引間徹
| 『19分25秒』引間徹(集英社) |
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> 世界が滅亡したってかまうもんか。19分25秒で歩くんだ――。 「僕」はこれといった理由もなくひとりになりたくなって、外に出た。そいつと会った。足音も立てず、上体もぶれず、レールの上をすべるみたいに一直線に迫ってくるそいつに。腕が力強く前後に振られ、腰は左右にねじりこんでするどく前へくり出されていた。カーボンファイバーみたいな義足をつけたそいつは、そのまま一直線に僕の前を歩き去っていった。第17回すばる文学賞受賞作。 ターミネーターのようにただひたすら歩く「男」と、その歩く姿と競歩に徐々に惹かれていく「僕」、そして、「男」の妹である「彼女」。三人を軸に物語は進んでいく。競歩のお話だし、物語が歩んでいくと言った方がいいか。 最近、友人の木馬さんにつられて青春小説の巨匠、川上健一『ララのいた夏』(集英社文庫)を読んでから、何だか気になって、スポーツ青春小説を読んでしまっている。これもその一冊。 と思いながら読んだのだが、これはスポーツ青春小説、ではない。では、どのような小説なのか、と訊かれたら黙って本書を差し出すしかないのだけれども。 「競歩」と聞くとどうしても、お尻が左右に物凄い速さで動く、ちょっと笑えてしまう競技、というイメージがある。しかし、本書を読んで、そんなイメージは忽ち崩れてしまった。いやあ、格好良いですよ、競歩。「僕」が頑張って練習する場面、「男」が歩き続ける場面を読むと、孤独なスポーツ、自分に打ち克つためのスポーツ、というか、人間の生き方はこれしかないっ、と思うようなイメージになること間違いなし。ちょっと言い過ぎか。 しかし、誰に媚びへつらうこともなく、自分のためだけにただひたすら歩き続ける「男」、は読んでいてとても羨ましかった。 そして、「彼女」がまたかわいいんだ、これが。何と言うか、青春しているね、君たち、というか、若い内は悩むだけ悩めばよいさ、とかおじさん的コメントがしたくなる。いやあ、青春だね。若いっていいね。おお、そうえいば本書は青春小説ではないか。 ちなみに、ラストの場面では、少々胸が震えてしまった。何故、この場面に自分はいなかったのか、と。この作品を読んで、それが少々残念だった。いや、ホント。 > 「僕らの歩きは反逆なのだ。」
(2002年9月1日更新)
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