Ian Watson


『エンベディング』イアン・ワトスン/山形浩生 訳(国書刊行会)

 グロテスク。本書はグロテスクだ。

 タイトル「エンベディング」は、訳すと「埋め込み」という語になる。これは「すべての言語に共通する普遍性を持ち、現実を直接認識できる究極のメタ言語構造」のこと、なんだそうである。この「埋め込み」という概念をテーマにした言語学SF、それが本書だ。

 その語りは多視点構成からなっており、読みやすさにも欠けるため、正直なところ序盤は取っ掛かりづらい。しかし読み進めていくと、どうやら3つの話が混ざりながら語られていることがわかる。言語障害を持つ子どもたちに架空の人工言語を教え、そこからどのような世界認識が形成されるか実験する研究所。絶滅寸前のインディアン部族がドラッグによりトランス状態になった時にのみ発生する言語とその世界の探求。常に脱現実を図ろうとするエイリアンとのファーストコンタクト。この三つの軸が徐々に一つの物語へと収縮し、破綻する。

 ワトスンは、小説のバランスなどは、たぶん考えていない。ストーリーに対するアイデアの比重がアホみたいなくらい大きい。ワトスンはこの小説に、これでもこれでもかと言語学を押し詰めて、これでもかこれでもかと世界認識に関するアイデアを詰め込んでいく。たぶんワトスンにとって、キャラクタの造形などは二の次で、ストーリーテリングなどは三の次だったはずだ。アイデアを詰め込みながら、ワンアイデアでのみ成り立っている小説――しかしそれでもぐいぐいと読ませる。ぐいぐい読ませてしまうワトスンはスゴイ。

 書かれる世界もやはりグロテスクだ。歪な世界観をもつ人々と、歪な現実。物語の冒頭では、実際にはいわゆるグロテスクな話などしていないにもかかわらず、その濃密な空気に接するとグロテスクさに圧倒される。しかしグロテスクな印象は受けるもののいったいどこがどうグロテスクなのだろう――とクビを傾げながら読み進めていくと、物語が進行するに連れて否が応にも増していくその濃度。そして、そのグロテスクさはアマゾンで具現的に顕現する。そのシーンを抜粋すれば本書の粗筋が説明でき、本書のテーマが浮かび上がってくるといっても過言ではないだろう。本書が漂わせていたグロテスクさがまさにそこにある。

 これはスゴい!と叫ぶのは控えよう。これが傑作であるかどうかは各人の判断による。声高にこの作品が好きだ!と大音声で唱えるのはやめておこう。人間性が疑われる。

 本書はグロテスクだ。それだけは保証しよう。

(2004年12月1日更新)

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