末永直美

『百円シンガー極楽天使』末永直美(新潮文庫)

 なにぶん、世界が狭いものでこういう世界ってのはなかなか見る機会がなく今まで過ごしていたのだけれども、全然知らない世界なのに何故かものすごいリアルさが感じられるのはこれまたなかなかすごいことなのではないかなあと思うのだ。

 こういう世界ってのがどういう世界かっていうと、ドサ廻りの歌手たちの世界だったりする。

 主人公リンカをはじめとして、日米デュオと謳っているものの片割れは元ポン引きもう片割れはフィリピーナである健次郎&デイビッド、ジャズ・シンガー華保、「西川口の夜の帝王」にしてリンカの恋人の大樹――。出てくる人物は皆、魅力的――というよりも個性的なヒトビトばかりで、実際に自分の周りにはこういうヒトたちはいないけれども、しかし何とも言えないリアルさ、きっとこういう世界にはこういうヒトたちがたくさんいるのだろうなあと思わされるある種の臭いを持っているヒトビトを書くのが末永はとても上手い。
 そして、その登場人物たちが起こしていく事件――まあ事件というほどのものではないのだけれども、日々のゴタゴタのしみったれ具合がこれまた、うんきっとこういう世界ではこういうことが日常茶飯事どっかできっと起きているのだろうなあ、何ともしみったれていて貧乏くさくてでも何か不思議な明るさがあって――っていうようなこういう世界での日常を描き出すのがすごく自然でうまい。

 そして多分、その個性的な登場人物たちとそのリアルな日常を書き出していく中で、たまにポロリとまぎれこむ作者、末永直美の人生観を表しているような一文、がこれまた洒脱というか小粋というか。何とも言えない独特なニオイを持っていて。でも別に、それがすごくかっこつけていてなんか遠い世界の話のようだ――とかそういうことはなくて、とても身近で、うんまだまだそうそうのんべんだらりと過ごしながらたまにはちょっと頑張って踏ん張って生きていっても良いんじゃないかなと思わせてくれるような一文だったりして。

 しみったれていて貧乏くさくて、でもなんかすがすがしくてからっと明るい小説が読みたいヒトにオススメ。本書を紹介してくれた、えー、あー、何ていうかな、あの、その、何? えーと、某氏?に感謝感謝。

(2003年9月7日更新)

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