Stanislaw Lem


『虚数』スタニスワフ・レム/沼野充義他 訳(国書刊行会)

 序文集。

 正確には序文集ではなく、序文集+αの作品集である。しかし、そもそも「序文集」とは何か。「序文集」とはその名の通り、「序文」を集めたものである。以下、紹介。

 X線によって身体を透視して撮られたセックス写真集であり、なおかつ〈死の学問〉の研究書である『ネクロビア』。バクテリアに言語を教え、その予知能力を発見したアマチュア細菌学者が綴る〈バクテリア未来学〉の研究書『エルンティク』。人間の手によらない文学作品〈ビット文学〉の研究書『ビット文学の歴史』。上記三冊の序文と、未来を予測するコンピュータを使って執筆されている〈もっとも新しい百科事典〉『ヴェストランド・エクステロペディア』の販売用パンフレット。そして、人知を超えたコンピュータ『GOLEM ]W』による人類への講義を治めた『GOLEM ]W』様々なジャンルに跨るこれら五冊の〈実在しない書物〉に関して書かれた奇天烈な作品集。

 レムを読むなら先に『ソラリスの陽のもとに』を読め、とか言われそうな気もするし、自分でも先にそちらを読むべきなのではないか、と思うのだがついついこちらに手が出てしまった。〈エロマンガの人〉にお借りした『完全なる真空』がもう、それはもう、おもしろかったのだ。これがまた。「架空の本の書評集」と言われただけで胸が躍るではないか。レムがSF作家である、ということは知らなかったのだが、そういう本がある、という話は何処かで耳にしており、探していた。そんな時、貸してもらった『完全なる真空』は見事だった。そのネタで十分1冊の本が書けるだろう、と思われるネタを「架空の本の書評」のために惜しみなく使っている作品集である。読まないわけにはいかないし、おもしろくないわけがない。で、やはり次は本書『虚数』を読みたくなるわけだ。
 実際問題、知識の絶対量が少ないため、明らかに今読むのは勿体無い作品だと思われる作品である。『完全なる真空』も『虚数』も。が、そんな状態であっても、おもしろいのだから、後年もう一度読み返したら更におもしろいに違いない。
 本書は「序文集」であるから、三つの序文はそれぞれその形態によって、文体もレイアウトもまったく違う。まさしく職人芸というやつだろう。こんなに細かいのに、やっていることは結構バカである。「予知能力をもった細菌の培養」に関する本(読むとわかるが、非常にバカである)や、「『コンフューター(未来予測コンピューター)』を用い、予測された未来の百科事典」に関する本、である。マジメくさって書いているのだが、冷静に考えると、全くもって突拍子もない。
 が、目玉は何と言っても「GOLEM ]W」の講義録だろう。人間の知性を超えた知性をもった機械である「GOLEM ]W」の講義は所々わからないのだが、人類の知性を越えたところからの講義だからなのか、はたまた私の理解力不足なのがわからないところではある。が、これは見事だった。
 で、ぶっちゃけた話、読みやすい本とは言えない。言えないし、集中力が有り余っている時に読まないとよくわからないものなので、もう一度読み返したいところ。暇で読書欲が強い時に。

 架空の本の書評集『完全な真空』の方が傑作なので、先にそちらを読むのをオススメ。

(2001年12月10日更新)

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