Andreas Eschbach


『イエスのビデオ (上・下)』アンドレアス・エシュバッハ(ハヤカワ文庫)

 Das Jisus Video.

 イスラエルの遺跡で発掘されたのは、不可解な遺物だった。2000年前の地層にあったのは現代医学の治療跡がある一体の人骨と。そして、その死者の胸に抱かれていたのは、今から「数年後」に発売される予定のDVDカメラの取扱説明書。
 調査隊は考える。もしも。もしも時間旅行者がいたとしたら。時間旅行者が2000年前のイスラエルに行ったとしたら。そのカメラには一体何が写されているだろう。一体何を写すのだろうか。もちろん、それは――。
 ――そう、そのカメラこそが重要だ。カメラは何処に。一体何処に。

 SF的なアイデアとスリリングなアクションとをミックスし、ノンストップジェットコースター小説の王道に仕上げた作品。「〈イエスのビデオ〉という魅力的なアイデアを一体どこに持っていくのか」という物語全体を通す謎も良い思いつきだが、上下巻という大長編にもかかわらず中盤もずっと読者を飽きさせない一章ごとの引きは何ともお見事。ドイツのエンターテインメント小説界でベストセラー作家だというのも頷ける。

 ――というのはさておき、本書の見所はSF作家が出てくるところだ。取扱説明書が発見され、こりゃ大変じゃと考古学の教授はスポンサーであるアメリカのメディア王を呼ぶのだが、その時ブレインとして呼び出されるのがドイツのSF作家。「考古学上でわけのわからないものがでてきた」→「サイエンス・フィクションを書いているのだからその想像力を活用して欲しい」――って、なんじゃそりゃって感じの理由で呼び出されたSF作家。ミステリ作家が現実に起きた不可解な殺人事件を解けるかって言ったらそんな簡単に物事が進むわけもないように、売れっ子のSF作家といえど、現実にトンデモを目の前に突きつけられてものすごいアイデアが出てくるわけでなし、やっぱりあまり役に立たない。でも出てきたからには何かすごいトリッキーなアイデアを出してくれるに違いないと思って読み進め、おおじゃあここで何かトリッキーなアイデアを出してくれるのかと思うところに当たってもそんなに活躍するわけでもなく、あっじゃあここかと思うところでもやっぱり役に立ってくれない、その役に立たなささ加減が何ともおもしろい。

 しかしまあ、そんなSF作家も本書のストーリー上で必要な人物であるのも確かなわけで、キャラクターを活用させつつエンターテイメントさせているエシュバッハはエライ。スゴイ。エシュバッハ、ガンバレ。もっとガンバレ。

(2004年5月30日更新)

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