石田衣良
| 『池袋ウエストゲートパーク』石田衣良(文春文庫) |
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渋谷系『インディヴィジュアル・プロジェクション』(阿部和重/新潮文庫)を読んだからには、池袋系も読まないといけなかろう。ということで、池袋系の筆頭である本書『池袋ウエストゲートパーク』を読んだ。タイトルからして池袋系の先鋭、という感じがする。キッチュでポップ。いや、キッチュの意味もポップの意味も全然わかっていないのだけれども。 誰がどうタイトルを読み間違えても多分わかるとおり、本作品の舞台は池袋である。また同時に池袋が主人公と言える。語り手は池袋の繁華街の片隅にある果物屋の「マコト」。 粗筋を言うのはとても難しい。この小説はハードボイルドだ。青春小説だ。クライムノヴェルだ。とても青臭くて、とても若々しい。そして、読後感はとても爽快なのだ。しかし、粗筋を読んでもそこからは中々それらは匂ってこないだろう。 何故か、というと私自身が敬遠していたからだ。ドラマ化したらしい、池袋の若者を巡る話らしい、売春、ヤクの売買、機械オタク、若者たちの風俗について書かれたものらしい……。そんなものは特に読みたいとは思わない。思わなかった。しかし、これが面白いのだ。 はっきり言って、ハードボイルドではガチガチのハードボイルドだけが好きで、深いストーリーや人物描写、文章に何かしら含蓄があることがはっきりわかるようなものがお好きな方にはお薦めしない。それはもう、主人公が少し斜に構えていて、でもいざとなると頼り甲斐があって、楽しい愉快で妙な仲間がいて、スリルがありドキドキしながら読むと、読後感は爽快でありつつ、しかしどこか少し物悲しいところがある、軽い筆致の小説、が好きな方にはお薦めである。まあ、そういうのが好きかもしれんなあ、と思ったらひとまず読んでみて頂いて損はない。だって、面白いのだから。 「軟派なハードボイルド」が好きな方にはそれはもう、一押しである。 「それもこれも、やはりマコトの性格描写がしっかりしているからだろう。若いのに、ハードボイルド・ヒーローがもつべき老成した時代観察者の視線で現代を射抜いている。しかも精神は堅固だ。“おまえのなかには誰がどうやっても絶対に動かないなんかがある。学校も世間もうちの組が動かそうとしても無駄だろ。ときどきマコトが氷みたいに冷たいやつだなと思うときがある”とやくざのサルが言うように、冷酷に対象を凝視する視点をもっている。」(『池袋ウエストゲートパーク』解説、池上冬樹から一部抜粋) 主人公がこんなに格好良いのだ。面白いに決まっているではないか。 ところで、もう頭が悪いくらい「面白い」を連発してきたが、それは何故かと言うと、まったくもって本書が面白いからである。それ以外の感想は多分いらない。エンターテイメントである。ただただ面白がればよい。面白がって、文庫540円は安い。『少年計数機 池袋ウエストゲートパークU』も文春文庫から出ています。『池袋ウエストゲートパーク』が面白かったならば、勢いに乗ったこちらの作品も面白くないわけがない。是非是非是非。 ※ その後、木馬さんがドラマでキング役をやった窪塚が格好良い抱かれてもいいくらい格好良い、というので川嶋さんにビデオを借りて見てみた。キング格好良いッス。惚れたッス。 「GOーーーーーー!!!!!」 うおー、格好ええッス、キーング。
(2002年8月1日更新)
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| 『骨音 池袋ウエストゲートパークV』石田衣良(文藝春秋) |
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IWGPVは最高にクールだねー、マコトさーん。 実はこのサイトって続きものはなるべく書かないようにしているのだけれども、やはり良いものは良いということで感想を書いてみる。もちろん、続き物であるから、『池袋ウエストゲートパーク』『少年計数機』(ともに文春文庫)のネタばらしっぽいのもちょっと書いてあるので、未読の方は急いでパソコン落とせ! パソコン落として本屋へ走れ!! まあ、もうここを読む人には説明不要だと思うのだけれども、石田衣良のデビュー作にしてドラマ化もされた出世作(ムチャクチャな表現)であるIWGPの三冊目。あーいだぼーじーぴー。 IWGPの魅力は何と言っても、池袋を舞台にした人情話(という言い方をするとちょっと本書には似合わないけれども)と、その物語に出てくる個性豊かな池袋の住人たちだろう。マコト、タカシ、サルは言うに及ばず、出てくる老若男女全て魅力的な奴らばかりなのだ。