Theodore Hamilton Sturgeon
| 『人間以上』シオドア・スタージョン/矢野徹・訳(ハヤカワ文庫SF) |
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> 白痴は、黒と灰色の世界に住んでいた。飢えの白い電光と、恐怖のゆらめきのなかに。 という一文から始まる本書を読み始め、実は少々動揺してしまった。一体、作者がどこにつれていきたいのか全然わからなかったのだ。 物語はこの「白痴」の状況を語るところから始まっていく。「白痴」について数ページ割かれた後に場面は突如変わり、森の奥にある屋敷で暮らす父娘に焦点は移る。父親は2人の娘に対し、男というものは女とふたりだけになると、どういうふうに気が狂ってゆき、どのように有毒の汗が男のあらだにあらわれ、どのようにそれを女にそそぎかけ、それが女の皮膚に恐怖を生み出すことになるかを説明する。歪な教えを受け、そして屋敷の外に出たことがない姉妹。そんな彼女たちの様子が書かれ、またもや場面は移って白痴に戻る。その後、孤独な少年と天才的な少年が書かれ、悪戯好きな少女の話が書かれ、少女と出会った奇妙な黒ん坊の双子について書かれ――。 読者を振り回していく構成と文章とに合わせて、愛すべき登場人物たちもまた読者を振り回す。とほうもない白痴、物を言わない黒ん坊2人、モウコ病の白痴、いかれた天才。まともな人物はほぼいない。一体彼らはどうなるのか、物語は何処へ進んでゆくのか、これほどまでに先が読めない作品を読むのはなかなかない。 しかし、そんな彼らが紡いでゆく物語はひどく物悲しい。孤独とは何なのか、道徳とは何なのか。ひとりぼっちでいる恐怖と、結びつくことへの果てしない怯えが、延々と書かれていく。しかしそのラストには感動が待っている。に違いない。 SF評論家グロフ・コンクリンがスタージョンを評した言葉を拝借して終わりにするとしよう。 「この本を読む前に、あなたは静かに(静かでなくてもいいが)発狂するがよろしい。それがこの本を楽しむ唯一の方法である……」
(2003年2月16日更新)
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