磯田道史

『武士の家計簿』磯田道史(新潮新書)

 いわゆる「新書」と言われるモノを読む楽しみの一つは、新しい視点を見せてくれることだ。例えばそれは宇宙ってのはビッグバンでできて今でも膨張し続けている宇宙やばい超やばいていうでっかい話でもいいし、新聞や雑誌なんかに載ってるリサーチを鵜呑みにするなよなんていう身近な話でもいい。とりあえず、なるほどそうなのかそういう考え方があるんだと思えるものを読みたい。

 さて、本書『武士の家計簿』はタイトル通り、江戸時代末期から明治に生きた加賀藩の藩士による「家計簿」について書かれた本である。古本屋で見つけた「加賀藩猪山家文書」はかなり詳細な家計簿であり、それを元に当時の武士の暮らしぶりが描かれていく。「武士は食わねど高楊枝」という言葉どおり、当時の武士が本当に困窮していることがよくわかる。それまでのかなりの消費、浪費を切り詰めてもまだまだ生活は苦しい。そして本書によれば、武士の生活が苦しかったこと――それこそが江戸時代が400年続いた理由なのだそうである。へえ、なるほどなあ。

 そしてまた本書では、江戸時代に生きた武士の生活を垣間見ることだけではなく、激動の時代―-幕末を生き抜いていった武士の様子を垣間見ることができる。いったい、身分制度がなくなっていった時に武士たちはどのように家計を遣り繰りし、生き抜いていったのか。そして、作者はそれを現代の我々にフィードバックさせようとする。社会変革が起きる激動の世の中で、一体何をどう考えながら生きるべきなのか。
 本書を読んで、江戸時代の武士はこういう生活をしていたのかとまずは思うだろう。そして、困窮しながらも太平安楽な時代に大きな社会変革がきた時にヒトはどう生きるべきか――その答えのひとつを本書では提示している。いや、正確には「答え」ではない。激動の時代をどのように生きていったのか、を提示している。その生き方を見て、いったいそれをどう受け止めるのか。それは読者それぞれ違うだろう。
 でも多分、ひとまず大きな社会変革がおきているこの時代を乗り切ってみせよう。そう思うんじゃないだろうか。

 玉石混交と言うよりも石ばっかりな新書が濫発されている昨今、このレベルの新書をどしどしと出していってもらいたいと思う。良書。

(2003年10月14日更新)

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