品のことを言うのだろう。
 んで、表題作を含め4作品が収録されていてどれもこれもが良作なのだけれども、ここではひとまず一番最初に載っている「会計士」についての感想に絞ろうと思う。ちなみに好きなのは「会計士」と「宮殿泥棒」。あ、いや、でも「バートルシャーグとセレレム」「傷心の街」も捨てがたいのだけど。ってそれ全部じゃんという話になるのでひとつに絞る。

 本書に収録されている作品の共通点は、「息も詰まる」っていう形容が似合う雰囲気を持ち合わせている点だと思う。別に息も詰まるほどのハラハラドキドキのサスペンスが待っているわけではなく、「会計士」の主人公はそのまま会計士であって、別に普段はしがない会計士が時計をもった兎の後を追いかけていって木の洞に落ちたらその後に待ち受ける大冒険、とかが待っているわけでもなく、恙無く、順調に人生を送ってきた会計士のお話である。

 それまでの人生を順風満帆とまでは言わぬまでも、いい学校を出て会計士の資格をとって、結婚して子どももできて、順調にやってきた一人の男が出会う、ちょっとした出来事。それは傍から見たらたいしたことはないことなのかもしれないけれど、本人にとってはちょっとしたことで。きっと時が経って振り返ってみれば、あの時の自分は若かったなと思うだろうけれどその時の自分は少し誇らしい気持ちで振り返っているだろう、という感じの出来事。
 その描写は、「息を呑む」ではなくて、何気なく読んでいたつもりだったのに、気が付いたら本を読んでいる間、自分が息をしていなかったんじゃないかと思うくらい、いつのまにか「息も詰まる」状態になっていたりする。

 確かに地味な作品だとは思う。しかし、この「息も詰まる」感覚が味わえる作品ってのが一体どれだけあるだろう。そして、今後の人生において、あと十年先、二十年先にもう一度読んだらその時自分はどう思うのだろう、とふと思わせてしまう作品はいったいどのくらいあるんだろう。

 オススメしてくださった西山たちさんに感謝。ありがとうございました。

(2003年11日10日更新)

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