今回の「西一番街テイクアウト」のヒロイン香織なんて格好良すぎるし、「キミドリの神様」の彼もむっちゃ格好良いヤツである。そういや、格好良いヤツばっかだな、この小説。 そして、やはり石田衣良は感性な作家だとつくづく思うのだ。冒頭からしてもうサイコーだし、読んでいて端々に出てくる言葉にはぐっとくるものもあるし、笑えるものもあるし、とりあえずサイコーなのだ。例えば、『少年計数機』所収の「水のなかの目」の冒頭部分からの引用だと、 水のなかで目をいっぱいに開き、世界を見あげたことがあるだろうか。 あー、もー、メンドウくさい。とりあえず何も言わずに読め。読んで笑え。読んで泣け。 ――で、まあ少しだけ各々の解題。っていうか個々の感想をちょっとずつだけ。 「骨音」 うまく言えないのだけれども、IWGPには純粋なヤツらが出てくる。語り手であるマコトからしてそうなのだけれども、一話一話に出てくる登場人物もそうなのだ。『人間計数機』(文春文庫)所収の「水のなかの目」のアツシもそうだし、本作「骨音」にも出てくるあるヤツもそうだ。純粋な人の純粋な行動は、時には純粋な悪意になる。 「西一番街テイクアウト」 ファンサービス的な作品。に読めてしまったのは私だけだろうか。でも、ファンとしてはやはりきゃーきゃー言ってしまうわけで。もうマコトもタカシもサルも格好良いのだ格好良過ぎるのだ。しかし、彼らよりももっと格好良かったヒロインの香織には、くらくらきてしまった。今回のヒロインの中で一番いかしてる。 「キミドリの神様」 実は、地域通貨というものを最近知った。そしてこの作品読んで。とても良い作品だと思うし、気持ちいい作品であると思うし。何と言っても、本作の主要登場人物の一人がとても好きだ。もう一度の出場を願う。 「西口ミッドサマー狂乱」 ということで、「骨音」と同じく、純粋なヤツの悪意が書かれた作品。その人にとってはやりたいことだし、やっておきたいことなのだけれども、社会から見たら悪意にしか見えないだろう。真実に一番近いことはマコトたちしか知らない。知らないけれども、それでいいことだってあるのだ、と思う。とりあえず、この作品は「最高にクールだねー、マコトさん」の一言に尽きる。 格好良い格好良いを連呼するだけでなんだかあまりにもあまりな感想であると自分でも思うものの、やはり格好良いものは格好良いのだから仕方ないと思う。 早く続きが読みたいような、最終話を読んでみたいような。 貸してくださったスピカさんには感謝。 感謝、感謝、感謝。
(2002年11月10日更新)
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| 『赤・黒 池袋ウエストゲートパーク外伝』石田衣良(徳間書店) |
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クライム・ノベル(ちょっと違う)。 バカラ賭博にはまり、莫大な借金を抱えてしまった映像プロデューサーの小峰は、悪友の村瀬からとある計画を持ちかけられる。その計画とは、氷高組が仕切る賭博屋【セブンライブス】の店長と共に狂言強盗をしよう、というものだった。一時は成功したかに見えたこの計画も、銃撃役の男の裏切りにより失敗に終わってしまう。しかも、裏切った男は、賭博屋【セブンライブス】の経営者である氷高組に強盗仲間の情報を全てばらして逃げたため、小峰は氷高組に捕まり莫大な借金を負うことになる。「裏切り者を探し、金も奪い返してみせる」という小峰からの提案を氷高組組長は受ける。期限は一ヶ月間のみ。小峰は池袋の街を探し回ることになるのだが――。 自分で勝手にまとめてみて何だが、正直、さほど面白くなさそうな粗筋になってしまった。石田先生に陳謝。本書は石田衣良らしいスピーディーかつテンポ良い語り口で、非常に読みやすい作品に仕上がっている。B級のエンタテインメント作品(褒め言葉)。 多分、主人公に対し感情移入(に近いもの)ができるかどうか、が石田衣良諸作品の要点なので、どれか一作でも気に入った方は読むべし、読むべし。というか『池袋ウエストゲートパーク』(文春文庫)が好きな人は読むべし。きっとあなたもサルが好きになれる。はず。 ちなみに、本書は『池袋ウエストゲートパーク』の外伝となる小説ではあるが、外伝扱いにする必要があまりない気もする。が、その一方でれっきとした外伝でもある。 というのも、タイトルからも分かる通り、「池袋ウエストゲートパーク」という小説の語り手はマコトなのだが、主人公は多分、池袋という街、そのものだからだ。マコトの視点から「池袋」の街とそこで生活する人々を見た小説が「池袋ウエストゲートパーク」なのである。 本書『赤・黒』でも池袋の街を舞台にしている。池袋という街をマコトではない、別の人物から見るとどう見えるか、というものである。