筒井康隆

『パプリカ』筒井康隆(文春文庫)

 筒井さんの全著作を読むのは大変なので、ひとまず有名どころから押さえていこうとしているのだけれども、ちょー有名どころの長編で残っていたのが本書『パプリカ』。今後はちょー有名どころの短編を読んでいこうと思う。
 ……感想が終わってしまった。気を取り直して。

 さて、パプリカ。

 患者の夢の中に潜入し、その無意識へ感情移入することで精神病の治療を行なう夢探偵〈パプリカ〉こと千葉敦子。彼女と彼女が勤めている精神医学研究所を中心に物語は進められていく。これがまた非常にシンプルな話で、しかしシンプル故にそのストーリーに引きずり込まれるようにページをめくるスピードは上がっていく。ホントに読みやすいので一気に読んでしまった。

 んで、文春文庫版の解説では、川上弘美が本書はいくつかのレベルで楽しめるみたいなことを書いていたのだけれども、私は普通に楽しんで終わりました。まる。

 ということで、パプリカの感想はこれで終わり。




























 さて。

 筒井康隆ってヒトは、私がファンになる要素を確実に持ち合わせていて、普通だったらファンになっても全然おかしくないヒトなのである。まあ、何て言うんだろ、話はじめると長くなりそうなので今回は省略するものの、SF用語のセンスオブワンダーと言えばよいんだろうか。センスオブワンダーってのが実際に普遍的にはどのような意味で使われているのかよくわかっていないものの、多分「読み終えた後に、今まで見えていた世界を揺るがしてくれるもの」「物の見方の転換を図るもの」とかそんな意味で私は使っているのだけれど、そういうのの典型な気がするのである。そういうのに典型があるかどうかはさておくとして。何となく言いたいことがわかってもられば。わかってくれ。

 ということで、私のツボにくるような小説ばかりを書いてくれているのにもかかわらず(ってちょー有名長編くらいしか読んでないけど)、私は筒井康隆が好きになれない。

 で。

 好きになれないのが何故なのか、パプリカを読んで何となくわかった。結論だけずばっと言ってしまうと、私はグロテスクなものが嫌いなのである。
 そしてそれが、筒井康隆を好きになれない理由なんだと思う。

 別にグロテスクと言っても、吐き気がするような怪物が出てきたりとか、気味の悪い死体が出てきたりとかそういうのではなく(っていうか、まあ出てくるんだけどそれはさておき)、グロテスクな心理描写と言おうか何と言うべきかよくわからないがそういった人間的なグロテスクさを描写するのがうますぎるのだ、筒井康隆というヒトは。

 筒井のブラックな「どたばたもの」はそこが面白いとこなんだろうし、きっとそれが好きというファンの方もいるとは思うものの、どうにもこうにもそういうのがダメなのである。

 『パプリカ』で言えば、敵方である乾や小山内の描写というのももちろんあるが、しかしそれ以上に本書全体を覆っているグロテスクさがある。主人公パプリカは聡明で美人だし、能勢と粉川は頼りになるしカッコイイ男たちなのにもかかわらず、彼らが本書に含まれるとどうにもこうにも気味が悪い。何ともグロテスク。文春文庫版解説で川上弘美がうまいことを言っていて、多分にそれは「典型」の「過剰さ」からくるものだったようなのだけれども、一体それがどのようなものだったかは本書ならびに川上弘美の解説を読んでもらいたい。

 ところで、グロテスクという言葉はあまりイメージが良い表現ではなかったと思うものの、私としては一番適格な感じがする言葉なので使わせてもらってしまったのだけれども、本書を貶しているのではないことを最後に明記しておきたい。ストーリーテリングが高く、良いエンターテインメント作品だと思う。

(2003年8月23日更新)

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