Robert L. Forward

『竜の卵』ロバート・L・フォワード(ハヤカワ文庫)

 SFって、ワンアイデアな作品でも、てんこもりな作品でも粗筋を書くのがすごく難しい。
 
 何故かっていうと、てんこもりな作品だと、ストーリーを要約するだけでも原稿用紙何枚分にもなっちゃってもはや粗筋ではないものになってしまうし、ワンアイデア作品はいったいこれはどんな作品なんだろう――おおこんな作品だったのかという驚きがやっぱり楽しいんであってそれを前から知っているのは楽しさ半減とまでは言わないまでもやはり多少は楽しさが減ってしまう気がするんである。

 そういうわけで、本書『竜の卵』は○○○○○○○○○○ものであって、けっこう序盤でそういう作品であることは何となくわかるのだけれども、やっぱり読む前にはそんなことは知らない方がいい気がする。そもそもフツウの○○○○○○○○○○ものじゃないし。

 さて、ちょっと読んだらわかっちゃう部分だけピックアップ。
 本書はハードSFなので、タイトルである「竜の卵」ってのは別にファンタジー的な語義通りの意味ではない。それは竜座のシッポのあたりに発見された星の通称である。あたかも竜座の竜が卵を産んでいるかのような位置にある星。解析していく内にそれが何と中性子星であることがわかる。

 いやまあ、「それが何と中性子星であることがわかる」って言われても、そもそも中性子星が何なのかわかんないヒトにはわかんないと思うっていうか私には全然わかんなかったのだけど、これがまたトンデモナイ星なのだ。

 中性子星。

 それは何と、

 >木星の五百倍以上の質量、
 > 20キロメートルの直径、
 > 0.2秒で一回転し、
 > 重力670億G、
 > 鉄の原子核の大気をもつ
 > 地表温度8000度の

 ――星なのである。そう、これがまさに本書に出てくる「竜の卵」という中性子星の姿だ。0.2秒で1回転する重力670億Gの星!! その時点でいったいそれがどんな星なのか想像もできないのに、ロバート・L・フォワードはそこに生命を誕生させる。えええっ、そもそもそんな過酷な状況で生命って生まれちゃうのっ、って驚いてしまうのだけれど、それを何と可能にさせちゃうのだ。そして誕生した生命たちは時を経て進化し、知性をもつようになり――と中性子星という我々には想像もでいないような星で、我々には想像もできないような生物を、ロバート・L・フォワードは生み出してそして進化させていく。この中性子星で生まれた知的生物が進化していくのを共に辿っていくと、中性子星の異常さが読者にもわかるようになる。

 ――そして、そこが本書のすごいところなのだ。科学的に緻密に考証されたアイデアの作品ってのはSFには(玉石あわせて)たくさんあるし、奔放な想像力によって過酷な状況下での知的生物の誕生と進化を追っていくSFってのも(玉石あわせて)結構ある。しかしロバート・L・フォワードは、科学的に考証されたアイデアと奔放な想像力とによって、読者の脳裏に中性子星とそこに誕生した知的生物とを描かせてしまう。そんな、行ったことも見たこともないっていうかそもそも想像することさえ難しい星を、読者の脳裏に描き切り、その上そこに誕生する知的生物たちの進化をも思い浮かばせてしまう。

 見事に〈竜の卵〉を創り出してみせたロバート・L・フォワードの、そのお手並みには手放しの拍手と、そして心からの賛嘆を。お見事、お見事。オススメです。

(2004年02月16日更新)

離れ茶房<書斎>へ