そう考えると、確かに外伝扱いになるべき作品である。 ただ、やはり「外伝」と銘打つ以上、本編の主人公「マコト」ファンに対しての読者サービスが必要、と見えて、そこかしこで「マコト」の名前が出てくる。全く必然性が見受けられないのだけれども。後、準主役のキングはばっちり出てくる。やっぱ格好良いッスよ、キング。 「外伝」にしなければ「池袋ウエストゲートパーク」を読んでいない人も手にとるかもしれないが、とも思うが、まあ「外伝」と銘打った方が売れ行きはいいかもしれない。作者の本意はさて如何に。 というか、なんで本編は文藝春秋なのに外伝は徳間書店なんだろ。 まあ、いいか。 「池袋ウエストゲートパーク」本編でも出てくる主な登場人物としては、サルが出てくるッス。然程好きではなかったのだけれども、本書を読むとサルファンになること請け合い。格好良いッス、サルさん。 ただ、バクチの怖さはあまり感じられなかったけれども。 正直な話、夏休みの探偵ごっこ、という枠は越えていない。まあ、本作ではそこを越えなくていいとは思うけど(批判しているわけではなく)。 あ、でも。クライマックスのルーレット勝負、は結構ひやひやできた。 ええと。 まあ、結論としては、『赤・黒(ルージュ・ノワール)』は面白いです。『池袋ウエストゲートパーク』好きにはオススメ。
(2002年8月1日更新)
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| 『娼年』石田衣良(集英社) |
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エンターテインメント。 読書というのは非常に、体調もしくはバイオリズムと言ったものに左右される気がする。そういう意味において、石田衣良とは相性が良い。読了後、妙に心が満ち足りた感じになるのだ。相性がいいだけなのか、石田衣良が巧みなのか。 「僕」の友人がバイト先のバーに連れてきた女性。その女性に「自分のところで働かないか」と持ちかけられた。そして「僕」は、娼夫になる。 とても静かで非常に頑なな物語である。頑是無い少年が語る物語だ。石田衣良の作品は主人公はいつも繊細な「少年」である。臆病で繊細で、孤独な少年の物語。そして、その「少年」が成長していく物語だ。 その、臆病で繊細な少年の物語を語る文体は、非常に硬質でクリアだ。シャープでスタイリッシュ。そして、その文体、がその少年の物語を語る場合には非常に合っている。石田衣良の作品は、一人称の非常にテンポの良い語り口が顕著である、とよく言われる。ただ、『うつくしい子ども』で見せたように三人称からの客観的事実を述べていく際にもそのテンポの良さは変わらない。この人称のことに関しては『うつくしい子ども』文庫本解説に詳しい。そちらを参照して頂きたい。 内容に関しては終始一貫してセックスの話である。性欲の話、と言い換えたほうが妥当かもしれない。様々な女性に買われることによりリョウの女性に対する考え方が変わっていく様子がよくわかる。主人公リョウの成長小説。 ところで、石田衣良の作品に出てくるヒロインって、年上の女性が多い気がするが気のせいだろうか。いや、今回の作品では咲良がヒロインなのか静香がヒロインなのか、はわからないが。ただ、一つ確かに言えることとしては。魅力的な年上の女性を書くのが石田衣良はひどく巧い。セクシーだし、格好良いし。 ラストの終わり方は青臭いのかもしれないが、こういう終わり方は好きだ。うるさくなく、かと言って静か過ぎず、次に起こることに非常に期待させつつ幕を引く終わらせ方。喧騒を予期させる静寂さ。そういえば、これと前後して刊行された『波のうえの魔術師』(文藝春秋)もそうだった。主人公たちのその後を個々の読者に想像させつつ終わる。物語の綺麗な終わり方。 石田衣良は、次作が非常に待ち望まれる作家の一人である。コールボーイを描いた『娼夫』、スリリングな経済小説である『波のうえの魔術師』と来て、次は一体何を書いてくれるのか。良い意味で期待を裏切った作品を書いて欲しいところである。 こんなエロ本を貸して下さった川嶋さんに感謝。そういえば、類稀なるエロ本、酒見賢一の『語り手の事情』(文春文庫)も川嶋さんに頂いたのだよなあ。 「ぼくは娼夫になり、より自由になった。・・・ある人が語るストーリーが世間の常識やよい趣味からはずれていくとき、・・・それまでよりももっと耳を澄ますようになった。欲望の秘密はその人の傷ついているところや弱いところにひっそりと息づいているからだ。」 註1:川嶋さんは別にエロい人ではありません。普通にいい人です。
(2002年8月1日記ス)
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