Craig Rice
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『大はずれ殺人事件』クレイグ・ライス/小泉喜美子・訳(ハヤカワ文庫)
『大あたり殺人事件』クレイグ・ライス/小泉喜美子・訳(ハヤカワ文庫) |
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そんなわけでクレイグ・ライスなわけですよ。とりあえずネット上に限ったとしてもどこをどう押しても語りつくされているようなわけで私の頭のどこをどうひねってもそれ以上のものは多分出てこないと思うのだけども、まあその辺を気にしているとネット上で感想なんて書けないので棚に上げて書くことにする。 そんなこんなでやっぱりクレイグ・ライスと言えば、そのユーモアな作風が特徴だと思うわけで、何がすごいって登場人物たちが口を開けばシニカルだかユーモアだかウィットだかコミカルだかよくわかんないけど、とりあえずもう気の利いた台詞しか言わないところがすごい。そしてそんなこと言っちゃうとまあライス読んでないヒトからすればそれは言い過ぎだろって思われると思うんだけど、それを過言じゃないって言ってもいいんじゃないかと思うのだ。……いやまあライス読んでいるヒトからもそれはさすがにちょっと言い過ぎなんじゃないと言われそうで、まあちょっと言い過ぎたかもしんないなとちょっと思い始めたりしていなくもないけれど。けどまあこの会話の楽しさ具合はやっぱり類を見ない。 そしてそんな台詞ばかり言っちゃうその登場人物たちの造形がこれまたいいわけで、まずは主人公の3人。マローンは、警察にも悪党にも顔が利く腕っこきの刑事弁護士でそりゃもうスゴイヒトなんだけど、如何せん美女とお酒とポーカーが好きなもんだからいつも素寒貧の二日酔い。ちなみにどのくらい腕っこきかっていうと、このくらい腕っこき。 > 「弁護士をつけてやろう。彼女が孤児院で > 大量殺人を行い、警官が17人目撃してい > たとしても、無罪放免にできる弁護士をね」 > > クレイグ・ライス『時計は3時に止まる』(創元推理文庫) これほどすごい酔いどれ弁護士といつも一緒なのが、ヘレン&ジェイク・ジャスタス夫妻。夫のジェイクは一見優男に見えるけれどその実シニカルでユニークでそれでいて芯に一本通っているっていうかちょっと頑固でとってもヘレンを愛していて。一方妻のヘレンは億万長者の娘さんで街中のバーテンダーのアイドルなんだけど、大酒のみで博打好きでスピード狂。とってもキュートで何とも奔放なこの三人組がごちゃごちゃと事件をかきまぜながらてんやわんやと事件を引き起こしつつどたばたと事件を解決していく。 そんな魅力的な主人公たちの周りには、警察になりたくなかった殺人課の名警部フォン・フラナガンに、エレガントな街の親分マックス・フックに、ヘレンのお茶目なお父さんジョージ・ブランドに、それからそれから――もう挙げ始めたらキリがないくらい愛らしいキャラクターたちが脇を固め――っと本作「大はずれ・大あたり殺人事件」で忘れちゃならないのは何と言っても神秘的な美女、モーナ・マクレーン。彼女の一言が主人公たちをぐるぐると振り回すことになるのだけれど、読み進んでいくほどに読者はこのモーナの魅力にめろめろになってしまう。 そしてそんな魅力的なキャラクターたちが活躍するのが、1930年代のシカゴ。既に悪名高い禁酒法は廃止され、街灯から零れ落ちる明かりと、ラジオから流れるシャンソンと、落ち着いたバーテンダーに、酒場の喧騒。そして古びた扉が音立てて開く瞬間、そこに事件が起きる。そこはいつ事件が起きてもおかしくなく、エレガントな悪党どもの親分たちがいてもおかしくなく、腕っこきの刑事弁護士がもっとも活躍していそうな、お洒落な街、シカゴなのだ。そしてそこはまさしく、21世紀ニッポンに住む私は体験したことも見たことも聞いたこともないけれど、誰もが思い浮かべる古き良きアメリカなわけで、日本が舞台でもヨーロッパが舞台でも、こんなにぴったりな舞台装置はないわけなのだ。 そんなお洒落な舞台で魅力的なキャラクターたちが繰り広げる事件は至ってシンプル。いや、正確に言うならば始めはシンプル。しかしそこに現われたヘレン&ジェイクが、事件を解決するために、証拠を隠滅するわ死体を遺棄するわ容疑者の逃亡を幇助するわ事件を四方八方ひっちゃかめっちゃかにかき混ぜちゃって、どんどん事件は複雑な方へ複雑な方へ。でも、もちろん探偵役は事件を複雑にしちゃった彼ら自身なわけで、自分たちでひっかきまわした事件を前にうーんと頭を抱える三人は、困った時はとりあえずお酒を飲もうとお酒を手に取る。こいつら全ページの3割は素面じゃないだろと思うくらいお酒を飲む。しかし大好きなお酒を手にした彼らは、お酒でアタマを働かせ、シニカルにコミカルに時にシリアスにしかしやっぱりユニークに笑いあいながら、仮説を組み立てて壊して再構築してまた壊して、そして奔放に夜の街を駆けずり回って事件を解決してしまう。 そんな魅力的なキャラクターたちの軽妙洒脱な会話に笑いながら、1930年代の古き良きアメリカの雰囲気を味わえる上に、逸品のミステリとしても楽しめる。こんな贅沢が許されてよいものなのかしらんと思いながらも、一度読めばもう病み付きになっちゃうわけで、もう次の瞬間には、さて次はどの作品で振り回されようかなと考えてしまっちゃうような作品。 そんなこんなでクレイグ・ライスなわけですよ。軽妙洒脱なユーモアミステリを読みたいという方にオススメ。おもしろいですよ。
(2004年02月11日更新)
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