東海林さだお


『ブタの丸かじり』東海林さだお(文春文庫)

 これがもうスゴイのである。

 何がスゴイって今読み終えたばかりなのに、もう内容の大半を覚えていない。

 これはスゴイ。

 なかなかこんな読書経験はできないのではないか。
 いやまあ今まで読んできた本の内容をお前は覚えているのかと聞かれるとこれまたほとんど覚えていないわけなのだけれど、それでも読み終えた瞬間に内容を思い出そうとしてほとんど思い出せないってのはなかなかないことであるのも確かなのである。

 じゃあそんなもん読む必要ないじゃんと思われる方もいらっしゃるだろう。しかし読み終えた後に何も覚えていないこのエッセイのスゴイところは、読み終えたあとに何も覚えていないこともさることながら、読んでる間ずっとおもしろいってところがスゴイのである。

 これはスゴイ。

 なかなかこんな読書経験はできないのではないか。
 いやまあ今まで読んできた本はおもしろくなかったのかと聞かれるとこれまたほとんどがおもしろかったわけなのだけれど、軽々と読めてこれだけ楽しめるエッセイってのはなかなか読んだことがないってのも確かなのである。

 そしてまあ何がスゴイかっていうと、読んでいる間はおもしろかったクセに読み終えた瞬間にいったい何がどうおもしろかったのかをほとんど覚えていないところがスゴイ。
 これは何も私が健忘症だとか痴呆症だとかでスゴイのではなくて、万人受けする「おもしろいのに何も残らない」ものを書ける東海林さだおがスゴイのである。芸もこの域に達すればもう何やらスゴイんだかアホなんだか何がなにやらわからなくなってきてしまって、まあとりあえずは東海林さだおがアホだろうがスゴかろうがおもしろければそれで良いので全然かまわないのである、って感じの雰囲気を作り出してしまうところがこれまたスゴイのである。もうここまで芸として高めてしまった東海林さだおは人間国宝に指定されてもいいんじゃないかと思うごめんさすがに言い過ぎた。

 そういうわけで何が言いたいのかっていうと東海林さだおはアホなんじゃないかということが言いたかったのであるが、万人からこいつはもしかしてアホなんじゃないかと思われるようになるのは大変難しいことだと思うし、まあそういう人間になりたいなと少しは思うわけでと言っても別に100パーセントアホになりたいかと言われるとそんなことはなくてまあ例えば宇宙飛行士になりたいとか花屋になりたいとか大人になったら何になりたいかというのを1億3000万人の小学生にアンケート調査をしてみたとしてもしかしたら1人くらいはアホになりたいというヤツがいるんじゃないかいやいないかもしれないというくらいな感じで私の中にいる小学生の内1億2999万9999人が宇宙飛行士になってみたいと思うかもしれないが残り1人はアホになってみたいという気持ちがあるという程度の気持ちでアホになってみたいという話なのであるって一体ここまでくると自分でも東海林さだおを褒めてるんだか貶しているんだかよくわからなくなってきたのだけれどとりあえず褒めているのである。東海林さだおはスゴイ。なんだかよくわかんないけどスゴイ。とりあえず1億3000万人な小学生だったオトナはみんな東海林さだおを読んだ方が良いのではないか。いや読むべきである。そう私は主張したいのである。


(2004年04月12日更新)

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