杉浦日向子

『ソバ屋で憩う』杉浦日向子とソバ連(新潮文庫)

 杉浦日向子」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろう。江戸の風俗をテーマとした漫画家だろうか。それとも、江戸の風俗を題材としたエッセイを多数書いているエッセイ作家だろうか。私の場合は、某テレビ局でやっている『お江戸でござる』の最後に出てくる江戸風俗研究家としての「杉浦日向子」という印象が一番強い。その江戸風俗研究家が「ソバ屋好き」として、ソバ好きのソバ好きによるソバ好きのための本を出している。

 筆者に言わせると「ソバ屋好き」には二つあるそうで、ひたすらソバの神髄を追い続ける求道者型と、ソバやでのやすらぎを求める悦楽型とがあるというらしい。この、悦楽型の代表となるのが、杉浦日向子と「ソ連(ソバ好き連)」である。おいしいソバを求めて日本各地のソバ屋を食べ歩いていく。この本に収録されているのは厳選されたお店101軒である。

 ――この紹介の仕方がまたうまいんだ。その店に入ったときの雰囲気とソバを口に入れた時の感触。そして、ソバ以外のその店の名物の美味しさ。読んでいるだけでもこれだけ美味しそうなのだから、実際に食べたらどんなに美味しいことか。ああ、ソバが食べたい。

 この本を読んでいると結構意外なところに意外な名店があることに気付く。「いつも通っているあの道の路地裏にソバ屋があったのか」「あそこにソバ屋があったっけか」とかとか。ちなみに、私が知っているソバ屋は3軒だけだった。逆に言うと、まだこの本に載っているお店98軒に行く楽しみができた。さて、手始めにどこに行こうかなどと考えてしまった。しかし、知っている3軒もそんな美味しいものがあったのか、とソバ以外の名物を食べに行きたくてたまらない。楽しみが増えるばかりである。

 また、この本で面白いのが所々に入っているエッセイと座談会である。エッセイではソバ屋でのマナーから、ソバと酒との楽しみ方などがテーマとなっている。ためになるし、普通に読んでみてもおもしろい。ふうむ、ソバに合う酒ってのはこんなのがあるのか……。

 もともとこの『ソバ屋で憩う −悦楽の名店ガイド101−』は1997年に出ていたらしい。完全リニューアル版として新潮文庫から復刊されている。この機会を見逃さない手はない。

 ――ああ、ソバの話を書いていたら、ソバ屋へ行きたくなってしまったではないか。よし、近くの店へ食べに行くことにしよう。

(2002年8月1日更新)

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