Jean Vautrin
| 『グルーム』ジャン・ヴォートラン/高野優・訳(文春文庫) |
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> おれはくそまみれだ。おまえはくそまみれだ。みんなくそまみれだ! こんな作品の前では言葉は無力だ。 正直なところ、暗黒小説は好きではないし、さほど読んでいない。読んでいないけれども、しかしたまに読むとその破壊力は計り知れないものがある。たまに読んでいるからか、実際その作品が凄いのかどちらかはわからないが、その衝撃度はものすごいものがある。例えばジム・トンプソンの『内なる殺人者』『ポップ1280』。例えばドナルド・E・ウェストレイクの『斧』。特にジム・トンプソンの『内なる殺人者』はまさしくノワールの帝王。 ということで、世間で流行っているらしいノワール。もう本書はこれぞノワール、嵐の日に外に出て叫びたくなるくらいすごい。どのくらい凄いか、というとこれはもうものすごく凄い。いや未読の方には、お前は何を言っているんだ、と言われそうだが、きっと既読の方には頷いてもらえるだろう。いや、無理かな。そうか、無理か……。 まあそれはともかく、本書では特異なキャラクターたちの突飛な行動も読んでいて怖いものがあるのだが、それよりも何もよりも特に、主人公ハイムが現実と妄想との区別がつかなくなっていく様は読んでいてかなり怖い。いや、もともとハイムの中ではその区別はほとんどついていないのだ。そして多分本書で怖いのは、読んでいるこちらがその区別の判断がつけられなくなってくるところにある。読み始めると最初はもう勢いに呑まれて何が何だかわからないまま話に押し流されていく。一体これは何のどういう物語なのか、一体どういう方向へ話が流れていくのかわからない。わからないまま読み進めていくと、人と殆ど接触せず家に引き篭もるハイムの現実の行動と、日記につけている妄想の中での行動との区別が、徐々にこちらにもわかるようになる。そこである程度読者も安心する。なるほどそういう仕組みになっているのかとこちらが納得したところで、今度はハイムの妄想が現実を侵しおぞましい事件を引き起こすようにになっていき――何かが狂いはじめるのだ。そのうち読んでいるこちらにも一体どこまでが現実なのか妄想なのかわからなくなって物語はラストへと収束していく。 で、ラストは一体どちらだったのか私にもわからなかった。はたして、あれは現実と妄想と一体どっちだったのだろう。 本書を紹介して下さったメガネ@シャガクさんと、譲って下さったK野さんには感謝。感謝感謝感謝。すげえよ、これ。 最後に近ちゃんさんの紹介文を紹介して筆を置く事にする。これぞまさしく本書の紹介。これ以上の言葉もこれ以下の言葉もいらないだろう。 > チェキ! フル・オブ・シット! アイ・アム・フル・オブ・シット! > ユー・アー・フル・オブ・シット! エブリバディーズ・フル・オブ・シット! チェキ! (『2002年 BOOKLET春号』所収)
(2002年12月28日更新)
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