田口久美子

『書店風雲録』田口久美子(本の雑誌社)

 「今泉棚」って言葉をお聞きになったことがあるだろうか。

 80年代半ば、リブロにおいて今泉正光が自分のセレクションで、人文書などによる画期的な棚を作って大量の思想書をベストセラーを売るようにばんばん売った棚「CONCORDIA」の通称である。80年代の半ば頃は、私もそこまで本に対する興味の幅も広くなかったため残念ながら「今泉棚」を見たことはないが、後になって「今泉棚」の話を聞きああ是非見てみたかったなあと残念に思った。まあ人文書に関しては今でもさっぱりだから見てみてもその凄さはきっとわからないだろうけど。

 本書は、その「今泉棚」に代表される個性派書店「池袋リブロ」の興隆と、その背景にあった80年代文化とはいったいどのような文化だったのかを、書店員の目から捉えなおしたものである。書店から見た80年代文化。うん、なかなか面白そうじゃないか。そう思って読み始め、一気に読み終えてしまった。
 私自身は80年代を生きてはいない。いや、80年代には確かに生きてはいたものの、それをまだ自覚はできていなかったからだ。その文化を理解しようとすることはしていなかった。だから、私にとっていわゆるポストモダニズムだとかニューアカだとかニューエイジだとかそういう80年代文化というものは伝え聞いたものであって、自分の目で自分の肌で実感したものではない。――実感したものないものなのだけれど、それでも本書を読むと、ノスタルジックな、回顧的で懐古的な思いが湧いてくる。それは多分、80年代を一応は実際に生きたというのもあるし、80年代の香りが未だ残る90年代を自分が生きたからってのもあるだろう。しかし、それは80年代文化と90年代文化との違い、今はなき文化に対する懐かしさのようなものが、本書から感じられたからだ。そしてそれは、著者の、昔を振り返るその眼差しが、古き良き時代へ対する思いを行間から滲み出しているためだからだ、そう思う。その暖かい眼差しは共に80年代を過ごさなかった読者にも同じ感覚を共有させてくれる。

 80年代文化、書店業界に興味がある方にオススメ。

(2003年12日17日更新)

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