保坂和志
| 『プレーンソング』保坂和志(中公文庫) |
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> 一緒に住もうと思っていた女の子がいたから、仕事でふらりと出掛けていった > 西武池袋線の中村橋という駅の前にあった不動産屋で見つけた2LDKの部屋 > を借りることにしたのだけれど、引越しをするより先にふられてしまったので、 > その部屋に一人で住むことになった。 保坂和志の本が気になって。ふらりと寄った本屋で見つけて手に取って。立ち読みしてから買うかどうするかを決めようとして。最初のパラグラフを読まされて。その時点で、それらの時点で。保坂にやられた。保坂和志にしてやられてしまった。 ある時代の――時代はぼかしながら書いているけれど、それはほぼ特定された――ある特定の時代における、その空気の中で生きている若いヒトたちの、若いヒト特有の、物語性のない物語。生活臭はまったくない、でも、その空気はヒシヒシと感じられる空気を書いた小説だ。ここに書かれたその空気はその時代のみが持ちえたものだったその空気、そしてその時代のみが持ちえた空気を保坂というフィルタを通して書かれるその空気は、やはり保坂のみが持ちえるもので保坂以外にはたぶん書きえない。 そしてそれはまた、その時代の空気とともに、モラトリアムを生きる若者たちがどの時代でも共有しているある種の特有な空気なのだろうと思う。学生時代というひとつの区切りを終えたものの、オトナにはなりきれないような年頃がもつ特有の。その空気。 まあ本書を解きほぐすのは四方田犬彦の文庫解説にお任せしよう。やはり文庫解説というのはこういうものでなくてはねと思わせる良質な解説だ。単行本ではなくて中公文庫版で読むのをオススメする。 書評子ではない、いち本読みの感想としてはやっぱり「楽しかった」の一言で十分なんだろう。読んでいる間、ずっと楽しかった。読み終わった後も、すごく楽しい一日を過ごした後黄昏時に心地良い疲れと共にやってくる、ああ楽しかったなあというあの気分、あの余韻。海やプールではしゃいだ帰りの、バカみたいにとびまわってふざけてはしゃいでさわいだ後にくる、ちょっと気だるくてでもその疲れがちょうどいい微睡を呼び起こす、そんな楽しさの余韻が残った。 ああ――。
(2005年3月27日更新)
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